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7/11

7:サーフェス・クラウズ

「それで、リヒター先生。本日の授業は…」

「ああ…氷雨の紹介をして、いつも通りの流れで行こうと」

「合同授業でしょうか?」


サーフェスは表情をよく作るが、態度だけは隠せない。

露骨に不機嫌そうな声音になるのも、彼らしさだ。

私の教室に来た子は問題児ばかりだけど…全員が向上心を持ち合わせている存在だ。

マルコとラッセルは今でこそ損なわれているが…ここに来る前は特に向上心が強かったと報告を受けている。

サーフェスとリンドの傾向は「魔法使いとして致命的な欠点がある。それを克服して、私を食ってでものし上がってやる」

マルコとラッセルは「もう魔法を使いたくないから、私という制限を振り払って魔法を使わない生活を手に入れてやろう」と…それぞれ異なる心意気で授業に臨んで来てくれる。


だからこそ、彼らは足並みを揃えるのが苦手だ。

自分が自分がと仲間内で争い出す彼らは合同授業より———こっちが大好きなのだ。


「そう思ったけれど、真面目な君に正当な権利を与える必要があるね。それに遅れてきたお詫びもしなければならない。今日は個人授業にしよう」

「やった!よろしくお願いします、先生!」


「りひたん、俺はどうしていたらいい?」

「見学をしておいてくれないかい?私の授業がどんなものか見ておくれ!」

「いいよ。この世界の魔法も見ておきたいからね」


「ごめんよ、転入初日に…。先生の授業を楽しみにしていただろう?」

「いいっていいって。りひたんの先生らしいところを見たいから。授業は次の機会があるさ」

「…リヒター先生の管轄に来たってことは実績は知っていているんだよね?」

「え?」

「てっきり怒られると思ったのだけど、氷雨は不思議な子だね」

「それは…りひたん、俺の境遇は?言って良いの?」


確かに、サーフェスからしたら私の実績を知らない魔法使いは気味が悪いだろう。

私とて、伊達に三千年の時を生きているわけではない。

時に見合うだけの実績は作り上げた。だからこそ、不信感を与える。


氷雨は自分の境遇を明かせば、その不信を拭えることが分かっている。

だけど、その境遇を明かしていいものなのか…確認を取る前にこの話題になってしまった。

そこは、申し訳なく思う。

もう少し、頼りがいのある大人を演出したいが…三千年生きていても難しいものだ。


「勿論。何の支障もないからね。サーフェス」

「はい」

「彼は異世界からの転移者でね。異世界の魔法を使う。この世界の常識は全然だから、教えてあげて貰えると助かるよ」

「なるほど…だから先生の実績も。わかりました。氷雨、何か困ったことがあればすぐに言うんだよ」

「助かる〜。ありがとうね、サーフェス」


今の生徒達の中では、サーフェスはとても頼りがいがある。

しかし…彼も私の教室に属する生徒。


「いいって。その代わり、異世界の魔法、後で見せてくれよ!」

「それぐらいでいいのなら…」


魔法に対しては、前のめりになってしまう。

…あわよくば氷雨の得意魔法引き出してくれないかな。

ほら、魔法使ってないし。これも手段としては合法ではないかい、氷雨…。


「りひたん」

「なにかな、氷雨?」

「自分の力だけで暴いてね。生徒を使うのはなし」

「何にも言ってないのに、もう対策されちゃった」

「目は口ほどに物を言うんだよ」


流石氷雨。行動が早いね!そういうところ譲そっくりで最高だよ!

やはり君は伸び代しかないね!いっぱい伸びて最強になろうね!


「何?二人は賭け事でもしてるの?」

「うん。一週間以内に俺の得意魔法をりひたんが魔法抜きかつ自分の力だけで暴けるかどうか試してんの」

「面白そ〜。僕もやっていい?」

「マジで?乗り気?」

「何か楽しそうだなって。あ、でも僕が暴いたらリヒター先生が勝ちとかそういうのなしね。僕は僕で遊ぶ感じ」

「いいね〜」

「こういう楽しい事には乗じるべきだと思っているからね」


優等生故に…肩の力を抜けず本来の実力を出し切れず、伸び悩む子は多い。

エミリーのように脱力を促す友人がいたり、ノルドの様に頼れる大人に巡り会えたりする例は非常に稀。

多くは本来の実力を出し切れないまま…となるのが多い。

しかしサーフェスはその点、心配がいらないようだ。


彼は彼なりに、息の抜き方を知っている。

しかし!これこそ!彼に潜む問題!

