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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)


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第5話「移動」

翌朝、集落が移動の準備を始めた。


人々が荷物をまとめている。食料、水、武器、毛布、ありとあらゆるものをリュックや袋に詰め込んで、持てるだけ持とうとしている。子供たちは不安そうな顔をしていて、親に抱きついている。老人たちは疲れた顔をしていて、それでも荷物を運んでいる。


美咲は昨日の傷から回復しつつあった。治療魔法で自分の傷を治したらしい。だが、まだ顔色は悪くて、動きも鈍い。


俺は美咲に近づいた。


「大丈夫か」


「…大丈夫です。これくらい」


美咲が弱く笑う。だが、その笑顔は痛々しい。


「無理するな」


「ありがとうございます」


美咲がそう言って、荷物を持とうとする。俺は美咲の荷物を取った。


「俺が持つ」


「すみません」


美咲が謝る。俺は何も言わずに、荷物を背負った。


高橋が皆を集めて、移動の説明をしている。


「新しい拠点は、ここから西に5キロほどの場所だ。廃墟となった病院がある。そこを新しい集落にする」


人々が頷く。


「途中、魔物に遭遇するかもしれない。だが、柊と佐藤がいる。大丈夫だ」


高橋が俺を見る。俺は頷いた。


出発の時間になった。


10名ほどの生存者が、荷物を持って学校を出る。子供を抱える親、老人を支える若者、皆、必死に歩いている。まるで難民のようで、実際にそうなのだろう。この世界では、皆が難民だ。


