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13/13

13:五百年前の因果

「もぐもぐ…やばいね。これ…義足はお姉ちゃんしか修理できない。もしもしお姉ちゃんしよ」

「もしもしお姉ちゃんしたらどうなるんですか?」

「教えてあげるよ猫ちゃん」

「ね、猫ちゃん…」

「私のお姉ちゃんが三日後に帰ってきて、文句を言いながら私の義足を修理してくれるの。せっかくだし左腕も見て貰おうかな。最近荒事が多くて多用したから」


「左腕も義肢なのかよ…多用には触れないからな」

「ん。五百年前の戦いの時に片腕と片足を持って行かれて…以降ずっとこれ」

「大変だなぁ」

「大変でも、ご主人達を魔王の元へ送り込むためには必要な犠牲。ご主人達が世界を救えた代価が、私の片腕片足程度なら万々歳かも」


義足が壊れても、呑気にパンを貪るあたり…想定外と言うことではないらしい。

いや、元々彼女はこういう性質か。

手の内を常に隠し、冷静に物事を俯瞰する存在。

妖精都市の一件でも、彼女は洗脳魔法にかかったが…使役魔法を通じて解除。

物事を器用にノワが望む形へ誘導していたと聞く。

腹心としては有能。魔王としても、面倒くさがりながらもなんだかんだ上手くやっているらしい。

就任してから四百年。悪魔関係の荒事が起きていないというのはそういうことなのだろう。


「てかヴェルさん。いい加減俺から降りてくれます?」

「怪我人ぐらい労ろうよ。将来介護を受ける身になれば、氷雨だって自分の身体が思い通りに動かなくなる苦痛が理解できる。その気持ち、今わかったりしたい?」

「乗ってていいので暴力反対」

「ん。こういう自分の失言で自分の首を絞めるところ、ご主人にそっくり。ご主人の弟子を自称するだけはある」

「だから一咲は俺の師匠だって…」

「でも一咲は十六で死んでここに来ていた。私、ご主人が死んだ後の鈴海にも行ったから知ってるもん。ご主人生きてないもん。死んでるもん。転生したもん」

「もんもんやかましいもん!」


氷雨とじゃれる彼女からしたら、過去を思い出せる存在である氷雨はとても可愛らしいものらしい。

彼とは成り行きで保護者という間柄に落ち着いたが、まだ一日も経過していないのに親子のような間柄を構築していた。


「ヴェルさん」

「あ、誘拐犯」

「人聞きが悪い…」

「事実でしょう、リヒター・アリステラ。私がご飯を食べる合間に氷雨を連れて行って…」

「マジかよりひたん最低だな」


「すまなかったから…それに私も連れて行っていいと言われた…気がするし」

「私は保護者として連れて行っていいとは言っていない。同行したかった!」

「す、すまないね…」


「誠意が足りない。もう記憶飛ばさない」

「大変申し訳ございませんでした」

「…よろしい。今後も魔法使いの記憶は破壊してあげる。あれが夢に這い回る不快感は私もよく分かる」

「爺ちゃんは、ヴェルさんからどんな扱いされているわけ…?」

「黒いのと同列かな…」

「マジかよ…あいつ何やらかしたんだ?」

「…氷雨、多分君はノルドを想像したのだろうけど…ヴェルさんが言うのは普通の害虫の方だ」

「あー…確かに黒…えっ、人の祖父のこと何だと思ってるわけ」

「使えない魔法使い…ご主人の師匠…そして奴が生きていたら、私は奴の娘になっていた」

「…」

「私の魂は氷雨の母親になる女と同一。だから保護者を任命された」


氷雨だから伝えられる内容を、本来であれば周知してはいけない私達も聞き届けてしまう。

この世界の、根幹に関わる話。

これ以上はまずいと悟り、私達周辺に結界を張る。

これで情報が外に漏れることはない。

ただ、サーフェスとリンドは…厄介事に巻き込んでしまったように思えるが。


「じ、自分のこと母親とか自称するか!?」

「だって、氷雨は自分が信用できる存在の一人に「綾おばちゃん」を挙げた。じゃあ、母親の名前は結のはず」

「…なんで、それは言ってない。なんで知って」

「魔法使いが早死にしている事を抜きにしても、周囲には二ノ宮とか千早とかいたんじゃないの」

「それも言ってないだろ!?なんで知っているんだよ!?」

