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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)


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第7話「訪問者」

翌朝、俺と美咲は偵察に出発した。


武器と食料をリュックに詰めて、病院を出る。人々が見送ってくれた。子供たちが手を振っている。


「気をつけてね」


誰かがそう言った。俺は頷いて、美咲と共に街へ向かった。


朝の空気は冷たい。冬が近づいている。崩壊したビルの間を歩きながら、俺は昨晩見た光の方向を思い出していた。北東の方角だ。


道中、美咲が話しかけてきた。


「柊さん、左腕のこと、ずっと気になってました」


俺は美咲を見た。


「黒いですよね。魔法の影響ですか」


「…契約した」


「契約?」


「魔王の欠片と」


美咲が驚いた顔をする。


「魔王の欠片…それって」


「一年前、一人で生きていたとき、出会った。力を貸してくれると言われて、契約した」


美咲が俺の左腕を見る。


「だから、そんなに強いんですね」


「…まあ」


「喋れるんですか。その、魔王の欠片」


「ああ」


美咲は少し考え込んでいたが、やがて笑顔を見せた。


「でも、あなたを助けてくれているなら、悪いものじゃないですよね」


俺は何も答えなかった。左腕が悪いものかどうか、俺にも分からない。ただ、今のところ、左腕は俺を裏切っていない。


数時間歩いて、俺たちは目的地に到着した。


元々は商業施設だった場所で、今はバリケードが作られている。高い壁と見張り台があって、人の気配がする。


俺たちが近づくと、見張りが銃を向けた。


「止まれ!」


俺は手を上げた。


「敵じゃない」


見張りが警戒しながら、施設の中へ声をかける。しばらくすると、男が出てきた。


30代くらいの男で、がっしりとした体格をしている。元自衛隊だろうか。そんな雰囲気がある。


「お前たち、どこから来た」


「近くの病院に集落がある。昨晩、魔法を見た」


男が頷いた。


「そうか。俺たちだ。俺は三田。ここのリーダーだ」


「柊だ」


「佐藤です」


美咲も名乗る。


三田がバリケードを開けて、俺たちを中に入れた。


施設の中は、思ったより整頓されていた。20名ほどの生存者がいて、皆、何かしらの作業をしている。武器の手入れ、食料の整理、バリケードの補強。組織化されている。


三田が俺たちを案内してくれる。


「うちには魔法使いが3名いる。お前も魔法使いか」


「ああ」


「なら、協力できるかもしれないな」


三田がそう言って、提案してきた。


「お前たちの集落と、協力しないか。食料や情報を交換する」


俺は少し考えた。


「…考える」


美咲が口を挟む。


「いいと思います。人数が増えれば、安全になります」


三田が頷く。


「そうだ。この世界じゃ、協力しなければ生き延びられない」


三田が真剣な顔で続ける。


「それに、最近、魔物の動きがおかしい」


「どういうことだ」


「大群が形成されている。偵察に出た部下が報告してきた。近いうちに、大規模な襲撃があるかもしれない」


俺は眉をひそめた。


「どれくらいの規模だ」


「分からない。だが、数百はいる」


数百。桁が違う。


美咲が不安そうな顔をする。俺も同じだ。数百の魔物と戦えば、集落は壊滅する。


「情報をありがとう。集落に戻って、皆に知らせる」


三田が頷いた。


「気をつけろ。魔物は、もう近くまで来ているかもしれない」


俺と美咲は三田のグループに別れを告げて、施設を出た。


帰り道、美咲が不安そうに言う。


「数百の魔物…どうしましょう」


「…分からない。だが、戦うしかない」


「逃げるという選択は」


「逃げても、追ってくる。だったら、戦った方がいい」


美咲は黙った。


俺たちは急いで集落に戻ろうとした。だが、途中で、地面が揺れた。


地震ではない。この揺れは、何か巨大なものが大地を踏みしめている揺れで、規則的に、しかし次第に強まりながら、俺たちの足元を震わせている。


遠くで咆哮が聞こえる。一つではない。十も、百も、数え切れないほどの咆哮が重なり合って、まるで雷鳴のような轟音となって街中に響き渡っている。地鳴りのような音も混じっていて、まるで軍隊が進軍しているかのようだ。


