表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

4話

 授業が終わり、美術室を後にすると、同じクラスの駿(しゅん)が前を歩いていた。普段なら真っ先に寄ってくるはずなのに、今日は一人で背中を丸めている。


「おい、駿」


 一丸は小走りでその背中に追いついた。

 ゆっくりと振り返った駿は、はにかむような、どこか照れくさそうな笑みを浮かべて、目を隠すほど長い前髪を指でいじった。見慣れた癖に、あえて何かあったのかとは訊かなかった。


「次の授業、英語だっけ?」


 不自然なほど下手な繕いだと承知の上で、一丸は「そうだっけな」と短く返した。


「今日も丸ちゃん家、行っていい?」


 問いかけてくる顔は、一丸の肩よりずっと低い位置にある。小学四年で転校してきた頃から、この視線の高低差だけは変わらなかった。


「ああ、大丈夫だぞ」


 隣に並ぶと、尚更思った。果たして、二人で肩を並べて歩く日は来るのだろうかと。


「駿は今日も塾だろ?」


「終わってから行くよ」


 声を弾ませた拍子に、駿の前髪がふわりと揺れた。滅多に覗かせることのない瞳は貴重である。


「たぶん、詩亜(しあ)とトン子も来るんじゃね?」


 そう口にしたときだ。背後から足音が迫ってきた。


「ゲボお?」


 振り返るまでもなかった。その体躯には似つかわしくない透き通った地声は脳まで響く。


「何、また四人で集まるの? 四角関係? それとも……え? 乱交パーティー?」


「僕たちは、そんなんじゃ――」


 駿が肩を小さく縮ませると、「ゲボお?」と岸本の取り巻きが被せてきて、廊下に笑いが広がった。


「岸本、おれをいじんなって」


 思わず反論していた。


「え、何? おれ何かした?」


「丸ちゃん、怖ーい」


 わざとらしく怯え顔をしてから、二つの坊主頭は去っていった。下着が見えるまでズボンをずり下げた腰パンに、穴のない流行りのガチャベルト。光を反射させた白い布地を差し込まれたシルバーのバックルは、いちいち目立っていて鼻についた。

 しばらく歩くと、ようやく教室の入り口が見えてきた。


「大丈夫だよ、丸ちゃんはすごいんだから」


「またそれかよ」


 駿は、気兼ねなく話せる数少ない友人だ。けどここ数日、考えていることがどうにも読めなかった。どこか上の空で、こちらの言葉が宙に消えていくような瞬間があった。そして決まって一度は口にする、すごいんだから。

 悪い気はしない。でも、脈絡もなく繰り返されるその言葉に、少し不快感を覚え始めているのも事実だった。


「おい、近いって、駿」


 気づけば、駿が袖が触れ合うほどの距離にいた。


「そんなに引っ付いてると、また岸本に馬鹿にされるぞ」


「ごめん」


 駿は力なく、えへへと笑った。




 戻った教室ではクラスメイトたちが騒々していた。

 訊くと何やら、隣のクラスの詩亜がやらかしたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