第8話 それは、とある広間と病室での一幕。(前編)
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ここで魔法世界の暦について説明したいが、そのためにはまず魔法世界に伝わる『七属性の守護者』について話しておかなければならない。
この世で一番最初に魔法を発現させた『始まりの魔法使い』。その名をメイジといったが、『七属性の守護者』とは、そのメイジに付き従ったとされる七人の弟子を指す。
アギルメスタ。
ウェスペルピナー。
グランダール。
ガングラーダ。
ウリウム。
ライオネルタ。
ガルガンテッラ。
彼らはメイジに教えを乞い、メイジの特殊な力を我が物とし、それぞれがまた新たなる特性を持った力を生み出した。メイジはそれを『属性』と称した。
アギルメスタは、火を。
ウェスペルピナーは、風を。
グランダールは、雷を。
ガングラーダは、土を。
ウリウムは、水を。
ライオネルタは、光を。
ガルガンテッラは、闇を。
メイジと七人の弟子は、この特殊な力を世に広めるべく、世界中を旅したという。
メイジは自分が発現した力は修練によるもので、誰にでもできるものだと信じて疑わなかった。事実、彼が最初に弟子とした七人は、その全てが同じ力を発現させたし、彼らはそれに加えて新たなる特性を持った力をも生み出したのだ。
得手不得手があるであろうことは、メイジと七人の弟子の間で理解していた。七つすべての属性が扱えたのはメイジのみで、七人の弟子たちは、それぞれが発現させた属性しか扱うことができなかった。
それでも。
彼らは、自分のことを、自分たちのことを、決して特別な存在だとは思っていなかった。
しかし、彼らは旅の過程で、自らが特別な存在であると知ることになる。
メイジや七人の弟子が操る特殊な力とは、先天的な才能なくして発現はできない。人間が持つ生命力の他、何か別の力を一定以上有するものでなければ、この特殊な力は扱えない。
効率が悪い、とアギルメスタは言った。
世界の方々を旅し、教えを広めても、『当たり』でなければ力は習得できない。ならば、我々が直接出向かなくとも力が習得できるような、別の手段を考えるべきだと。
それに応えたメイジは、七人の弟子たちの血を材料として、特殊な杯を造り上げた。
それぞれの弟子の、それぞれの力を宿した、それぞれの杯。
先天的な能力を持たぬ者に意味はない。しかし、その杯は爆発的な勢いで以って魔法使いの絶対数を増やしていくこととなる。
その偉業を称え、メイジは『始まりの魔法使い』と、七人の弟子たちは『七属性の守護者』と、それぞれ称された。
時は流れ、魔法世界の暦の話に戻る。
魔法世界の暦には、建国に際し王として君臨したガーナ・エルトクリアが、『七属性の守護者』の名をそれぞれ割り振った。
一年は七ヶ月。一ヶ月は52~54日。週の概念は無い。
【魔法世界暦】
ライオネルタ 53日(※閏年のみ54日※)
ウリウム 52日
ガングラーダ 52日
ウェスペルピナー 52日
グランダール 52日
アギルメスタ 52日
ガルガンテッラ 52日 計365日
※魔法世界の暦ライオネルタ01と日本の暦1月1日には、13日分のズレ有り※
これを踏まえた上で、以下に示すのがアギルメスタ杯の日程である。
【アギルメスタ杯日程】
グランダール49 予選Aグループ
50 予選Bグループ
51 予選Cグループ
52 予選Dグループ
アギルメスタ01 本戦
02 本戦
03 スペシャルマッチ
今日の日付はグランダール47。
つまりは大会2日前である。
そして。
その大会を2日前に控えた今。
とある場所に。
矛先を突きつけあえば、魔法世界が破滅しかねないほどの実力を有した者たちが顔を揃えていた。
★
魔法世界エルトクリアの頂点に居を構える王城。
そのとある広間にて、魔法聖騎士団員の緊張を孕んだ声が響き渡った。
「“旋律”リナリー・エヴァンスを御通し致しますっ」
石造りの開けた間だった。
両側面には等間隔で高さ3mほどになるガラスが填め込まれており、その間にはエルトクリアの紋章が刺繍された真紅の絨毯が吊るされている。
