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14:支援魔法は自分に使えない?

「それで、その角とマルコの関係性とは?」

「ああ…これはグサル・グザファンっていう私の同級生をやっていた悪魔の角。一人でアリアとご主人を引き離し、ご主人をギリギリまで追い詰めた。妖精都市の連中より有能」

「君ほどの存在がそういうとは…」

「魔法使い…お前には譲って言った方がいい?あいつの参入がなければ旅はあそこで終わってたレベル」

「そんなに…!?」

「だってご主人、魔法使いの天敵こと魔封の檻にぶち込まれてたらしいし…アリアも両親人質に取られてたから下手に動けなかった…」

「当時の悪魔族は狡猾だと聞きましたが…これほどまでとは」

「あの時代の生き残りは皆こんな感じだよ。抑えるの大変…。炎の妖精も賢そうだね。手伝って」

「が、学生風情かつほぼ人間みたいな俺に悪魔族の相手は酷です…魔法もろくに使えない状態なのに…」

「それは残念…」


今度は砂糖がまんべんなく降りかかっているパンを取り出す。

…まだ食うか。


「それで、そのグサルとマルコの関係って?マルコはまだ百歳ぐらいのはずだけど」

「百歳でまだて…」

「悪魔の寿命は二千歳程度と言われているからねぇ…」


悪魔の成長は精霊や妖精と比べて緩やかだ。

百歳程度で人間で言うところの十五歳から二十歳程度になるそうだ。

マルコは年齢相当に十五歳程度。目の前のヴェルさんは六百歳程度になるようだが、見た目は若々しい。

それもそうか。悪魔族にも見た目を固定したり、変化させる種族特性を持ち合わせているのだろう。


精霊族も妖精族も人と同じ時間で成長を終える。

サーフェスはなりたてだろうけど、私がいつまでも二十代後半程度の見た目をしているのは「この顔の通りがいいから」である。

その気になれば年相応に年老いた姿になることも出来るのだが…身体の動きに制限がつく。

隠居するならともかく…現役で過ごすのであれば、この姿のままがいい。


「そういえば、りひたんも年齢と見た目がバグってたな…何かあるの?」

「見た目を固定する特性があるんだよ。俺はまだだけど…見た目を年齢相当にすることも出来るよ」

「へぇ…じゃありひたんもよぼよぼ爺さんになれるのー」

「なって見せてよリヒター・アリステラ。お前なら貫禄あるでしょ」

「…身体の仕様を変えるから、それ相応の負荷がかかる。やらないよ」

「「ちぇー」」

「…魔王様と氷雨、本当にそっくりだなぁ」


話が脱線している。

早く元の話に戻るように、ヴェルさんを睨んでおく。

彼女はその視線に対し、面倒くさそうに目を細めた後…渋々話を再開してくれた。


「話を戻すと…そのグサルは婚約者を残してご主人達の討伐作戦に立候補したわけね。で、その婚約者が…マルコの父親。流石にグサルの子ではないけど、まあ…そんな間柄だったわけ」

「…へ、は?そのグサルっての、生物学上では男で、マルコって奴の父親?も生物学上では」

「男だね」

「男ですね」

「男だよ」

「もぐ…この世界の悪魔族は同性同士で子孫を残すから。私も両親ともに生物学上の女だよ」

「!??!?!?!?」

「なんで、俺の方を見るんですか…氷雨」

「だ、だってリンド…魔族だって」

「悪魔族と魔族は名称が似ているから混同されがちだけど、別の種族だよ。悪魔族は角が混血でも生えているから、それで見分けていこうね」

「なるほど…世界って広いなぁ…」


こういう特殊な子孫の残し方は他の種族でも存在している。

私だって…その一例に含まれるのだろうね。


「話は戻すけど、その婚約者がグサルの遺書を見つけてしまったのが事の始まり」

「…その遺書には、なんと?」

「私が好きだったこと。婚約者のことは好きでもなかったと自白した内容。あいつ、最期の最期に特大の地雷を残して行きやがった…」

「あー」

「…婚約者側はグサルを慕っていたから大荒れ。家ぐるみで先代魔王を崇拝していたから、討伐したことも不服だった上…私が次の魔王に就任しちゃった。向こうからしたら三回ぐらい死体を蹴られている感じ。ざまあないね…もぐ」


「そ、それで君は今…」

「私は婚約者とその一族に隙あらば首を狙われる生活を送ることになった。以上」

「大丈夫なのかい?」

「私、滅茶苦茶強いから…」

「片手片足が作り物でも?」

「良いハンデを与えてやってるだけ。そう簡単にかつて最強と謳われた魔王直属部隊隊長じぶんのははおやを殺した私を倒せると思う悪魔がいるなら、そいつの居場所はこの世ではないね」

