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1:あの日はまだ、離れない

…久しぶりに、嫌な夢を見る。

先の大戦で功績を挙げて、数多の教え子の輩出してきた。

自分でも周囲が謳うように「最強の魔法使い」の自負が芽生え始めていた。


『おや…これがこの世界の最高峰かい?』

『実につまらないね。お手本とも言えるお綺麗な魔法ばかり使って…軌道すら発動前に読めてしまうだなんて』

『案外君みたいな存在なのかもね。凝り固まった過去の中に生きて…魔法の未来を衰退させるのは』

『———この程度で魔法の未来を作っているだなんて、笑わせてくれる』


ある任務中。別世界から迷い込んだ魔法使いと戦闘になった。

…戦闘になった、と言うのもおこがましいな。

私は彼の必殺魔法を見ることすら叶わないまま、自分の手の内を全て曝け出し、敗北を喫したのだから。


旗のついた身長ほどの杖を軽々と扱い、舞うように魔法を使っていた。

———それも、初歩中の初歩の魔法のみで私の相手をこなしてきたのだ。

魔法は身体の一部と言わんばかりに、彼が望むがまま、縦横無尽に軌道を描く。


こんなもの、勝てるわけがないじゃないか。


心の底から敗北を覚え、勝敗が決した際の…立っているのに地面に押しつぶされるような感覚を、今でも覚えている。

それは彼の魔法だったのか、私の心がそう誤認していたのかは分からない。


ただ、私はその日から…自分を才能のある魔法使いだとも、最強と謳われるような魔法使いとは自負しなくなった。

回りからそう言われても、否定するようになった。

それが謙遜だと言われる度に、奴の影が私の背後をちらつく。


結局、彼への再戦は叶わなかった。


その勝負から半年後、彼の弟子をしていた私の教え子に近況を伺った。

まだ一緒に旅をしているものだと思った。

再会したら、再戦が叶うと信じて…負けじと腕を磨き続けた。

でも、それは全て無駄になってしまった。

彼は次の旅に出かけたと。もう戻ってくることはないだろうと———弟子に杖を預けて、どこかへ行ってしまったらしい。

勝ち逃げ、されてしまった。


その心の隙を突かれ、挙げ句の果てには彼の弟子———私の教え子からも敗北を与えられる羽目になったのは、遠い昔の話。

なんせあの日から、五百年の時が経過しているのだから。

彼も教え子も…もうこの世界にはいない。


「…また奴の夢を見た」


奴の夢はもう見ることがないと思っていた。

五百年前に作ってしまった、一生を賭しても果たせない未練。

もう忘れてしまおうと、心の中では思っているし…記憶を軽く飛ばしてみたりしたのだが…なかなか忘れることは出来ない。

魂に刻まれた敗北。一生私を「最強の魔法使い」と謳わせてくれない呪い。

ただ、この立場の都合上…名実ともにその称号が欲しいだけだというのに。


君の存在が、私を最強にしてくれない。

大義も果たせない。魔法使いの指標ともなれない。

そんな私に、再び「あの場所」に立つ権利はあるのだろうか。


「はぁ…」

「…おはようございます、リヒター先生」

「おはよう。どうして私の部屋に入っているんだい、ノルド」

「先生の身支度のお手伝いは、僕の仕事です。はい、お水です」

「ありがとう…」


かつての教え子であり、今は同僚となったノルド・ルミナリエは僕にコップを差し出す。

ほどほどにぬるい水は意識の覚醒を急激に促すことなく、喉を軽く潤してくれる。


「…だいぶ、魘されていましたが」

「起こしてくれたのかい?」

「これが続くようなら…と、思っていたところで起きられたので」

「そうかい」

「…どんな夢、だったのでしょうか」

「また奴の夢を見てね」


「…この前、魔王に記憶を弄って貰っていたではありませんか。まだ忘れられていないのですか?」

「それでも効果が出なかった。魂に住み着いてくれているのかもね」

「…僕は先生の魂に住めていないのに」

「住む必要は無いよ。それより、私の元へいていいのかい?君、この前子供が産まれたじゃないか」

「そうですね」

「さらっと返事をしないでくれ。わざわざ国境を越えてメルクリアまでついてこなくてもいいのではないかい?今は妻を支える時だよ」

「その妻から、リヒター先生を支える任務を最優先しろと…家を蹴り出されました。スフィリアがいるから大丈夫とも」


「そうかい。相変わらずイスカの尻に敷かれているんだねぇ」

「いつも通りです。おかげさまで、やっと笑えています。スフィリアとも…ちゃんと親子をやれています」

「やっとか。本当によかった」


ノルドはコップを受け取った後、用意してくれていた衣服を差し出してくれる。

着替えを手伝うと申し出た彼を部屋から追い出し、ささっと着替えを終えて…外に出ると…。


「先生、今日も麗しいです。真新しい制服が先生の凜々しさを更に引き立てています!はい、蒸しタオルです!」

「…ありがとう」


やっと人生順風満帆になったはずの教え子は私の使用人のようにテキパキと働き続ける。

…そういうのは、妻子相手にしてほしいのだけど。

言っても聞かないのだろうな。むしろ彼の妻がそれを優先するように誘導している。


「先生、食事は如何なされますか?」

「移動しながら摂る」

「そういうと思い、既に携行食を用意しております。先生の大好きなゴロゴロ卵ペーストのサンドウィッチです」

「…本当に仕事が早いね」

「この世で唯一予知魔法を使える魔法使いとして、日々研鑽を重ねる為、手始めに先生の行動を魔法で予知し、把握している状態で会話を進めています!」

「こんなことに魔法を使わないでくれ…」


ノルドに腕を引かれながら、移動用の馬車に乗せられ…目的の場所へ移動する。

今回は先に王城へ向かう手はずなんだっけ。

そこで教え子の一人と先行して対面することになっている。

異世界からの来訪者、か。

まるで奴のような存在。

あの夢を見たのも…何かの縁があるのだろうか。

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