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2話

「お疲れ様でした、ご協力ありがとうございます」


 聴取は二時間ほどで終わり、供述調書にサインをして、警察署を後にした。

 靖国通りを西へ、ネオンの残骸と静けさが混在する道を歩いた。タクシーを拾う気になれなかった。

 夜明け前の新宿は、それでもまだ眠らない。酔客の声が遠くで途切れ、水商売のヒールの音がどこかの路地に消えていく。喧騒の抜け殻の中を、風だけが通り過ぎる。

 ふと足が止まった。


 --じゃあ、あのとき、二人して目を塞いでいればよかったのだろうか。


 物憂(ものう)げな空を見上げていた。

 夜を切り取ったような、不格好な四角形が目に映った。

 ペガスス座の『マルカブ』、『シェアト』、『アルゲニブ』。そこにアンドロメダ座の『アルフェラッツ』が加わって成す、『秋の大四辺形』と呼ばれる星の並びだ。

 左下の星がほんの少しだけ外に飛び出した、歪んだ形。左上の角だけが異なる星座というところが、どこか自分に重なった。一等星で目を惹く『夏の大三角形』とは違い、明るさも大きさも控えめで地味なところも。


 どうして左上の角の星だけが、異なる星座なのだろう。


 それは世間と相容(あいい)れない自分の姿でもあった。

 今夜はよく見えた。歌舞伎町の、ひときわ華やいだ光の中からでも、はっきりと確認できた。


 --男として生まれてきてしまった自分は……それは罪か。


 肌寒さに上着を羽織り、あの頃を思い出した。

 ミケランジェロの『ダビデ像』。

 同性を意識し始めたのはこの時期からだ。

 中学二年の美術の授業で、教科書に突如として現れた、石でできた全裸の男。クラスの女子たちが大爆笑する中、自分だけすぐに教科書を閉じても気になり、また開いていた。

 あのとき抱いた、不安と恥ずかしさが入り混じった胸のざわつきと高揚感。それは今でもしっかりと覚えている。

 気づけばつま先の軌跡を追っていた。尖ったブーツの底が、うわべを飾った音で苦い記憶を踏みつける。すると聞き慣れた電子音が鳴った。

 粗削りで、オルゴールがデジタル回路の中で暴れているかのような音は、辺りの雑多な賑わいに、一つ色を添える。二つ折りの携帯電話を開き、短く用件だけを聞いて通話を切った。

 味気ない液晶画面に戻ると、一件のメールが届いていた。今、流行(はや)りの、日記やコミュニティで交流する完全招待制サイトへの誘いだ。

 無機質な文字列に浮かぶ、何かざらついた違和感。


「あれから……もう八年も経つのか」


 思わず言葉が漏れて、その勢いのまま試しに大きく息を吐いてみた。

 でも、期待とは裏腹に、色のないちっぽけな息は、夜空へと消え去った。


 他でもない。


 あの四角関係を歪ませたのは、このおれだ。

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