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愛里と私 そして学校


 私が愛里になって二日目、朝起きたら母親はいなかった。


 朝ごはん何食べよっかな。


 私がそう思いながらテーブルに近づくとそこにはサランラップがかけられた朝食があった。


 朝ごはんがある。


 私にとってそれはありえないことだった。私の家は皆起きる時間がばらばらだから、

 朝食は各自好きなものを作るようになっていたのだ。


 なんか新鮮だなぁ。


 私は椅子に座ると、さっそく食べ始めた。

 私は牛乳の入ったコップを片手にパンを食べながら、この家はパン派なんだなぁと思った。

 私の家は断然ご飯だ。


 ――今日、何しようかな……。


 私はテーブルに置いてあったリモコンでテレビをつけた。


 愛里の部屋をもうちょっと探ることにして、あっ、この家もよくみなくちゃ……あと。


「十一月二十五日土曜日、今日のニュースは……」


 テレビでは見慣れたアナウンサーが最近のニュースを読み上げていく。

 

 ……ん? 十一月、二十五!?


 私は驚きのあまりコップを落としそうになった。


 え、え~と、私が自殺したのは十一月……じゅう、十五、今日は二十五……うそ! 私が死んでから十日も経ってるの? 二日ぐらいかと思ってた……。

 ひそかに自分の葬式を見たかったのに。

 

 私は小さくため息をついた。

 ニュースはこれといって重要なことは流れていなかった。

 

 やっぱり、何にも変わんないんだ……。

 

 私は少し悲しくなって電源を切った。

 




 目まぐるしく日々は過ぎていって、もう転校初日になっていた。


「ねぇ、ちょっと、もう朝だよ? 起きて!」


 耳元で女の人の声がした。

 ……お母さん?


「うるさいなぁ……あと少しくらい」


 私は寝返りをうって声がした方に背を向ける。


「今日は学校でしょ! 学校! 深雪! さっさと起きなきゃ遅刻する!」


「わかったよ~」


 私は目をこすりながら体を起こす。時計を見てみるともう七時五十分だった。


「きゃ! お母さん! なんでもっと早くおこしてくれなかったの!」


 私は横を振り向いたがそこに人の姿は無い。


 あれ? たしかこっちから声が……。


「目覚ましくらいかけなよ! それでも高校生なの?」


 声は少し下から聞こえていた。

 私は視線を下に落としていくと、ベッドにうさぎのぬいぐるみが仁王立ちをしているのが目に入った。


「……え?」


 私はしばらくそれをじっと見る。記憶をたどってもこんなものをベッドに置いてはいない。


「ほら深雪! ぼーとしてないで学校にいく!」


「に、人形が喋った~!」


 私は驚いて飛びのき、思いっきり壁に頭を打った。


「きゃ~、痛い」


「……深雪って以外とドジ?」


「……え、どうして私の名前を?」


 私はのろのろと起き上がった。仕度をしないと本気で間に合わない。


「私は愛里、あなたが入っている体の持ち主よ」


 人形は腰に手を当て、少しのけぞりぎみに言った。


「えっ? 愛里?」


 私はクシを持つ手を止めて人形を振り返る。

 

 確かに考えてみれば愛里はどこ行ったんだってことになるもんね。けど、なんで人形に?


 人形、いや愛里はトテトテと私の方にやってきた。


 人形が歩いてる。背骨も無いのに……。


「なんで、人形?」


「……本当は動物なんだけど。家には何もいないからよ。しょうがないじゃない!」


 逆ギレに近い愛里の返事だ。


「うぁ。スカーフが曲がった」


 焦るとろくなことがない。


「ちょっと深雪、私の体を使うからにはちゃんとしてよね!」


「分かってるけど……」


 馴染み深い制服を着た鏡の中の私を見てため息をついた。


 あーもう……なんで記憶なくなるのよ。


 そのせいでこんな面倒なことになってしまった。けどこれといって思い当たるとこないんだよなぁ。

 不思議……あのおばあさん、うそついてるんじゃないよね。

 はぁ、なんか憂鬱……。


「私のことは深雪が帰ったら存分に教えてあげるから、さっさと行ってきて。初日から遅刻なんてみっともないじゃない!」


「わかったって!」


 私は人形にせかされ家を出た。ちらっと朝食が見えたけど今はとても食べられる状態じゃない。

 あぁ、おいしそうなご飯が……。

 無念、私は学校へと続く道を全速力で走りぬけた。

 

 




 私が通っていた四葉学園はメルヘンチックな名前だけど普通の高校。


「さぁ、おいで」


 声につられて視線をあげると元担任が立っていた。そしてまた担任になる。


「はい」


「さ、みんな席に座って! 転校生を紹介するから」


 先生は教壇に立つと私を側に立たせた。

 私は愛沢さんを見た瞬間、心臓が飛び跳ねたのがわかった。頭では解っているのに、体がすくむ。

 そして胸の奥にゆらりと憎しみがこみ上げる。


「秋宮愛里さんだ。一言どうぞ」


「愛里です。よろしくお願いします」


 私は声が裏返りそうになるのを抑えながら自己紹介をした。


 かわいー、足も細いね、かわいー、すっげ~


 私の耳に様々な声が届く。


 だよね、かわいーよね。私もそう思った!


「秋宮の席は……甲斐の隣だな」


 甲斐さんの隣。深雪わたしの席だ。


 私はゆっくり自分の席に座る。少しガタガタで、ところどころ傷がいった机だ。

 なつかしい……。たった十日ぐらいしかたってないのになぁ。


 私の席は窓際で、そこからは広いグラウンドが見える。


「ねぇ、ここ、だれか前に座ってたの?」


 私は隣の甲斐さんに小声で聞いた。まずは情報を集めないといけない。

 彼女は驚いた顔をしてそれから言いにくそうに口ごもった後、


「実はね、神崎さんの席だったんだ」


 と答えた。


「神崎さん?」


 私は平静を装って聞き返す。


「うん、彼女事故で死んじゃったんだ。つい、二週間くらいまえかな」


「事故? 車にでも引かれたの?」


「詳しいことは知らないけど、そんな感じだったと思う」


 彼女は特別悲しそうにするわけでもなく、楽しそうでもなく、遠い過去を話すような感じだった。

 私のことは事故になってるんだ。やっぱり体裁のためかな?


「……そうなんだ」


 別に、悲しんで欲しいと思ってたわけじゃないけど、なんか、寂しいな。私、どこか期待してたのかな……。




「ちょっと~見た見た?三組の転校生!ちょー可愛いらしいよ」


「ねぇねぇ転校生ってどれ?」


 休み時間、教室はうるさかった。私は耳を塞いで逃げ出したいのをこらえ、大人しく椅子に座って、笑顔を返していた。


「どこから来たの?」


「モデルしたことある?」


「部活なんかしてた?」


 と、さまざまな質問が私に向けられた。私は考え付く限りで、後は適当に答えておいた。

 どうせ、だれも愛里のことを知らないんだから。

 そして家に帰ると、愛里から愛里講座を二時間も聞かせられた。愛里の性格から、好きなもの、嫌いな食べ物、日課や好きな人のタイプまで……。

 そのせいで次の日は睡眠不足となった。


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