その広間は、直方体として奥に長い造りになっていた。日本の小中学校の平均的な体育館くらいの広さはあるだろうか。
入り口の扉からは真紅の絨毯が部屋を横断するかのうように、一直線に伸びている。それは最終的に五段の段差を上がり、1つの椅子へと伸びていた。
広間の中央にてその絨毯を挟み、二列で客人を迎えるは、王族守護の使命を帯びる魔法世界最高戦力。
キング・クラウン。
クィーン・ガルルガ。
ジャック・ブロウ。
シャル=ロック・クローバー。
アルティア・エース。
ウィリアム・スペード。
クランベリー・ハート。
単独で国家間の戦争の流れを変えられる力を持つと謳われる、『トランプ』の面々である。
その『トランプ』の背後には、100名近い魔法聖騎士団の面々が列を為していた。
「ようこそ。歓迎しようぞ、“旋律”よ」
入室したリナリーに対して誰もが口を開かぬ中、代表してクィーン・ガルルガがそう唱えた。
「玉座は空、『トランプ』も足りない状態でそう言われてもね」
「そう言うな。我が主の事情はそなたも知るところであろう?」
「……また出たのね、脱走癖が」
リナリーは呆れたと言わんばかりの感情を隠さずにそう言う。
「無礼だぞ“旋律”」
「よい、ジャック。よい」
身じろぎはひとつせず。
視線のみをリナリーに向けて叱責したジャック・ブロウは、隣に立つキング・クラウンによって窘められた。
「今はダイヤに追わせておる。直に捕まるじゃろう。しばし待て」
それを軽やかにスルーしたクィーン・ガルルガがリナリーに告げる。しかし、リナリーはため息を吐きながら首を横に振った。
「私だって暇じゃないのよ。王女がいなくとも話くらいはできるでしょう。どうせ喋らされているだけなんだから」
「“旋律”、貴様」
「よい、と言ったぞジャック」
ジャック・ブロウから僅かに漏れ出た怒気を払うようにキング・クラウンは続ける。
「エヴァンスよ。悪戯に挑発するのは止めて頂きたい」
リナリーは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「今のは聞き流しておこう。間違っても宰相の耳に入れてくれるなよ」
「はいはい」
クィーン・ガルルガの言葉に、おざなりに答えたリナリーが視線だけを戻す。
「あぁ、そうそう。クランベリー・ハート。随分と私の部下のことを可愛がってくれたみたいじゃない」
「え」
急に矛先を向けられたクランベリー・ハートが硬直した。
「美月から報告は受けた。『トランプ』は『黄金色の旋律』への敵対を表明したという認識で構わないのかしら。そうなってくると、私がここにいる理由が変わってくるのだけれど」
ざわり、と。
広間に充満する空気が一変した。
「控えぃ!! 控えぃ!!」
けたたましい金属音と共に構えをとり出した魔法聖騎士団の面々に、ジャック・ブロウが吠える。その命令を耳にして、魔法聖騎士団の面々は辛うじて一歩を踏み出すことを抑えられた。
「……エヴァンス。悪戯に挑発をするのは止して欲しいと申したはずじゃが」
あくまでも冷静に。
ゆったりとした口調でキング・クラウンは言う。
「こちらに茶化す意図はないわ。問題なのはそちら側の方針ね」
「……どういうことじゃ、ハート。報告にないぞ」
若干棘のある声色でクィーン・ガルルガが唸るように聞いた。
「え、えーっとですね」
クランベリー・ハートが目を泳がせる。その様子を見て『トランプ』の後ろに控える魔法聖騎士団の面々がざわめいた。
「なぜ即答できないのだ、ハート。……貴様、まさか本当に?」
信じられないといった風情でジャック・ブロウが更に問う。
「……なんたることを」
クィーン・ガルルガが小さく呻いた。
「……何だよ、勝手に面白そうなことしやがって」
「下らないことを口走るな、ウィリアム。お前が口を挟むとややこしくなる」
恨めしそうな視線をクランベリー・ハートへと送るウィリアム・スペードを、隣に立っていたアルティア・エースが一喝する。
「して、そちらに被害は?」
額に手をあてながらクィーン・ガルルガが問う。
「美月に同伴していた1人が負傷。リスティルの病院へ向かっているわ」
「え、ちょ、ちょっと私は何もしてな――」