街を歩く。崩壊したビルの間を、錆びた車を避けながら、ゆっくりと進む。子供や老人がいるから、速くは歩けない。


空は曇っていて、今にも雨が降りそうだ。風が冷たい。冬が近づいている。


移動中、俺は周囲を警戒した。魔物がいつ現れるか分からない。左腕も警戒している。


『何かがおかしい』


左腕が呟く。


「何だ」


『静かすぎる』


確かに、魔物の姿が見えない。いつもなら、この辺りには小型の魔物がいるはずなのに、今日は一匹もいない。まるで、何かに追い払われたかのように。


俺は嫌な予感がした。


移動を始めて数時間が経った頃、高橋が休憩を命じた。


「ここで休もう」


人々が座り込む。皆、疲れている。子供たちは泣いている。


美咲が子供たちを慰めている。


「大丈夫よ。もう少しだから」


子供たちが頷く。


俺は高橋の隣に座った。


「順調だな」


「ああ。このままいけば、夕方には着く」


高橋がそう言った瞬間、遠くで咆哮が聞こえた。


俺たちは立ち上がった。


「魔物だ」


高橋が銃を構える。


咆哮が近づいてくる。地面が揺れる。まるで地震のように、大地が震えている。


そして、「それ」が現れた。


A級魔物。昨日、亀裂から出てきたあの魔物だ。


黒い鱗に覆われた巨大な体。赤く光る目。鋭い牙と爪。まるで悪夢が具現化したかのような姿で、その存在だけで人々を恐怖に陥れる。


人々がパニックになる。子供たちが泣き叫ぶ。親が子供を抱きしめる。老人たちが祈る。


「逃げろ!」


高橋が叫ぶ。


だが、魔物が道を塞いでいる。逃げられない。


美咲が防御魔法を張る。光の壁が現れて、人々を守る。だが、魔物が爪を振ると、壁が砕け散った。


護衛の一人が銃を撃つ。だが、弾が鱗に弾かれる。


魔物が護衛に爪を振る。護衛が吹き飛ばされて、倒れる。動かない。


もう一人の護衛も、魔物に襲われる。血が飛び散る。悲鳴。


俺は前に出た。


左腕の力を使う。黒い炎が魔物に向かって放たれる。


だが、魔物は避ける。速い。まるで炎を予測していたかのように、軽々と避ける。


魔物が俺に向かってくる。


俺は避けた。だが、魔物の尻尾が俺を打つ。吹き飛ばされて、地面に叩きつけられる。痛い。体が動かない。


美咲が叫ぶ。


高橋が前に出る。


「逃げろ!俺が食い止める!」


高橋が銃を撃つ。連射する。だが、弾は全て弾かれる。


魔物が高橋を見る。


そして、魔物が爪を振った。


高橋が避けようとした。だが、間に合わなかった。


爪が高橋の胸を貫いた。


血が噴き出す。


高橋が倒れる。


俺は叫んだ。


魔物が高橋の上に立つ。止めを刺そうとしている。


俺は立ち上がった。体が痛いが、動かなければならない。


怒りが湧き上がる。高橋を、守らなければ。皆を、守らなければ。


左腕が疼く。


『力を解放しろ』


「…ああ」


今度は、躊躇しなかった。


『いいのか。暴走するかもしれない』


「構わない。皆を、守る」


『分かった。では、解放する』


左腕が黒く光り始めた。まるで左腕そのものが闇になったかのように、黒い光が溢れ出す。


魔力が体中を駆け巡る。まるで体の中で嵐が吹き荒れているかのような感覚で、痛いが、それ以上に力が満ちてくる。


俺は手を前に出した。


黒い炎が生まれる。だが、今までとは違う。炎が巨大で、まるで竜巻のように渦を巻いている。


炎が魔物を包む。


魔物が咆哮する。炎に包まれながら、暴れる。だが、炎は消えない。どんどん強まっていく。


魔物の鱗が焼ける。肉が焼ける。骨が焼ける。


魔物が倒れた。動かなくなった。死んだ。


俺は炎を消した。


体が重い。力を使いすぎた。膝をつく。


美咲が駆け寄ってくる。


だが、俺は美咲の方を見ずに、高橋の方へ走った。


高橋が倒れている。胸に大きな傷がある。血が流れている。


俺は高橋の体を抱き起こした。


高橋が目を開ける。


高橋が弱く笑った。


「…やったな、柊」


「喋るな」


「…すまん。これが…限界だ」


「美咲、治療魔法を」


美咲が駆けつけて、高橋に治療魔法を使う。だが、傷が深すぎる。治らない。


高橋が俺の手を握った。冷たい。


「…柊。皆を…頼む」


「高橋さん」


「…お前なら…できる」


高橋が目を閉じた。


手の力が、抜けた。


俺は高橋の名前を呼んだ。だが、高橋は動かなかった。


美咲が泣いている。人々も泣いている。


俺は高橋の遺体を、そっと地面に横たえた。


空を見上げる。曇っている。まるで世界が高橋の死を悼んでいるかのように、暗い空が広がっている。


俺は立ち上がった。


人々を見る。皆、俺を見ている。不安そうな顔だ。


「…行こう」


俺は言った。


「高橋さんが決めた場所へ、行こう」


人々が頷いた。


俺たちは再び歩き始めた。高橋の遺体を担いで、俺たちは歩いた。


夕方、俺たちは新しい拠点に辿り着いた。


廃墟となった病院。建物の半分は崩れているが、残りの半分はまだ使える。


人々が病院の中に入る。部屋を確保して、荷物を置いて、休む。


俺は高橋の遺体を、病院の中庭に埋めた。美咲と数人が手伝ってくれた。


墓を作って、高橋の名前を刻んだ木の板を立てる。


美咲が祈る。人々も祈る。


俺は祈らなかった。ただ、高橋の墓を見ていた。


高橋は、皆を守ろうとして死んだ。俺が、もっと早く力を使えば、高橋は死ななかった。


また、守れなかった。


母も、妹も、そして高橋も。


俺は、弱い。


左腕が呟く。


『貴様のせいではない』


「…分かってる」


『だが、後悔しているのだろう』


「ああ」


『ならば、強くなれ。もう、誰も失わないように』


俺は左腕を見た。黒い左腕。


「…ああ」


夜になった。


病院の一室で、俺は窓の外を見ていた。


月が出ている。満月だ。


美咲が部屋に入ってきた。


「柊さん」


俺は振り返った。


「皆、あなたに感謝してます」


「…そうか」


「あなたがいなかったら、皆死んでました」


美咲がそう言う。だが、俺には感謝される資格はない。


「高橋さんは、死んだ」


「…それは、あなたのせいじゃありません」


美咲が言う。


「高橋さんは、皆を守ろうとして死にました。それは、高橋さんの選択です」


俺は何も言えなかった。


美咲が続ける。


「柊さん、ここに残ってくれますか」


「…ああ」


俺は答えた。


「皆を、守る」


美咲が笑った。


「ありがとうございます」


美咲が部屋を出ていった。


俺は再び窓の外を見た。


この世界は、まだ終わっていない。魔物がいて、新しい亀裂があって、人々が死んでいく。


だが、俺には、守るべき人々がいる。


もう、一人じゃない。

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