「…それもそうだね」


彼女の母親の功績は嫌というほど知っている。

ベアリアル・ベリアル…奴の活躍でいくつの都市が廃墟と化したか…。

それをノワを魔王の元へ送り込むためだけに、単騎で止めた挙げ句…勝利まで掴んできたヴェルさんが代償抜きで弱いわけがない。

彼女は、十分強い。


「で、マルコは…まあ、父親の意志を継いで私の事を「黒いの」の如く嫌っている。隙あらば殺したそう」

「でも、君はそのマルコの父親に半ば脅されて、彼の動向を知りたいのだろう?」

「ん。個人的にも反乱分子の動向は知りたかったし、ちょうどいいかなって」

「下手に動かれると厄介…ということはないだろう。なんせ彼は、支援魔法しか使えない魔法使いなのだから」

「そう。それに加え…過去の事件から他者を信用することは一切ない。支援魔法使いで誰かと戦えないのは致命的」


マルコだって私の教室にいる生徒。魔法に関してもれなく問題を抱えている側となる。

…だけど彼は人格の影響が強すぎると前々から考えていたのだが、本人の過去だけじゃなく親の因縁が関わっていたとは。

それに加えて氷雨の投入だ。今後、大波乱が起こりかねないぞ…。

まあ、マルコ自身教室に自ら近づくような子ではないから、しばらくは安泰だろうけど…このまま彼を放置するということは、教師としての私にはできないことだ。

…どうしたものか。


「彼はこれまた希有な自己強化ができる魔法使いだから、罠系だと君も苦労するのでは?」

「ご主人の性格の悪さが滲み出ている支援魔法に比べたら可愛いと思う。本当に嫌なところに、的確に支援魔法を張ってくるよりはマシ…。ご主人だけは敵に回したくない…」

「確かに一咲、嫌がらせ上等みたいな支援魔法の罠張るよな〜。落とし穴回避した先に落とし穴を仕掛けるとか当たり前だし。その中毒沼だしで最悪ったらありゃしない…思い出しただけでも吐きそう…」

「えげつなさが本当にご主人って感じ〜。ご主人解釈ポイント九十点あげられる〜」

「そ、そうかい…」


そういえば、一咲も支援魔法の方が得意な魔法使いだったね。

…元従者と弟子から性格が悪いと言われる支援魔法って何なのだろう。

まあ、なんだ。

聞かないでおこう。この話題は私にもダメージが入る。


「てか…自己強化ってここでも珍しいの?」

「氷雨のところでも珍しい?」

「うん。てか、魔法って基本的に「自分にかけられない」っていうのが常識なのは、新旧どころか世界的にも一緒な感じなの、サーフェス」

「そうだね…少なくとも俺も自分に魔法はかけられないよ。リヒター先生もですよね」

「お恥ずかしい限りだけどね!」

「もぐ…私の大嫌いな魔法使いは全員自分に魔法を使ってくる仕様でもあるのかな」


その言葉に、リンド以外の魔法使い全員が反応する。

自分に魔法をかけられる存在は非常に珍しい。

だからこそ、その一例がまだ存在することに…驚きを隠せない。

ましてや相手が間違いなく彼なのだ。

ヴェル・ベリアルが嫌う魔法使いなんて、たった一人しかいないのだから。


「…爺ちゃんも自分に魔法を使えたわけ?」

「使えた…って表現はなんか違うかも。例えばマルコが合法なら、あいつは脱法的な…」

「どのように使われていたのですか?」

「ご主人曰く「師匠は回復魔法を発動させた状態で体内に発動中の魔力を巡らせている」らしい。ちなみにご主人はできなかった」

「そりゃそうだろうよ。本来なら外に排出した魔力を内側に戻すような真似…」

「非常に難しいんだろうね。でも、できれば…多分だけど、応用で自己強化も出来るんじゃない?」

「しかし、それは…」

「卓越した魔力操作技術が求められる。それって凄く難しいんでしょう?リヒター・アリステラ。できる?」

「…わからない」


けれど、この場で出来る可能性があるのは私ぐらいだろう。

魔力操作技術には心得がある。

私の得意魔法は…それに関する魔法なのだから。


「そういえば、りひたんの得意魔法って?」

「…魔力吸収と魔力消失」

「もぐ…あの男は待機や周囲にいる存在から魔力を搾り取る魔法を得意としている。奴の魔弾に当たれば魔力を散らされる。先の戦争で死んだ魔法兵の死因の大半は「魔力欠乏症」」

「…」

「全部リヒター・アリステラの仕業。あれは魔法使いどころか、世界の天敵。魔力を持つ存在を殺し、残った存在は自分の強力な魔法で殲滅できる。絶対的な条件で勝利を掴める魔法使いは…後にも先にもあの男だけだと思うよ」

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