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終章 復讐


「やっときたか。カノジョとのお別れはすんだのかぁ?」

「別れじゃない、約束だ」

 忘れたくとも忘れられない。奴の顔が目の前にあった。―森田慎司。俺達の全てを狂わせた張本人。全ての元凶。

 こいつさえいなければ、幸せだったはずだ。

「驚かないのか?ずっと殺したいと待ち望んでいた相手がのこのこあらわれたのに?」

「別に。どうせ俺を見張っていたんだろう」

「これはすごーい。大正解でーす」

 森田はワザとらしく驚き、拍手をした。

「黙れよ。…何故瑠佳を殺した!」

「君らが幸せそうだったからだよ。ぶち壊したら君がどう壊れるのか見てみたかった」

 にやりと、不気味な笑み。

「予想以上だ。君は俺の思うがままに動いてくれた。…くくくっ、最高だよ」


 幸セソウダッタカラ?親ニ捨テラレテ、幸セソウ?


「っけんな…ふざけんなよ」

 俺は、コートのかくしから鋭利なナイフを取り出した。この日のために、用意していた物。

「おおっと、いいねえナイフ」

 森田も包丁を取り出し、へらへらと笑ってみせる。

「君を殺す意味はないんだけどねえ…。でもせっかくだから殺してあげるよっ!!」

 森田が包丁を振り上げる。俺は身を翻してそれをかわした。

「っつ――」

 ハズだった。熱いものが溢れてくる、痛み。森田の包丁は深々と俺の太ももに刺さり、鮮血が噴出した。

「甘いねえ。そんなんじゃさっさと死んじゃうジャン」

「くそっ」

 森田は俺の振り上げるナイフの切っ先が分かっているというように、ひらりひらりと身をかわす。そのたびに俺の体には深い傷が作られていき、そのせいでさらに動きが鈍くなる。

 右足、左手、右肩、背中、頬、左足、右手…。


「何故だ…何故っ」

 まだ何一つ謎が分かっていない。何故森田が殺したのが瑠佳だったのか。何故森田は俺達を知っていたのか。森田がどんな小細工を使って死んだことにしたのか。


 俺がこの数ヶ月苦しみ続けてきたことの意味が、全く無い。このままじゃ、瑠佳も俺も無念のままだ。



 殺シタイ。でも殺セナイ。


 

「なんだよ。もうお終い?つまんないなぁ」

「っせんだよ…」

「ん?なに?」

「黙れつってんだよ…。ッァァアアアアアア!!!」

「お、やっと本気出した」

 俺は動かない腕を動かし、歩けない足で歩いた。


 護りたい。

 コイツを殺したら、茜さんに会おう。 今度こそ、護りたい。大切な人を。


「死ね…」


 やはり、よけられるナイフ。加えられる包丁による傷。意思とは反対に、どんどん鈍くなって自由が利かなくなる体。



 ついに俺は、立てなくなってその場にうずくまった。


「カッコつけといて、結局終わりかぁ」


 森田が、包丁を振り上げる――。俺に向かって真っ直ぐに…。








 腹部に広がる熱い何か。そこを抑える。嗚呼…俺は死ぬのか。結局、誰も護れない。護りたいと願っても、何も護れない。

「…うっ…げほ…ごほ」

 血が、開いた口から溢れ出る。とめどなく。

 雫が頬を伝う。雨かと思ったが、違った。温かい、もう馴染んだ雫。

「くくくっ…。なに、泣いてるの」


 森田のことを、瑠佳が殺されたことをできることなら忘れたい。そう強く願った。でも忘れられない。忘れることが、逃げることだと思った。生きている限り俺は復讐という悪魔に縛られる。

 でももうそれも今日で終いだ。もう誰も憎まなくていい。それがどんなに楽なことか。


 全ては俺の自己満足に過ぎなかった。殺し、罪を被り、そして償うと言って死に逃げる。


 謝りたい。傷つけた人全てに謝りたい。謝っても許されないと分かっているけど、それでも謝りたい。

 森田の妹、母親。

「母さん…祐太…実沙希…桐嶋さん……瑠佳………茜さん」


 薄れ行く意識の中で、俺は妙なものを目にした。

 目の前に広がる赤。血のように禍々しくは無く、明るく気高く美しい。どこかで見た赤。すごく最近に、どこかで見た赤。

 それが傘だと気づくのに時間が掛かった。


「風邪…引きますよ」

 柔らかいのに硬い、そんな声のような気がした。


 俺はありえないものを見た。


 長く美しい髪を濡らし、風に吹かせる、綺麗な女性(ひと)


 いつでも優しく、笑顔が似合う女性(ひと)


 こんなところには、いてはいけない女性(ひと)



「あ…かね…さ…」



 白魚のように細い指の間に見え隠れする、鋭く光る何か。




「拓哉さん…あなたに出会えて、私は幸せです」



 茜さんはそう言って俺の涙を拭った。




 その顔は笑顔だったけど。酷く歪んで、今にも泣き出しそうだった。




「あなたのためなら、罪をかぶってもかまいません」




 茜さんの頬を、雫が伝う。それが雨の粒だとは分かっていたけど。


 拭いたい。しかし俺の腕は僅かにも持ち上がることは無く、土を掻いた。




「あなたが憎んだ人なら、私も憎みます。あなたを殺そうとするなら、尚更」



 その声には抑揚が無く、冷たくて。




 まるで俺のようだと思った。




 叶うことならもう一度、茜さんの笑顔が見たい。


 子供達に囲まれて微笑む、茜さんの笑顔が見たい。




 しかし最後に俺が見たのは、愛しい人の悲しむ顔でも、笑顔でもなく。



 愛しい人の復讐に歪んだ顔。




 嗚呼。



 俺が彼女を、こんなにしてしまったんだ。




 醜い、復讐の果てに。




              【完】

 




これで、【復讐―ツミヲツグナエ―】は完結となります。

途中題名が変わったり、文章そのものが変わったり、あらすじが変わったり、一ヶ月近く更新できなったりといろいろありましたが…。こんな文章力の低い小説を、ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!


本編では主人公の拓哉は死んでしまい、茜との約束を果たせませんでしたが…。

もしかしたらいつか番外編として拓哉や茜の過去を書くかも知れません;;

ただの自己満足ですが(笑)


本当に、いままでありがとうございました!!



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