「黙れ、ハート。すまぬ“旋律”、……病院の者には、身分を問わぬよう手配しよう」
「あら、気が利くわね」
口調に反して冷ややかな声でリナリーが応えた。
「おい」
「はっ」
ジャック・ブロウが一番近くにいた騎士団員に指示を出す。騎士団員は一礼して広間を後にした。
「……“旋律”」
それを見送った後、改めてクィーン・ガルルガはリナリーの名を呼んだ。
「そちらの方針が変わらないのなら構わないわ。好きにしてちょうだい」
「感謝する。ハート、そなたは後でベニアカの塔へ来い。話はそこで詳しく聞かせてもらおう」
「……は、はいぃ」
既にクランベリー・ハートは泣きそうだった。鼻息荒くクィーン・ガルルガがリナリーへと視線を戻す。
「して。聞けば『黄金色の旋律』から大会へ出場させるそうじゃな」
「ええ。小耳に挟んだ情報では、そちらはエースを出すそうね」
「耳が早いの。その通りじゃ」
リナリーとクィーン・ガルルガの視線を集めたアルティア・エースは、無言で一礼した。
「こっちとしては、直接連絡を寄越したスペードかクローバーが出てくるものかと思っていたのだけれど」
「そうだろ!? そう思うよな!? 俺もそうだと思ってたんだぼっ!?」
「うるさいぞウィリアム。近くで喚きたてるな」
突然騒ぎ出したウィリアム・スペードに肘打ちをきめたアルティア・エースが、冷徹な声でそう告げる。
「お前は論外じゃよ、スペード。そなたは一度、中条聖夜に後れを取っておろうが」
「はあ? な、何の話です?」
痛む腹を抑えながら、本当に分かっていなさそうな表情でウィリアム・スペードが問う。
「自覚すら無しか。去年の今頃、魔法世界に侵入者の一報があったじゃろう」
「はぁ……、え? うそ、あれセーヤナカジョー!?」
クィーン・ガルルガは答えずに重苦しいため息を吐いた。
「あやつの能力を聞いた時点で察しろ愚か者め。……にしてもじゃ、『黄金色の旋律』は中々優秀な駒が揃っておるようじゃな」
「基本的に優秀なのしか拾ってないし」
クィーン・ガルルガからの言葉に、リナリーはしれっとそう答える。
「優秀、……の。中条聖夜は戦闘もこなすのか?」
「そちら方面はまだあまり。だから今回の大会がいいきっかけになれば、と思ってるわ」
「なるほど。その程度の実力は有しておるのか。まあ、油断していたとはいえスペードの猛攻を回避できるほどの手練れじゃ。有望じゃの」
「あげないわよ」
「交渉の余地くらいは欲しいものじゃの」
そこまで話したところで、クィーン・ガルルガの口が止まった。リナリーを除く広間内の全員が姿勢を正す。
徐々に大きくなる足音の持ち主は、直ぐに姿を現した。
★
「容態は落ち着いてきているようです。魔法の使い過ぎでしょう。しばらく寝ていれば良くなりますよ」
それでは、と一礼して医者は部屋から出て行く。パイプ椅子に座っていた美月は途端に脱力した。
「はあぁ……」
ぐんにゃりする。手負いの幼女を背負って世界最高峰と名高い魔法使いから逃げ果せたのだ。気が抜けてしまうのも仕方が無いと言える。
しかし、脱力タイムはそう長く続かなかった。
退出していった医者と入れ替わるようにして扉がノックされる。来訪者の顔を見ずとも、美月は誰が来たかを知っていた。だからこそ通したくはなかったのだが、ここまで連れてきてもらった恩もある。結局、無下にはできずに入室を許可した。
「お邪魔しまーす」
「失礼致します」
日本語を話す、2人組の少女だった。
2人とも黒髪。1人はくせっ毛のあるショートカット。もう1人はストレートに肩まで伸ばしており、その長い髪は片目を覆ってる。そして、2人とも美月が見たことのない制服を着用していた。
「どうも」
規則正しい寝息を立てるルーナへと視線を泳がせた後、美月が頭を下げた。
「さっきは助かりました」
「なんのなんの。困った時はお互いさまってね。それに、ウチの唯もキミへ刀を振り回しちゃったし」
「も、申し訳ありません」
片目の隠れた唯と呼ばれた少女が、顔を赤くしながらペコペコと頭を下げる。唯の背中に斜め掛けされた刀が、チラリと美月の視界に入った。
(……んん? あの刀、どこかで?)
