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5話

 四角関係が始まったのは中学二年になった頃だ。桜が散り、新しいクラスメイトたちとも馴染んできた頃。

 トン子は、少し遅れてやってきたけれど。



 部活帰り、制服の肩に鞄を掛けた二人は並んで歩いていた。

 まだ秋は遠いのか、傾きかけた夕日の空は明るく、じわりと湿った風が肌を撫でた。あぶらとり紙で拭ったはずの額から、すぐに不快なべたつきが戻ってきた。


「……おい、詩亜。皆の前で、あんなこと言わなくてよくね?」


「はあ?」


 間髪入れずに気の抜けた声が返ってきた。振り向いた肩で揺れた、地毛だと言い張る、少し明るい茶色の髪。


「丸ちゃんと付き合うとか、一ミリも想像できないんだけど」


 こっちだって願い下げだ。別れた翌日には別の男と付き合うような、節操のない女なんて。今日しでかした突飛な行動も、きっとその男に宛てた何らかのパフォーマンスに決まっている。


「いや、おれとトン子は別にしても、駿だっているだろ」


「は? 何言ってんの。それこそないでしょ」


 きっぱりと、拒絶の壁を立てられた。

 放課後の教室。黒板に書かれたふざけた相合い傘に、四人はデキてるんじゃね? という男子たちの無責任な囃し立て。かっとなった詩亜は宣言してみせた。


 ――私たちは、恋愛絶対禁止だから。


 それはまるで、呪文のように四人の間に見えない境界線を引いた言葉だ。

 冷たくあしらわれたせいか、いつからこれほど棘のある女になったのかと、過去がフラッシュバックした。記憶を紐解けば小学生四年生のとき、何となくお互いが別々に登校するようになってからだと思ったが、すぐに考えを改めた。いや、違う。最初からだ。この女は、今日この日まで何一つ変わってなどいない。

 忘れもしない、幼稚園時代のトラウマがある。

 砂場で、一丸は詩亜のために山を作った。自分なりに丹精を込めた、自慢の力作だった。だが、詩亜はそれを一瞥すると、無造作に言い放ったのだ。


『ありがと。でも、ちゃんちゃら笑えないわ』


 耳を疑った。追い打ちをかけるように、彼女は何の迷いもなく付け加えた。


『隣の健太郎くんのより全然小さいじゃない。もっと大きく作りなさい』


 こいつは悪魔か、それとも魔女か。幼心にそう震えたのを覚えている。

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