後に『魔物の女王』と呼ばれる少女の始まりの物語
割と容赦なく人が死にます。ご注意下さい。
ミラは生まれ育った村が嫌いだった。
隣の家に住むカリナとは同じ年に生まれた幼馴染に当たるのだけれど、愛嬌があって可愛いカリナに対し、少しばかり不器用で普通顔のミラは比べられて育った。
ミラはどちらかと言うと内向的で自己主張が得意では無かった。兄だけはミラに優しかったけれど、両親すらカリナと比較してきてうんざりしていた。
八歳年上の兄はミラが七歳の時、働く為に村を出ていった。ある程度稼いで良い人が見つかったら戻ってくるよと言ったものの、八年たっても戻って来る気配は無かった。
兄が居なくなった家は居心地が悪い。
カリナはミラを傍に置いておけば自分が良く見えると理解していたので、何時でもどこでもミラを連れ回そうとした。
そんなカリナが煩わしくてミラは森の中へ採取しに行くからと朝早くから家を出る事が増えた。
兄が狩りに使っていた弓矢と短剣も携え、毎日獲物を手に戻って来るから両親は煩いけれど邪魔されることは無かった。
ただ、カリナは夜にも関わらず家に来てはミラの邪魔ばかりした。挙句の果てに女らしくないとか色々言って森に行かせないように企んだ。
ミラが持ち帰るのは獲物の肉だけでなく、森の奥に行かないと見つけられない薬草なんかもあって、こちらは村長に納めていたからカリナの妨害に関しては村長からのお叱りで一時は納まった。
しかし、一度いい気持ちを味わったカリナが諦めるなんてことは無かった。村長が病気になって倒れ、代替わりしてカリナに甘い息子が村長になった途端、カリナの願いを聞いてミラの森行きを禁止したのだ。
カリナはミラを踏み台にし利用することしか考えていなかった。
だから全く気付いていなかったのだ。子供のしかも女の子でしかないミラが森の奥に行って毎回無事に帰って来れた理由を。
森行きを禁止されて七日。
カリナはミラを連れて村の少年達に囲まれ、そして可愛いと言われて上機嫌だった。カリナを褒めてミラを貶めるのを止めることなんてしない。
村の他の女の子はカリナを嫌っているが、同時にミラが貶められているのを見てすっきりしていた。下には下がいるのだと。
大人達はカリナを可愛いと言って、ミラを出来損ないのように笑っていた。
だから、ミラは注意も警告も何もしなかった。
それは突然のことだった。
カリナの首に何かが巻きついて地面に引き倒されたのだ。
「え、ぁ」
「う、わぁぁぁぁ!ま、魔物だ!魔物が!」
カリナを引き倒したのは大人の男よりも大きな体をした蜘蛛の魔物であった。それだけではない。村の至る所に魔物が現れて村人達を蹂躙し始めたのだ。叫び逃げ惑う村人の中、ミラだけは平然と立っていた。
カリナは地面に倒れながら「助けて」とミラに手を伸ばしたが、ミラは首を傾げて言った。
「なんで?」
ミラは魔物に襲われない。魔物がミラを気に入ったからだ。必要以上に森を荒らさない心地良い魔力を持つミラを魔物達は友とした。そんなミラが七日も姿を現さないのはおかしい。知恵のある魔物は、ミラが村人から馬鹿にされていることを覚えていた。
ミラを助けなければ。そう思った森の魔物達がミラの為に来て邪魔者を排除しているだけのこと。
「カリナが余計な事をしなかったらこうはならなかったのにね。私の森行きを邪魔したから殺されるんだよ?カリナが皆を殺したんだよ?カリナが我儘を言わなかったらこの子達は森から出なかったんだよ?カリナは人殺しだね。村の皆を死なせるようにしちゃったんだもん。カリナが私を利用しようとしなかったら死ななかったのにね?カリナが全部壊したんだよ?前の村長さんに怒られたのに諦めなかったから、みーんなみんな、死んじゃうの。人殺しだね、カリナ。カリナのお父さんもお母さんも、カリナのせいで死んじゃうのかぁ。でも仕方ないよね。カリナを止めなかったんだもん。人殺しのカリナ。カリナがわがままだから死んじゃうの。ほら、魔物が村の人達を持って来たよ。全部カリナが死なせたの」
ミラは生まれて初めてたくさん喋った。カリナが絶望するように、蜘蛛はカリナを宙に吊るし、魔物はわざわざカリナの見えるところに殺した村人達を運んで積み重ねた。
前の村長だけは眠るように花人族が死なせ、寝台の上に寝かせているが、他は惨たらしく殺されていた。
ミラは前の村長以外親でも嫌いだったので可哀想とは思わなかった。
「すごいね!カリナがわがままを言って私を森に行かせなかったからこれだけの人が死んだの。カリナ、どうして泣くの?カリナが自分のしたい事を優先したからこうなったんだよ?カリナ。私、カリナが一番大嫌い。私を踏み台にして気持ち良かったんでしょ?私は腹が立って仕方なかったよ。鬱陶しいし邪魔だし。カリナが死んでくれたら本当に嬉しい。だからね、感謝して。楽にさせてあげる」
カリナは叫んだ。
私のせいじゃない私は悪くない私は可愛いから皆が優しかっただけ!
