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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
3章-真実

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第52話「何も終わらなかった男」

 魔物消失から半年後。


 慎吾が墓地へ向かっていた。手には、花束を持っている。白い花だ。


 天気は晴れ。風が心地よい。空は青く、雲が流れている。


 慎吾が墓地の門をくぐる。


 静かだ。鳥の鳴き声だけが聞こえる。


 慎吾が歩く。墓石が並んでいる。


 やがて、慎吾が立ち止まる。


 第七班のメンバーの墓が、並んでいる。


 六つの墓石。


 美咲。河村。田中。佐々木。岡本。橋本。


 慎吾が花を供える。一つひとつの墓に、丁寧に。


 最後に、橋本誠の墓の前に立つ。


 慎吾が膝をつく。


 「……久しぶりだ」


 慎吾が静かに語りかける。





 「橋本……終わった。魔物パンデミックが」


 慎吾の声は、静かだ。


 「お前たちの死から、二年半が経った」


 慎吾が空を見上げる。


 「……俺は、生きている」


 沈黙。


 風が吹く。木の葉が揺れる。


 慎吾が再び墓を見る。


 「俺は、お前たちを殺した」


 その言葉は、何度も言ってきた言葉だ。だが、今も重い。


 「その罪は、消えない」


 慎吾が俯く。


 「何も終わらなかった」


 その言葉が、墓地に響く。


 慎吾が空を見上げる。青い空。雲が流れている。


 「だが、世界は救われた」


 慎吾が続ける。


 「魔物はいない。人々は笑っている」


 「……それは、お前たちが望んだことだった」


 慎吾が再び墓を見る。


 「お前たちは、世界を救いたかった」


 「俺は、終わらせたかった」


 「だが、結果は同じだった」


 慎吾が微かに笑う。


 「……皮肉だな」


 沈黙。


 慎吾が橋本の墓に触れる。冷たい石だ。


 「橋本。お前の婚約者に会った」


 慎吾が静かに語る。


 「水無瀬遥。彼女は、俺を許さなかった」


 「当然だ。俺も、自分を許していない」


 「だが、彼女は『感謝する』と言った」


 慎吾が微かに笑う。


 「……お前が聞いたら、怒るかもしれないな」


 沈黙。


 慎吾が立ち上がる。


 「俺は、これからどう生きればいい」


 慎吾が自問する。


 「……分からない」


 「でも、生きる」


 慎吾が墓を見る。


 「それが、お前たちへの償いになるとは思わない」


 「だが、それしかできない」


 慎吾が深く頭を下げる。


 「……また来る」


 慎吾が顔を上げる。


 「お前たちのことは、忘れない」


 慎吾が歩き始める。


 墓地を出る。


 門の前で、慎吾が振り返る。


 六つの墓石が、静かに並んでいる。


 慎吾が小さく手を振る。


 そして、歩き始める。





 墓地の入り口。


 陽菜が立っていた。


 遠くから、慎吾を見ていた。声をかけなかった。ただ、見守っていた。


 慎吾が墓地を出る。陽菜に気づく。


 「……白石」


 陽菜が微笑む。


 「柊さん」


 慎吾が陽菜に近づく。


 「……見ていたのか」


 陽菜が頷く。


 「はい。邪魔をしたくなかったので」


 慎吾が頷く。


 「……そうか」


 二人で歩き始める。墓地から離れていく。


 陽菜が口を開く。


 「柊さん……これから、どうしますか」


 慎吾が答える。


 「……仕事に行く。清掃の」


 陽菜が頷く。


 「そうですか」


 慎吾が問う。


 「お前は」


 陽菜が答える。


 「大学です。今日は授業があります」


 慎吾が静かに言う。


 「……頑張れ」


 陽菜が笑う。


 「はい」


 やがて、分かれ道に来る。


 陽菜が立ち止まる。


 「柊さん。また」


 慎吾が頷く。


 「……ああ。また」


 二人が別々の道を歩く。


 陽菜は大学へ。慎吾は仕事場へ。


 慎吾が一度、振り返る。陽菜も振り返る。


 二人が手を振る。


 そして、それぞれの道を歩いていく。


 慎吾が街の中を歩く。


 周りには、普通の人々がいる。子供たち、老人たち、家族たち。


 誰も慎吾を特別視しない。ただの通行人だ。


 慎吾は、もう特別ではない。ただの人間だ。


 魔法使いでもない。化け物でもない。


 普通の、人間だ。


 慎吾が立ち止まる。空を見上げる。


 青い空。雲が流れる。亀裂はない。魔物もいない。


 ただ、空だけがある。


 慎吾が呟く。


 「……左腕」


 風が吹く。


 「お前はいない。だが、忘れない」


 慎吾が歩き始める。


 「……生きるか」


 その言葉には、決意がある。


 生きる。それが、左腕との約束だ。


 生きる。それが、第七班への償いだ。


 生きる。それが、慎吾の選んだ道だ。


 慎吾が街の中に消えていく。


 普通の人々の中に。日常の中に。


 もう、誰も慎吾を知らない。


 世界を救った男を、誰も知らない。


 だが、それでいい。


 慎吾は、それを望んだ。


 ただ、生きる。普通の人間として。


 何も終わらなかった。


 第七班の罪は消えない。左腕を失った喪失感も消えない。


 だが、世界は救われた。


 人々は笑っている。子供たちは遊んでいる。


 それで、いい。


 慎吾が歩き続ける。


 街の雑踏の中を。


 その姿は、やがて見えなくなる。


 ――


 相良健一の記録より。


 『何も終わらなかった。柊慎吾は、第七班の罪を背負い続ける。左腕を失った喪失感も、消えることはない。だが、彼は生きている。普通の人間として、静かに。それが、彼の選んだ道だ。世界は救われた。だが、彼の中で何も終わらなかった。それでいい。終わらないことが、生きることだから』


 ――


 街の全景。


 高いビルから見下ろした景色。


 無数の人々が歩いている。


 その中に、慎吾がいる。


 だが、もう見分けがつかない。


 ただの一人として、街の中を歩いている。


 空は青い。


 雲が流れている。


 世界は、静かだ。


 魔物はいない。


 平和がある。


 そして、慎吾は生きている。


 何も終わらなかった男が、生きている。


 それが、物語の終わりだ。



(完)

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