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12/13

12:暴食の魔王は主がお好き

同時刻。

パシフィカから既に氷雨が魔法学校に連れて行かれたと連絡を受けた私は、渋々ここまで追いかけてきた。

私の食事中に、勝手に連れて行かないで欲しい。

追いかける手間が増えるじゃないか。

パシフィカはパシフィカでミリアと一緒に帰るし…。

お姉ちゃんもだけど、二人も昔より付き合い悪くなっていて、なんだか寂しい。

まあ、お互い偉い立場に座るようになったし…五百年前みたいな関わりは難しいと分かっている。

それでも、もう生きているのは私達だけな訳だし…関係性は大事にしたいではないか。


「もぐ、もぐ…」


しかし、リヒター・アリステラも勝手が過ぎる。

ご主人の元恩師だから勝手を許していたし、ある程度の要望を聞き入れてやっていたけど…氷雨を連れていくのはせめて許可を取ってからにして貰いたかった。


「失礼。この先は関係者以外の…」

「もぐ、もぐ…私、関係者」

「身分証の拝見を」

「もぐ…これでいい?」


今もなお刻まれた…というよりは、ご主人が死んで、消えてしまったものだから、入れ墨をして残したこれ。

これこそが、私の身分を示す代物。


「使役紋に、角ということは…悪魔族」

「まさか、貴方様…賢者ノワと使役魔法を結び、彼女と共に戦った現魔王の」

「もぐ…んぐ。その通り。リヒター・アリステラというか、彼が連れ帰った少年に会いに来た。私的な用事だから、上層部に許可を取る必要はない。通してくれたらそれでいい」


門番は私の身分と目的を確認した後、学校敷地内に通してくれる。

魔王の肩書きよりも、悪魔族というカテゴリーでもなく、私を私と示してくれるのは…いつだって、ご主人との繋がり。


一咲。一咲。大好きな一咲。

今日も貴方との楽しかった過去が、私を生かしてくれる。


◇◇


敷地内を駆け抜け、図書館に向かうリンドと彼に抱きかかえられて半分気絶している氷雨を追いかけ、私達は飛翔する。

流石獣人族。人一人抱えていてもなかなかの速度で駆けてくれる。


「リンドは獣人族の中でもかなり身体能力が高い部類です。こちらの飛翔でも追いかけるのは難しいでしょう」

「無駄に多い建物が悪いよね〜」

「学校だから仕方ありません…ああ、リンド。正面門の方に行って…来客に怪我をさせたらどうするつもりなんだ」

「早く追いかけ…」


ふと、風に乗った魔力の気配に身構える。

強大な力を有した存在が放つ特有の気配とも言えよう。

そして私は、この気配の持ち主を知っている。


「…追いかけてきたらしい。私達はここで静観しよう。面白いものが見られるよ」

「面白いもの、ですか?」

「ああ。魔王様の降臨だ」


人を軽々と避け、駆け続けるリンドは正面門に到達する。

それと時を同じくして、偶然…来客が現れた。

彼女はリンドを———リンドが抱きかかえている少年を一瞥し、片手で持っていたパンを口に押し込む。


「…面倒くさい。魔法使いの孫も使えない」


文句を言いながら地面を一蹴り。リンドの元へ一瞬で移動を仕掛けた。

かなりの距離があった。

リンドも、駆け続けていた。

だけど彼女は既に隣へ浮き上がる。


「ごめん。それ私の」


リンドが抱きかかえている氷雨を奪い取り、左足でリンドを蹴り上げる。

…右足だったら本気だっただろうが、左足ならかなり加減をしてくれているはずだ。

彼に怪我の心配はない。

それどころか、相当手加減してくれているようで…防御態勢を取れていたリンドの意識はまだ残っていた。


「っ…!いい蹴りですね、お姉さん!」

「猫の獣人。意識はある。身体能力は高め。でも、手加減しないと…怒られる」

「でも、その子は俺のクラスメイトなので!どういう間柄か知りませんが———!」

「私、氷雨の保護者…」

「え」

「リヒター・アリステラが勝手に連れて行ったから、私がここに出向く必要があった」

「…」

「クラスメイトに対する非礼は詫びる。蹴ってごめん。とりあえず話そう。話せば分かる…ご主人の世界ではこう言って交渉テーブルに持ち込むんでしょ?そこのところどうなの、意識を取り戻した椎名氷雨」

「…フルネームで呼ぶな。まあ、その言い分だと」

「うん」

「命乞いっすね…」

「それは、困ったかも」


腰のマジックポケットからパンを取りだして、呑気に頬張ると共に、リンドへ何かを投げた。


「おっと」

「それ、回復作用がある魔石。腹の痛みが消えるまで握りしめていなよ」

「あ、ありがとうございます…でも、いいんですか。こんな上等なもの」

「ご主人が時間遡行魔法をかけて無限に使えるようにしてくれている。魔力の心配はしなくていい」

「ご主人、というのは」


リンドの問いに答えるように、彼女はマフラーを緩める。

その首に刻まれているのは「使役紋」

しかし、彼女の主人はもう死んでいる。だから残っているあれは、ただの入れ墨。

何の効果もない。紋を通じて主と繋がったり、魔力を譲渡されることもない。

だけど、その証は彼女の立場を明確に示すには十分な効果を今もなお発揮している。


「こんにちは、私はヴェル・ベリアル」

「かつて賢者ノワに使役され、旅に同行し…世界を救った英雄の一人…こんなところで、会えるとは」

「棒立ち?反応が悪い…。今は魔王とか名乗った方がいいの?」

「…小声聞こえて無かったの、ヴェルさん」


魔王ヴェル。

夢を操作し、記憶に干渉する能力を持つ彼女に世話になったことは多々あるが…今はさておき。

私とサーフェスは近くに降り立ち、今にでも嬉しさではしゃぐ寸前のリンドの元へ向かった。


「…ところで、氷雨」

「何?」

「…足がギシギシ言ってるから、床に落としていい?」

「穏便に降り立たせる手段はげぶっ!」


氷雨が床に落下し、ついでにヴェルさん体勢を崩す。

「それ」が見えないようにしていたズボンの中で、それは歪に傾き…


「へぶっ」

「げぶっ!」


ヴェルさんは氷雨を下敷きに地面へ。

ズボンからすっぽ抜けた左足の義足は、音を立てて地面に倒れ…派手に壊れてしまった。

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