真剣だったが、刀の柄と鞘は木製だった。それを見た美月が僅かに顔をしかめる。
「どうかした?」
「え? う、ううん、何でもない」
唯の失態をにこやかに責めた女の子が問うてきたが、美月は慌てて否定した。
「それじゃ、自己紹介しとこうか。ボクは天道まりか。んで、こっちの片目ちゃんが浅草唯」
「……片目ちゃん言うな」
「なぁに殺人容疑一歩手前ぎりぎりなんとか踏み留まれた唯?」
「浅草唯と申します。先ほどは大変な失礼を」
ほんの数秒前に小声で唸るように文句を垂れた少女とは思えぬ、美しい一礼だった。コントかよ、と心の中でつっこみながら美月も今一度頭を下げる。
「鑑は、こほこほっ。ごめん。カガミ・ハナです。こっちはルーナ」
「あれ? 姉妹じゃなかったの?」
和風な名前の美月に対して、明らかに洋風なルーナの名前を紹介されたことで、まりかは首を傾げた。
「えーと、親戚、……とか?」
美月が目を泳がせながら答える。
「なぜ疑問形」
「遠い、……感じで」
唯への回答に対して、どんな感じだ、と美月は自分で説明しながら思った。
「そうですか」
唯はそれ以上の詮索をしなかった。誤解が解けたわけじゃなく、単に深入りを避けようとする配慮であることは、美月もすぐに察する。
(……設定はきちんと用意しておくべきだったかも。でもこんな事態になるとは思わないしなぁ……。それに、ルーナの名前出して良かったのかな)
「それで、どういう状況だったわけ? ルーナちゃん、風邪ってわけじゃないんだよね。もう熱は引いているみたいだし」
思考の海へ沈もうとしていた美月を、まりかの質問が掬い上げる。
「えーと、それは……」
「まりょくに、……よった」
答えに窮した美月に代わり、寝たままのルーナが答えた。
「ル、ルーナ」
「あ、ごめんね。起こしちゃったか」
「きにしなくて、……いい」
美月とまりかの声掛けにそう答え、ルーナがゆっくりと上半身を起こす。
「魔力に酔った、……ですか。魔法世界へは最近?」
「ん。きのう、きた」
「なるほど。確かに『外』と違い、この世界は魔力濃度が異常なほどに濃いですから。慣れない間は体内の魔力が誤作動を起こす可能性もあります」
ルーナの回答を聞き、納得したといった表情で唯が頷いた。
「もう大丈夫なの?」
「へいき。もともと、……それほどさわぎたてるものでもない」
席を立って寄ってくる美月に視線を合わせ、ルーナは言う。
「何にせよ、良かった良かった。キミ、さっきまですっごい熱かったんだから。よほど魔法世界の魔力と相性が良いんだろうねぇ」
「相性ってあるの?」
「ん? そりゃもちろん」
美月からの質問に、まりかは頷いた。
「地球上に数ある龍脈。そこから生れ出る魔力は、地方地方によって性質が若干異なるんだ。相性の悪い地域なんかに行っちゃうと、初級魔法を発現するだけでも違和感を感じるだろうね」
「へぇ」
「とはいえ、それほどの違いがあるわけでもありません。結局は同じ星から生み出される魔力ですから。今回のケースは稀でしょうね」
(……稀も何も嘘っぱちだもんね)
ルーナが高熱を出したのは、クランベリーとの戦闘で無理した力を使ったからだ。人差し指を立てて講釈するまりかに続くようにして口を開いた唯に、美月はひっそりと心の中でそう思った。
「えーと、それでそっちは?」
「ん? そっちって?」
ひとまずボロが出る前に話題を変えてしまおうと思った美月は、さっさと話題を切り替えることにした。ただ、質問が抽象的過ぎて伝わらなかったのか、まりかと唯が顔を見合わせる。