別に賭博場に入り浸るとか、賭け事をリスク有りで楽しむとか…そういうのではないのだけど。

「賭け事自体は好き」な性質が…厄介なんだよなぁ。


二人を教室に入らせ、戸を閉める。

見学の氷雨は入口近くの椅子に腰掛けさせ、サーフェスだけが教室の中央へ。

この実習教室は室内で魔法を使ったとしても、壊れたりしないように魔法が張られている。


「さて、気を取り直して…授業を始める前に、サーフェス」

「はい!」

「———今日の、星占いの順位は?」

「一位でした!」

「よぉし!」


「それ、何か関係あるの?」

「大いに関係がある。特にこのギャンブラーにはね」

「…は?ギャンブ…へ?」


氷雨の混乱を傍目に、私とサーフェスはそれぞれ杖を構える。

私はロッド。身長ほどの長さがある杖だ。

対してサーフェスはタクト。持ち運びに便利な長さの杖だ。


「ふ、二人とも杖を使うんだ…」

「ああ。もしかして、氷雨は…」

「俺、杖使わないんだ。一応「あり」はするけど…」


氷雨は左手中指に嵌められた「それ」を見せながら答えてくれる。

サーフェスはよくわかっていないようだが、私にはわかる。


「出さなくていいよ。君が出したい時に出したら良い」

「…助かるよ」

「なるほど。氷雨がここに来たのは僕とリンドと同じじゃなくて、マルコとラッセルと同じなんだね」

「それって…」

「自分自身に問題があるタイプ。そういう子もリヒター先生が見てくれるんだよ。君の場合は、異世界転移者っていう事情も関係していそうだけどね」

「…」

「ああ、リヒター先生にはチクらないから、僕に吐き出せるようだったら吐き出しなよ?溜め込むのは良くないからね。溜めがちな子程潰れていくし、それを見てきたからさ…」

「サーフェスの優しさで目が潰れそうだわ。俺、今日初めてこの世界に来てよかったと思うよ」

「…私との出会いでは思わなかったのかい、氷雨」

「ぷいっ」


氷雨がそっぽを向いてしまったので、これ以上は追求できないらしい。

仕方が無い。本題に移っていこう。


「サーフェス。早速いつものを頼むよ」

「はい…いでよ、火柱コルムナ・イグニス!」


足下には赤い魔法陣。

赤い上着を靡かせ、杖を構えた彼の身にはきちんと魔力が巡り、杖の先端にも魔力が集まる。

大丈夫。大丈夫だ。

「今日は運勢一位だったから」という思い込みもつけた。

今日こそ、ちゃんと———。


「———りひたん!」

「氷雨!?」

「やべっ」


サーフェスの焦った声と共に、周囲の魔力が暴れる気配がする。

大気が揺れるのは久方ぶり。思い込みが、強すぎたのか。

それとも…今日来たばかりの氷雨に良いところを見せようとした心が働いたのか。

なんにせよ、今日は「賭けに負けた」みたいだ。


天井まで昇り、逃げ場所を探すように室内へ轟々と巡る火柱。

魔法の暴走はこの場では日常茶飯事。

これを前にしても、私自身焦ることはないが…彼は違う。

焦りを顔に浮かべ、私の前に立った彼は———指輪から杖を顕現させ、詠唱を初めてくれた。


「闇夜に煌めく星々よ、我らの前に明けない帳を降ろし、穏やかな夜をもたらせ!」


普段は使わないと言っていた杖と詠唱をつけた彼の魔法陣から現れた黒布は、荒れ狂う炎を飲み込み———魔法の暴走すら包み込んだ。


夜は静かに、穏やかなもの…眠るための時間である。

それが絶対であるべきだと言わんばかりに、氷雨の帳は教室に夜をもたらす。

朝が必ず来るように、夜も必ず訪れる。

それを止める手段を、誰も持ち合わせていない。

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