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番外編 だんらん

ガチャ、とドアが開く音がする。ついで聞こえてくる『ただいま~』という元気な声。

「…・・母さん!!赤ちゃん、どう?動いた?男?女?名前は、決まった?」

「ちょっとちょっと、拓哉。一度にたくさん質問されても母さん答えられないわ」

 そう言うと、ランドセルを投げ捨てた息子を注意する。

「まったく、せっかちなんだから。でもねまだ赤ちゃんは動かないの」

「なんでー?」

「んー。まだ、それぐらいになるまで成長してないからかな」

「じゃあさ、男?女?」

「残念。それもまだわかんないんだな」 

「えぇー」

 そう言ってしょげる拓哉の頭の上に、大きな手が置かれる。

「まぁまぁ。そう焦るなって。そんなにすぐ分かってもつまんないだろう?」

「わぁ、父さん帰ってきてたの?」

「ああ。母さんが大変だろうからな」

 大きな手の主は、そういって息子の髪をくしゃくしゃにした。

「じっくり待とう。じっくりな」

「そう言って真っ先にベビー服買ってきたの、どこの誰だったかしら?」

「さぁ?貴方の旦那様だったような気がしますけど?」

 最近のこの家の中心は、私―ではなくて、私のお腹に宿る、新しい命。拓哉にとっては、10歳以上も年が離れた弟か妹だ。


「拓哉が、お兄ちゃんかぁ…」

 この甘えっ子が、お兄ちゃんかと思うとなんだか不思議な感じがする。父さんに習って、私も甘えっ子ちゃんの頭をくしゃくしゃに撫でる。

「わわっ。母さんまで。やめろって」

「んー?いいじゃない。おにーちゃん」

「お、おにーちゃんって…」

 ふと、拓哉が私のお腹を見る。まだ全然大きくはないけど、たしかに命が宿っているお腹を。


「拓哉が、兄貴ねぇ…」

 父さんはうなづき、さっきの私と似たようなことを口にする。

「この甘えっ子が!!」

 確かに拓哉はずっと一人っ子で、デレデレに甘えっ子だった。だから、それが突然ピシッとしたお兄ちゃんになるとおもうと、なんだかむず痒い。

「拓哉は、弟と妹、どっちがいいの?」

「俺?俺はねぇ…」

 まじめに考える拓哉。それを見守る父さんと私。こういうのを、幸せっていうんだろうか。

「うーん。弟だったら、一緒にサッカーとかもできるしなぁ…んーでも」

「でも?」

「でも、やっぱり妹がいいかな。女の子はやっぱり特別に可愛いし」

 そして、とびっきりの笑顔を見せる。

「男の子でも、女の子でも。どっちでも父さんと母さんの特別な子供だっていうのには変わりないよー」

 そう言って、拓哉を抱きしめる。急いで帰ってきたのか、うっすらと汗をかいている。

「うふふ。可愛いー」

「ちょ…やめろって。ハズいじゃん」

「やだー」

「やだーじゃなくて!!」

「おっ。父さんだけ除け者にするなよー。まぜてよー」

 そう言って父さんまで抱きつく。

「うわっ。やめろっ。暑苦しい!!」

「やだー」

「だからやだーじゃなくて!!」

 今度は私を除けて、男同士でじゃれあう。


 このにぎやかな楠木家に、もう一人、小さくて元気な、赤ちゃんが…。

「女の子だったら、華やかになるかなぁ…。男の子だったら、もっとにぎやかに…。そして、母さんを、男三人で守ってくれるのかなぁ…」

 ひとり言のようにそう呟くと、拓哉が振り向いた。

「母さん!!赤ちゃんの名前、俺が決めていい?」

「んー。でも、まだ女の子か男の子か分からないのよ?」

「じゃあ、男でも女でも大丈夫な名前にすればいいじゃん。海とか、空とか。」

「父さんも混ぜろよー」

「父さんは駄目だ」

「なんでだよー」

「父さんはネーミングセンスが無さ過ぎる」

 そういえば、昔飼っていた金魚に変な名前をつけられて、拓哉、怒っていたっけ。たしか、漢字何文字かだったきがするけど…。

「南国西瓜売り?あれは昔の話だよ」

「南国…西瓜売り?それは本当に金魚なんでしょうか」

「え?なんか言った?」

「…ううん」

 …今の、聞かなかったことにしようかしら。父さんのセンスは、無いというよりむしろ…。


「よし、決まった!!」

「おっ、まってました!!」

「もしかしたら父さんのセンスを受け継いでいるのかもしれないわね…」


「それでは、発表します…」

「ダダダダーン、ダンッ」

「じゃーん。『るか』ってどう?」

「おぉー!!」

「可愛い名前ね。ルカって、外人さんみたいね。どうして?」

 ゲームか、漫画とかから取ったのかな。と頭の隅で思う。

「それはね…」

 拓哉は紙とペンを取り出すと、それにすらすらと書いていく。

「楠木守の『る』と楠木佳織の『か』で『るか』だよ」

 平仮名で書いた、まもるの『る』とかおりの『か』に丸をつけ、二つを結ぶ。

「おぉー。よく考えたな。すごいぞ」

「父さんの遺伝子は受け継がれていなかったようね。そうだ、拓哉はなくてもいいの?」

「ううん。これでいいの。だって…」

 拓哉は少し照れたように私のほうを向く。

「だって、俺も、父さんと母さんに『拓哉』って名前を貰ったから。俺はこの子に父さんと母さんから取った、『るか』って名前を付けるんだよ。…お兄ちゃん、だから」


 拓哉の言いたいことは分かった。ただの甘えっ子から、甘えっ子お兄ちゃんに昇格かな。

「るかは俺の妹だから、只者じゃねぇぞ」

「あらあら。母さんの娘だから絶世の美女よ」

「ふふん。父さんの息子だからな、超絶美男子だぞ」

 それぞれに思い思いのことを口にする。…考えていることは同じだけど。

「よーし。記念写真撮るぞ。記念写真」

「最近、父さん毎日記念写真撮るよね」

「父さんにとっては、この家族で過ごす毎日が、記念日なんだから」

「うふふ。父さん、珍しく詩人ね」

「セルフタイマーだセルフタイマー。いそげー」

「急ぐの父さんだけだよー」

 私と拓哉がピースをして、父さんがスライディングをして、ギリギリ入る。 

 るかが生まれたら、こうやって、またみんなでドタバタと記念写真を撮るんだろうな。今から、楽しみ。


                              +++++


『拓哉の、(甘えっ子)お兄ちゃん記念日。父さん・母さん・拓哉・るか』

 私はやきあがった写真の裏に、そう書く。


 そして、『家族の記念写真』と書かれた大きなアルバムの一番後ろに、その写真を閉じる。アルバムの中には、拓哉が生まれたときの写真や、幼稚園の入園式と卒園式。小学校の入学式のときの写真に、誕生日。家族旅行のときの写真なんかがたくさん閉じられている。

 元々は父さんが写真を撮るのが好きで、なにか家族で節目があるごとに写真を撮っていた。恥ずかしいけどそれはとっても素敵なことだから、少し気が早いけど、もし拓哉やるかが大人になって、それぞれの家庭を築いたらこの習慣を引き継いで欲しいと思う。


 私は微笑んで、アルバムを抱きしめる。ささやかな願いを胸に。


 これからもずっと四人で、幸せの写真を重ねられますように…・。



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