「いや、だって今昼過ぎだよ。制服着てるみたいだけど学校はいいの?」
「はっはっはー!!」
美月からの質問に、まりかはいきなりわざとらしく笑い出した。
そして。
「何を隠そうボクたちは学校をサボったのだよ!!」
両手を腰に当てて、全然格好よくないセリフを格好よく宣言する。
「……隠さない姿勢は大変素晴らしいですが堂々と告白しないで頂きたい」
「つまり、サボった、と」
「……はい」
美月の指摘に、縮こまるようにして唯が白状した。
「なんでまた」
「いやぁこれにはのっぴきならない事情ってやつがありましてね」
美月の傍によってひそひそ話をするかのように言うまりか。
「……何で急に怪しげな感じになってんのさ」
ノリ良いなコイツ、とか思いながら美月が先を促す。
「聞いて驚け見て驚け!! ボクと唯はなんとアギルメスタ杯に出場するのだー!!」
「えええええええええええええ!?」
「お、良いリアクション」
「……これが普通のリアクションでしょう」
美月のリアクションを見て、思いの外嬉しそうなまりかとうんざりした様子の唯が好き勝手な感想を述べた。
「アギルメスタ杯って相当ヤバい大会だって聞いたんだけど」
無論、情報源はリナリー・エヴァンスである。
「そうそう。そのヤバい大会にボクたちが出るってわけ」
「いやいやいやピースとか別にいらないし」
Vサインでおどけてみせるまりかに美月がつっこむ。
「……うそは、よくない」
「嘘じゃないけど」
ルーナの言葉に、まりかが答える。
「まほうがくしゅういんは、『しゅごしゃ』のたいかいさんかは、みとめていないはず」
「良くご存知ですね」
ルーナからの指摘に、唯が眉を吊り上げた。
「……『そと』からきていても、そのくらいはしってる」
「そうですか」
唸るように答えるルーナへ、唯はそれだけ告げて視線を美月へと戻した。
「残念ながら事実です。無論、学習院には許可を頂いています」
「こんかいは、アギルメスタ」
「その意味まで理解しているということは、大会目当てでこちらへ?」
「え? うん、そんな感じかな。ほら、観戦チケットもあるし」
ルーナではなく美月へと問い掛けられたため、美月はせっかくだからその目的ということで便乗してしまえ、とクリアカードを取り出した。
「おっ、本当だ。観戦チケットがある。って、これって!?」
まじまじとカードを見つめるまりかは、何かに気付いて美月のカードに表示されている『【アギルメスタ杯】観戦チケット』の文字をタッチした。
すると、項目が細分化されて、以下のように表示された。
【アギルメスタ杯】観戦チケット
大会通しチケット(スイート)
・予選Aブロック スイートルーム
・予選Bブロック スイートルーム
・予選Cブロック スイートルーム
・予選Dブロック スイートルーム
・本選1日目 スイートルーム
・本選2日目 スイートルーム
・SM スイートルーム
「観戦席がスイートルームぅぅぅぅ!? しかも大会7日間通しで!? ガチじゃん本気じゃん!! 超ミーハーじゃん!!」
「お、おぉぅ……」
前のめりになって叫ぶまりかに、うまく答えられない美月は微妙な声を上げた。持っているチケット情報が細分化して表示できることを知らなかったのはもちろん、そもそも大会は予選本選計2日間、ぎゅうぎゅうづめの指定席に座って声を張り上げて応援する自分を想像していた美月からすれば、この情報はまさに青天の霹靂である。