俺は美咲を見た。美咲も俺を見ている。言葉はいらない。二人とも分かっている。あれが、魔物の大群だ。


俺は近くの崩壊したビルを指差した。美咲が頷いて、二人で階段を駆け上がる。階段は半分崩れていて、足を踏み外せば転落する。それでも、俺たちは上へ上へと駆け上がった。


屋上に出た瞬間、俺は息を呑んだ。


魔物の大群が、遠くを移動している。


数百どころではない。千を超えているかもしれない。いや、それ以上かもしれない。あらゆる種類の魔物が、まるで川のように、一斉に同じ方向へ流れている。犬型の魔物が地面を駆け、猫型の魔物が素早く動き回り、鳥型の魔物が空を飛び、そしてその中に、大型のB級魔物が混じっている。さらに遠くには、A級魔物の巨大な影も見える。まるで魔物の軍隊で、その規模は俺が今まで見た中で最大どころか、想像を絶するものだった。


美咲が震える声で呟く。俺は美咲の方を見ずに、魔物の大群が向かっている方向を確認する。俺の心臓が早鐘を打つ。胸が締め付けられるような感覚だ。あの方向は、俺たちの集落がある方向だ。病院の方向だ。子供たちがいる。人々がいる。美咲の仲間がいる。


時間がない。このままでは、集落が襲われる。人々が、子供たちが、皆殺しにされる。高橋が命を懸けて守ろうとした人々が、俺が守ると決めた人々が、あの魔物の大群に飲み込まれる。


俺は階段を駆け下りた。美咲も続く。二人で全速力で走る。息が切れる。肺が痛い。足が悲鳴を上げている。だが、止まれない。止まれば、皆が死ぬ。


街を抜けて、病院へ向かう。魔物の大群に気づかれないように、崩壊したビルの影を走る。だが、魔物の移動速度は速い。地鳴りのような音が次第に大きくなっている。このままでは、俺たちが集落に着く前に、魔物が到達してしまうかもしれない。


俺はさらに速度を上げた。美咲も必死についてくる。汗が流れる。視界が滲む。呼吸が荒い。心臓が破裂しそうだ。


やがて、病院が見えてきた。まだ魔物は到達していない。バリケードも無事だ。間に合った。


俺たちは病院に駆け込んだ。息を切らしながら、人々に叫ぶ。


「魔物の大群が来る!」


人々が集まってくる。不安そうな顔だ。


「数百以上の魔物だ。いや、千を超えているかもしれない。こっちに向かってる」


人々がざわつく。恐怖が広がる。子供たちが泣き始める。母親が子供を抱きしめる。老人が祈り始める。


「どうする」


「逃げるのか」


「どこへ逃げるんだ」


「戦うしかないだろう」


人々が混乱している。


俺は深呼吸をして、落ち着いて言った。


「三田のグループに連絡する。協力して戦う。でなければ、全滅する」


人々が顔を見合わせる。やがて、一人の男が頷いた。


「分かった。使者を送ろう」


他の人々も頷く。決断した顔だ。


「準備を始めよう」


人々が動き始めた。バリケードを強化する者、武器を確認する者、子供や老人を建物の奥へ避難させる者。皆、必死だ。まるで戦争の準備をしているかのようで、実際、これは戦争なのだ。人類と魔物の、生存を懸けた戦争だ。


美咲が俺の隣に来た。


「柊さん、私たちはどうしますか」


「前線だ。魔法使いが戦わなければ、勝てない」


美咲が頷く。不安そうな顔だが、覚悟を決めている。その目には、恐怖と共に、決意が宿っている。


俺は病院の屋上に上がって、遠くを見た。魔物の大群は、まだ見えない。だが、地鳴りのような音が近づいてきている。空気が震えている。


夕方には、三田のグループからも数名が到着した。三田自身も来ている。


「間に合ったか」


「ああ」


三田が周囲を見回す。


「バリケードはこれで十分か」


「分からない。だが、これが限界だ」


三田が頷いた。


「俺たちも全力で戦う」


夜になった。


人々は眠れない。皆、バリケードの内側で武器を握りしめて、魔物が来るのを待っている。子供たちは建物の奥で眠っているが、大人たちは眠れない。恐怖と緊張が、空気を支配している。


俺は屋上で見張りをしていた。美咲も隣にいる。


月が出ている。満月だ。月の光が、廃墟の街を照らしている。まるで舞台を照らす照明のようで、これから始まる戦いを、月が見守っているかのようだ。


静かな夜だ。だが、嵐の前の静けさだ。


美咲が小さく呟く。


「明日、どうなるんでしょうね」


俺は答えなかった。答えられない。明日、俺たちは生きているだろうか。それとも、全員死んでいるだろうか。


遠くで、何かが光った。


魔物の目だ。


数え切れないほどの、赤い目が、こちらを見ている。まるで星のように、無数の赤い光が、闇の中で輝いている。


魔物の大群が、来る。

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