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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
3章-真実

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第50話「静寂の中で」

 新しいアパート。


 慎吾が引っ越してきた。場所は、かつてのイエローゾーンだった地域。今は、普通の住宅街になっている。


 慎吾が荷物を片付ける。段ボール箱を開け、中身を出す。


 家具は最低限だ。ベッド、机、椅子。それだけ。


 慎吾が窓の外を見る。


 子供たちが公園で遊んでいる。笑い声が聞こえる。老夫婦が散歩している。手をつないで歩いている。


 日常がある。平和がある。


 慎吾が呟く。


 「……静かだ」


 魔物の気配はない。戦う必要もない。


 慎吾が机に座る。何をするでもなく、ただ座る。


 部屋の中に、静寂だけがある。


 慎吾が左腕を見る。普通の腕だ。紋様はない。


 「お前はいない」


 その言葉が、静かに流れる。


 慎吾が第七班の写真を机に置く。六人が笑っている写真。


 「……みんなも、いない」


 慎吾が窓の外を見る。


 「だが、俺は生きている」


 その言葉には、まだ実感がない。





 数日後。


 慎吾がハローワークに来ていた。


 窓口の職員が、慎吾を見る。


 「お名前は」


 「柊慎吾です」


 「年齢は」


 「26歳です」


 職員がパソコンに入力する。


 「前職は」


 慎吾が少し躊躇する。


 「……魔法使いです」


 職員が頷く。


 「……そうですか。では、特技は」


 慎吾が答える。


 「……特にありません」


 職員が求人票を見せる。


 「工事現場の作業員、倉庫の管理、清掃員……」


 慎吾がリストを見る。


 「……清掃員でお願いします」


 職員が頷く。


 「分かりました。面接の日程を調整します」


 数日後。


 慎吾が清掃員として働き始めた。オフィスビルの清掃だ。


 朝早く出勤する。制服に着替える。モップと雑巾を持つ。


 慎吾が廊下を掃除する。


 モップで床を拭く。窓を拭く。ゴミを捨てる。


 単純な作業。繰り返しの作業。


 だが、慎吾は丁寧にやる。一つ一つ、確実に。


 同僚が慎吾に話しかける。


 「柊さん、真面目だね」


 慎吾が顔を上げる。


 「……そうですか」


 同僚が笑う。


 「うん。丁寧にやってくれるから、助かるよ」


 「……ありがとうございます」


 同僚が続ける。


 「頑張ってね」


 慎吾が頷く。


 「……はい」


 仕事が終わる。


 慎吾がアパートに帰る。


 疲れている。体が重い。


 だが、魔物と戦っていた時の疲れとは違う。


 あの時の疲れは、命を削る疲れだった。死と隣り合わせの疲れだった。


 今の疲れは、ただの疲れだ。普通の疲れだ。


 慎吾がベッドに横になる。


 「……これが、普通なのか」


 その言葉が、天井に消える。





 ある夜。


 慎吾が一人でアパートにいる。


 テレビをつける。ニュースが流れている。


 「復興が進んでいます」


 「魔物パンデミックから3ヶ月」


 「人々の生活は、徐々に元に戻りつつあります」


 画面には、笑顔の人々が映っている。子供たち、家族、老人たち。


 慎吾がテレビを消す。


 静寂。


 慎吾が左腕を見る。普通の腕だ。


 「……お前はいない」


 慎吾が窓の外を見る。街の灯りが見える。


 「第七班の罪も、消えない」


 慎吾が呟く。


 「橋本の死も、変わらない」


 慎吾が立ち上がる。部屋の中を歩く。


 「……何も終わらなかった」


 その言葉が、部屋に響く。


 慎吾が立ち止まる。


 「だが、世界は救われた」


 慎吾が窓の外を見る。


 「人々は笑っている」


 「魔物はいない」


 慎吾が座る。机に座り、第七班の写真を見る。


 「……これでいいのか」


 答えは出ない。


 慎吾が写真に触れる。


 「美咲。河村。田中。佐々木。岡本。橋本」


 一人一人の名前を呼ぶ。


 「……すまない」


 その言葉は、謝罪なのか。それとも、報告なのか。


 慎吾は分からない。


 ただ、言う。


 「世界は……救われた」


 静寂。


 慎吾が写真を机に戻す。


 「でも、俺は……まだ、救われていない」


 その言葉が、真実だ。


 世界は平和になった。人々は笑っている。


 だが、慎吾の心は、まだ救われていない。


 罪は消えない。記憶も消えない。


 慎吾が立ち上がる。


 「……それでも、生きる」


 その言葉には、少しずつ決意が宿っている。





 翌朝。


 慎吾が仕事に行く。


 清掃の仕事を続ける。


 廊下を掃除する。窓を拭く。ゴミを捨てる。


 昼休み。


 同僚たちと一緒に弁当を食べる。


 同僚が話しかける。


 「柊さん、休みの日は何してるの」


 慎吾が答える。


 「……特に何も」


 同僚が笑う。


 「じゃあ、今度飲みに行こうよ」


 慎吾が驚く。


 「……いいですか」


 同僚が頷く。


 「もちろん! みんなで行こう」


 慎吾が微かに笑う。


 「……はい」


 午後。


 慎吾が窓を拭いている。


 窓の外を見る。


 青い空が見える。雲が流れている。


 亀裂はない。魔物もいない。


 ただ、青い空だけがある。


 慎吾が呟く。


 「……生きるか」


 その言葉には、47話、48話よりも、少しずつ実感が伴っている。


 生きる。それが、左腕との約束だ。


 生きる。それが、みんなとの約束だ。


 慎吾が窓を拭き続ける。


 丁寧に、一つ一つ。


 その動作には、静かな決意がある。


 生きる。普通の人間として。


 罪を背負いながら。記憶を抱えながら。


 それでも、生きる。

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