6話
「てか、今日暑くない? 私も半袖にしてくればよかった」
気まずい沈黙の余韻をかき消すようにして、二人の足が止まった。
詩亜は一丸の夏服を恨めしそうに見てから、腕に張り付いた長袖を捲り上げ、躊躇いもなくニットのベストを脱いだ。
恥じらいというものはないのか。そんな思いが頭をよぎった。
汗ばんだ肌にぴたりと張り付いたブラウスの下から、水色の下着がはっきりと透けていた。その浮かび上がる無防備な輪郭に、一丸の視線もまた、熱を帯びた肌に吸い寄せられるように張り付いた。
部活の合間、体育館の片隅で盛り上がったばかりだった。白シャツ一枚で練習する女子バスケ部の、汗で透けた下着を餌に、男連中は卑猥な会話で息を弾ませていた。
再び歩き始めながらベタつく熱気を置き去りに、ふと思った。
中二で付き合う――それは一体、どこまでを指すのか。詩亜はもう、Aか、Bか、それとも。幼馴染という気安さがあっても、その領域には踏み込めず、訊けずにいた。
「今日、トン子も来るって。丸ちゃん家に」
唐突な声に、肩が小さく跳ねた。
「何でだろ。全然、夜にならないね」
「まだ夏休みが終わったばっかだからな」
動揺を隠すように相槌を打つと、「ふーん」と詩亜が隣でまつ毛を伏せた。
「ずっと夏のまんまだったらいいのに」
詩亜が見上げた退屈な空には、星のひとつも見当たらない。あるのは、ふぬけたオレンジ色の雲だけ。
気づけば一丸の視線は、その雲から詩亜の頼りない胸元へと滑り落ちていた。
……いや、おれはないな。
そう自分に言い聞かせながら、暴れ出しそうな心音を抑え込む。それなのに、どこかで幼馴染の全てを知っているかのような顔をしている自分に驚いた。おれは裸体だって見たこともある――などと、幼い記憶に縋りついていた。
まじまじとした視線に気づいたのか、詩亜の足が止まった。
顔を真っ赤にして「ちょっと、何見てんのよ!」と、怒鳴ったかと思えば、次の瞬間、頬に強烈な衝撃が走った。
たく。まだひりひりする。
昔から詩亜のやつは、頭に血がのぼると見境がない。
おれはたまごっちか。かまったり放ったりしやがって。あまり雑に世話をすると、病気になって、にょろっち、になるぞ。
ぶつぶつと心の中で呟きながら、部屋を軽く片付けた。脱ぎっぱなしの服を畳み、イカ臭いゴミ箱の中身をこっそり別の部屋に持っていった。
窓の外からギシ、ギシと音がして、条件反射でクレセント錠を外した。




