10:君の世界と私が知る世界
「…リンド、そろそろいいんじゃない?」
「ササーフェス!大好き!」
「流石を略して僕の名を変にするな…」
話している間に、リンドの魔力が回復したらしい。
普段は隠している猫耳と鍵尻尾も飛び出して、元気になったことを主張する。
「キジトラだぁ…」
「猫獣人の細かな種族名を言えるのかい、氷雨…」
「え、いや…俺たちの世界にも猫はいるよ?うちにも魔法を使う猫がいたらしいし…」
「魔法を使う生物か…」
魔法を使う生物といえば…金糸雀のカナちゃんの事を思い出す。
譲と出会った都市で行われたオークションに出品された、人工魔法生物。
この世界の魔法使いには、魔力生成器官という臓器が備わっており…そこで生成される魔力と、大気に浮かぶ魔力を混ぜ合わせて魔法を行使するのが常識だ。
この器官をもって産まれる確率は非常に低く、産まれたとしてもハンデを抱えるケースが多い。
私の知り合いにも、心臓付近に出来た生成器官に自身の心臓が押し潰されて亡くなった魔法使いは、何人も…。
「何か思い出でもあるの?」
「ああ。人工的に魔力生成器官を移植された生物の相手をしたことがあってね。その時に、君のお爺さんとも出会ったんだ」
「へぇ…一応だけど、小動物に魔力生成器官の移植って成功してたの?」
「成功はしていた。ただし、使いこなしてはいなかった」
結局、あの子も魔力暴走を起こして死んでしまった。
でも…カナちゃんの死は決して無駄にはならなかった。
「人工魔法生物は魔力暴走を起こした際に、ノルドの娘のスフィリアに取り憑いてね…」
「は?くろいの娘いるの!?」
「そこかい…。まあ、今の妻との間の子ではないけれどね…」
「しかも結婚二回してるのかよ…で、そのスフィリア嬢は?」
「取り憑かれた身ではあるが、あの子の死を酷く悼んでね…同級生だったノワとエミリー、師匠であり、将来母親になるイスカと共同して、安心設計の人工魔力生成器官と生成補助具を作り上げたんだ」
「すげーな、黒いの娘」
「…スフィリアは黒くないよ?後、ちゃんと名前覚えようね。サーフェスは覚えられただろう?」
「…?」
「もう忘れたのかい?!」
「冗談だよりひたん。流石の俺も同級生の名前を忘れる程、薄情な男に育てられた覚えはない」
その冗談が冗談に見えないのはどうしてだろうね…。
全く。本当に彼は彼女にそっくりだ。
ノワ…君の面影をよく感じ取れる。
思えばあの都市で君の正体を知ったものだね。
君が病死した女の子で、異世界転移を果たした魔法使い。友江一咲だと…。
「ところで、氷雨のご両親は健在なのかい?」
「ん。だけど両親は俺の事には無関心」
「え」
「魔法使えるところを見せた時に、やっと目を向けてくれたぐらいかな…」
「…」
「父さんは足の動かない母さんのことにつきっきりだし、父方の祖父母は音楽家だから、世界中飛び回ってるしね。俺の面倒を見てくれたのは、婆ちゃんと、綾おばちゃん。それから師匠をしてくれてる一咲おばちゃんぐらいかな」
「…一咲」
「知ってるの?まさか、爺ちゃんの二番弟子だったらしいし、ここまでついてきた訳ないよね」
「…うん。ついてきてはいないね」
ついてきてはいない。
だけど、彼女は———確かにこの世界にいた。
魔王討伐の旅を終えてから、詳しい話を聞いた時…あの子はこう言っていたね。
前世で病死したからノワとして、この世界に転生したと…。
しかも十六歳程度での死だ。
とてもじゃないが、氷雨に会える年齢ではない。
でも、氷雨の師匠をしていると言うことは、彼女は…十六歳を越えて生きていないとおかしくなる。
まさか…いや、そんなことがあっていいのだろうか。
私はてっきり、氷雨は譲が元の場所に帰還した後、設けた子供から産まれた孫だと思っていた。
でも、これが正しければ…
一咲が病死した時間から続く世界から、一咲が生きている時間からの来訪者を招いたとしたならば———。
私が知る譲と、氷雨が知る譲は…構成する情報こそ一緒でも、異なる可能性があるのではないか?
…まさか、こんな時を生きていて、これに遭遇するとは思わなかった。
平行世界は、実在していたんだ。
「…りひたん、なんか楽しそう」
「そうだね。本当に君のおかげだよ!」
「…?」
「氷雨、後で平行世界理論について語り合おう。出来れば今晩!」
「なんで急にそんなSFちっくな話を持ち込むわけ…?」
「君の立ち位置をはっきりさせるためだよ!ふふふふふふふふふ今夜は私の家においで!」
「…別に良いけど、そもそも俺の家ってどうなっているの?」
「そういえば聞いていなかったね。ノルドに確認させておくよ」
「人使い結構粗めだよね、りひたん…」
通信魔法でささっと氷雨の家の確認をノルドに手配し、報告を待つことにする。
さて、そろそろ本題に入ろうか。
「話、終わったみたい」
「そっかそっか。ところでサーフェス、あいつ誰?」
「氷雨は氷雨。ほら、この前…王城でお偉いさん方が集まってた時の」
「あの儀式の時に呼ばれた異世界転移者!?もしかして魔法使い!?」
「そ、そうだけど…」
私達が歩み寄る前に、話を進めていたのだろう。
事情を把握したリンドは、氷雨めがけて思いっきり跳躍した。