ただ、会場の設備について詳しく知らなくてもまりかの反応とスイートの文字を見ておおよその想像は付いてしまった。
(……これってプレミア価格とか付いちゃうレベルの)
自分の持つクリアカードの文面を見ながらぷるぷるし出す美月。それを怪訝な顔で見つつも唯は口を開いた。
「なるほど。大会目当ての観光客でしたか。しかし、余裕を持って入国しているのは素晴らしいことです」
「何の余裕?」
「……たいかいぎりぎりにこようとすると、たいへん。アオバはいつもパンクする」
唯ではなくルーナが答えた。唯が頷く。
「そういうことです。当日に入国しようとして許可証が無く、結局大会観戦に間に合わないという観光客もザラにいるくらいですから」
「あー」
魔法世界の入り口の出来事を思い出した美月は、心の底から納得したと言わんばかりの声を上げた。
「まあそんなことはどうでもいいのさ。だってハナちゃんたちはもうここにいるんだもんね」
本当にどうでもよさそうな感じでまりかは言う。
「ねえねえ!! そんなことよりさ!! スイートな通し券を持ってるってことは、当然大会は全部見に来るんでしょ!?」
「ええ、まあ、そんな感じで」
そしていきなりテンションを上げるまりかに、若干ヒきながら美月が頷く。
「じゃあさじゃあさ!! ボクたちのこと応援してよー!!」
「そ、そりゃあ構わないけど……。本当に出場するの?」
「もちろん!!」
両手を振ってアピールしてくるまりかに、美月は苦笑した。
「どうしてそんな危険な大会に。賞金? 名声? それとも単なる力試し?」
「んー」
美月の質問に、前のめりになっていた上半身を起こしてからまりかは唸る。
「あー、今のはちょっとした好奇心だから、別に言いたくなかったら……」
「んーん。別に言えないわけじゃないよ。ちょっとぶちのめしたい奴らがいてさ」
「ぶ、ぶちのめすって……」
思いの外殺伐とした言葉が飛び出してきたせいで、美月は一歩退いた。
「ラ、ライバルとかそういうの?」
「そんな綺麗な関係じゃないよ」
今までのトーンが嘘のように低く唸るまりか。
そして。
「グループ名は『黄金色の旋律』。ボクはこいつらのことを、絶対に許さない」
「え」
「……あー」
固まる美月。
その隣のベッドで、ルーナだけは訳知り顔で視線を外した。
今更ではございますが、『テレポーター』のブックマーク登録10000件突破を記念しまして、短編を書こうと思います。
そこで、どのキャラの短編が読みたいか、アンケートをとらせて頂こうと思います。
以下がそのURLとなります。
http://start.cubequery.jp/ans-01742143
余計な登録等は一切なく、ただ好きなキャラクターを選ぶだけです。皆さまのお気に入りキャラを知るいい機会だと考えているので、ぜひご協力ください。
アンケートの期限は7月末まで(この小説を頻繁に確認している人は、そう多くないでしょうから)。
記念ssは、8月中旬までには公開する予定です。
よろしくお願いします。
【※追記※】
確認したところ、スマートフォンでは直接ジャンプできない場合がございます。私のブログの『メインページ』からもジャンプできるように設置しましたので、繋がらない方は、お手数をお掛けしますが一度私のブログを経由して頂きますようお願い致します。
http://sola.bangofan.com/