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
「うるさい。ばいばい」
その一言の後、カリナは何かに首を切られ、血を撒き散らして死んだ。
ミラは心からとても嬉しくて仕方なかった。やっと、やっとやっとやっと、カリナから解放されたのだ。カリナが新しい村長に頼んで森行きを邪魔しなければこの惨劇は起きなかった。だからと言ってカリナのせいではないけれど、溜め込んだ鬱憤が爆発して、全部の罪を背負わせ絶望のままに死んで欲しいと思ったのだ。
さっさとこの村を出て行かなければ行商人にバレてしまうと考えたミラは、知恵ある魔物達に家捜しをさせて金を集めてもらい、前の村長だけは火を使う魔物に体を焼いてもらって共同墓地に骨を埋めた。
家に戻って兄の残したものと自分の大切なものだけを荷造りしたミラは、魔物達が集めた金を革袋に入れて首から下げると、村に火を放ってもらった。
辺境の近くに他の村のない小さな村はあっという間に焼け落ちた。
森の魔物の中で森から離れられない魔物は森の奥に戻り、残りの知恵ある魔物達はミラに着いていくと言った。
「良いの?」
「構わぬ。そろそろ新たなる地を巡ろうと思っていた」
「そっか。ねね、クロさん。空飛ぶの?」
「無論。そなたを背に乗せるなど容易い事だ」
「ほんと!?あ、他の皆は?」
ミラの前にいるのは小さな黒い竜だが、ミラはクロさんと呼んでいる黒い竜の体が大きくなるのを知っている。
ミラの周りにいるのは綺麗な瑠璃色の大きな蜘蛛、白い大きな狼、宙を浮く水球の中に浮かぶ八本足、鬣が燃えるようなオレンジの獅子と言った魔物達。
「こやつらは体の大きさを変えられる。そうだ。ミラ、ここを離れて他の地に行くならば我らを使役せよ。そうせねば要らぬ厄介事をまねく」
「分かった。使役ってよく分からない、けど」
「我等ととても仲が良くて他から邪魔されない特別な関係ということだ」
「そっか。分かった」
クロから教えてもらったやり方で一緒に行く彼らをテイムしたミラは、体が大きくなったクロの背中に逆に小さくなった子を連れて乗った。
ミラは知らない。
クロが大陸で名の知れた古龍が一体で、本来ならばテイムなど出来ないことを。それだけでなく、白狼や大蜘蛛、獅子や八本足が大陸で恐れられた魔物であることを。
ミラは知らない。
数年後、彼女は大陸中の冒険者達が恐れる名付きの魔物を尽くテイムして『魔物の女王』と呼ばれる事を。
なお、兄は人が良すぎて仲間だと思っていた者達に裏切られて奴隷として売り払われ、巡り巡って獣人国の大貴族のペットとなっていたところをミラに見つけられることとなる。
活動報告に裏話があります。
これ、長編の序章っぽいな……と投稿した後に思いました。