「言ってない。だけど知っている。理由はどうしてだと思う?はい、そこの炎の妖精!答えて!」

「ええっ…!?」


唐突に質問を振られたサーフェスは驚きながらも、しっかりと思案する。


「え、ええっと…ま、魔王様は記憶と夢に関する能力を持たれているんですよね。相手の記憶を読み取るのも、できるとか…?」

「確かに、私の場合は夢を経由して他者の記憶を覗くことはできる。だけど、ぶっぶー。ヒントは氷雨に残る魔力残滓」

「…サーフェス、氷雨に魔王様の魔力はついていない。能力は使われていないよ」

「本当かい、リンド!?じゃあ…どうやって?」

「猫ちゃんはどう思う?」

「俺ですか…?そうですね。英雄譚の七節!賢者ノワが師匠の杖を継承するため、異世界に旅立ったお話を参考にさせていただきますと!」

「お、いい線行ってるね。続けて続けて」

「「「!?」」」


答えはいつだって正攻法で見つけられるものではない。

英雄譚からなんてトンデモ解答をしたかと思えば、どうやらそれが正解ルートらしい。

…冗談だよね?


「その異世界というのが、氷雨の出身地なのは間違いないとして…その世界って、二種類あるんじゃないですか?」

「…」

「一つは「魔王様の魂が魔王様である世界」もう一つは…どういう原理か分かりませんけど「魔王様の魂が氷雨の母親をしている世界」があるんじゃないかなって」

「続けて」

「魔王様は氷雨に能力は使っていない。だけど、氷雨がいた世界を知る機会があった。氷雨に話しているのは、その時に知った情報なのではないでしょうか?」

「猫ちゃん天才。頭の良さはエミリーそっくりだね。猫獣人って皆こうなのかな?」

「ええええええええみりーさんに!はわわ!はわわっ!」

「もぐもぐ…扱い心得ちゃったかも」


ヴェルさんに褒められた事よりも、エミリーに似ていることが嬉しかったらしい。

土埃をあげて悶える姿を、私もだが氷雨もサーフェスも目を逸らしていた。


「しかし…それだと平行世界が実現していると君は断言していることにならないかい?」

「SF?的な事はよく分からないけど、世界は無数に存在していて、同じ時間が流れているのは確かだよ、リヒター・アリステラ。まあ、その世界は全てが同じとは限らないみたいだけど。誰かが死んでいて、誰かが生きているみたいな差異はある」

「なるほど?ところで、私はその「せすえふ」というのが理解できないのだけど」

「雰囲気で理解しろ。それと勢い」

「君、私相手になると、かなり雑になるよね」

「三千歳生きてる男を甘やかすほど、私も甘くない…」


パンを貪る彼女は何かを閃いたように、口元からそれを離す。


「あ、でもお前に媚びを売っておけば…「あいつ」の近況は逐一報告して貰える感じ?」

「…マルコのことかい?」

「ん。魔法学校…しかもお前のところに私の庇護下にある子供を送ったのがバレた」

「早くない?」

「…奴は私のストーカーみたいな事をしている。情報がなんか筒抜け」

「大変だね…」

「とにかく、私の氷雨の影響で」

「私のね」

「俺、りひたんのでもヴェルさんのでもないんだわ」

「…あいつの精神に異常がないか逐一報告書を出さないと、反乱分子でクーデターを企てると脅されている」

「とんでもない案件を持ち込んできたねぇ」

「仕方が無い。これも五百年前のツケ…」


ぼんやりと呟きながら、マジックポケットよりそれを取り出す。

断面が風化した悪魔族の象徴たる角。


「そ、それはまさか!賢者ノワが対峙した悪魔グサルの!?」

「あいつ英雄譚載ってんの?ウケる」

「あ、あの戦い…詳細が全然残っていなくって!是非とも聞かせていただきたく!」

「いいよ。他にも当時の事教えてあげる」

「はわわっ!」

「そのかわり、君が情報伝達役やってね、猫ちゃん」

「リンド・テンペスタです。お見知りおき…ヴェル様!」

「ん。よろしくね、猫ちゃん…もぐもぐ」


元主そっくりで、彼女も名前を覚えない。

…まあ、リンドが気にしていないからいいか。

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