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7話

 最初は、詩亜が気怠そうに「やっほ」と言い、ベランダから入ってきた。


 少しくたびれたスウェットに、湿った髪。ふわっと香ったシャンプーの匂いがして、それだけで心を揺さぶられる自分はつくづく馬鹿だな、と平静を装う。

 しばらくして窓がノックされ、駿が部屋へと滑り込んできた。夜は寒いのか、パーカーをしっかりと着込んでいる。


「お邪魔しまーす。お疲れ、丸ちゃん、詩亜っ」


 駿は床に胡座をかくと、目にかかる前髪を指先で触れた。詩亜は自分の場所を決めているかのようにベッドを占領して漫画を広げている。


「……下でマチさんに会ったよ」


 駿に言われて、母親とのやり取りを思い出した。


「そういえば、今日は遅めの出勤って言ってたわ」


「そうなんだ」


 再婚した母親と折り合いの悪い駿にとって、両親が不在がちなこの部屋は格好の避難場所だった。一階からはもう、生活音は聞こえてこない。

 居酒屋の経営をする一丸の親も、特に干渉はしてこなかった。むしろ父親の方から『年頃の若者は俺たちと顔なんか合わせたくないだろ』と気を利かせ、戸建ての二階に梯子をかけてくれた。その配慮が、優しさなのか、それとも無関心による放任なのか、一丸には判別がつかなかったが。

 いつの間にか、窓辺のブラウン管テレビが点いていた。


「丸ちゃん、やらせてもらうよ」


 駿が手慣れた様子でゲームを始めると、コントローラーを操作するたびに、かちかちとする軽い音が、本棚と使い古された机だけの窮屈な部屋に、所在なげに反響した。


「あれ、丸ちゃん買ったんだ? これプレステ版のやつじゃん」


 一緒にやろうという駿の誘いに、今度は「え、何、何?」と読んでいた漫画を放り出した詩亜が、ベッドから身を乗り出してきた。


「あ、それ私も、やるっ!」


 詩亜は落ち物パズルゲームにめっぽう強い。

 駿も不敵に笑う。


「じゃあ、僕とやろうよ」


 いつしか三人は、重なり合うブロックを消し去る連鎖の応酬に没頭していた。

 赤の四角に、青のL形。次に落ちてきたのは緑のTの字。仕上げは、噛み合わせたブロックの隙間に縦棒一本を差し込んで、一気に消す。

 これも、ありふれた日常の一部。四人が揃えば、通信ケーブルで繋いだゲームボーイで、ゲットしたモンスターを戦わせて夜通し遊ぶことも珍しくなかった。


「ねえ?」


 ゲームの熱がひと段落した頃、詩亜が顔を上げた。


「来たんじゃない?」

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