第49話「見送る人たち」
対策室の解散式。
魔物が消失したため、対策室は役割を終えた。建物の中に、数十名の職員が集まっている。
藤崎聡が前に立つ。
「皆、よく戦った。対策室は、本日をもって解散する」
藤崎の声は、簡潔だ。感情的な言葉はない。だが、その言葉には重みがある。
「各自、元の部署に戻るか、次の配属先を待て」
職員たちが頷く。
式が終わる。人々が散り始める。
桐生が慎吾を見つける。
「柊。屋上に来い」
慎吾が頷く。
二人が対策室の屋上に上がる。
街が見渡せる。かつてのレッドゾーンも、今は静かだ。
桐生が柵に寄りかかる。
「柊。久しぶりだな」
慎吾が隣に立つ。
「……桐生さん」
桐生が街を見る。
「対策室が解散する」
「知っています」
桐生が静かに言う。
「俺も、元の刑事に戻る。いや、定年だから引退だな」
慎吾が桐生を見る。
「……そうですか」
桐生が慎吾を見る。
「お前は……よくやった」
慎吾が何も言わない。
桐生が続ける。
「最初は、お前を監視していた。危険人物として」
桐生が笑う。
「だが、見ているうちに分かった。お前は、誰よりも真剣に戦っていた」
慎吾が俯く。
「……そんなことは」
桐生が静かに言う。
「いや。お前が決断したから、世界が救われた」
慎吾が首を振る。
「……でも、第七班の罪は消えません」
桐生が頷く。
「ああ。消えない」
桐生が静かに続ける。
「だが、お前はそれを背負って生きる。それでいい」
慎吾が桐生を見る。
桐生が遠くを見る。
「俺も、娘を守れなかった罪を背負っている。それは消えない」
桐生が初めて、娘のことを具体的に語る。
「娘は、魔物に襲われて死んだ。俺は、間に合わなかった」
慎吾が何も言わない。ただ、聞いている。
桐生が続ける。
「だが、生きている。お前も、生きろ」
慎吾が頷く。
「……はい」
桐生が手を差し出す。慎吾が握手する。
桐生の手は、大きく、温かい。
桐生が静かに言う。
「……お前に会えて、良かった」
慎吾が答える。
「……こちらこそ」
桐生が手を離す。
「じゃあな」
桐生が去る。慎吾がその背中を見る。
桐生の背中は、まっすぐだ。
灯火の会の事務所。
冴が慎吾を迎える。
「柊くん。来てくれたのね」
慎吾が頭を下げる。
「……はい」
冴が微笑む。
「お茶、淹れましょうか」
「……いただきます」
二人でお茶を飲む。
冴が口を開く。
「灯火の会も、規模を縮小するわ。魔物がいなくなったから」
慎吾が頷く。
「……そうですか」
冴が続ける。
「でも、避難民の支援は続けるわ。まだ困っている人がいるから」
慎吾が静かに言う。
「……冴さんらしいです」
冴が微笑む。
「ありがとう」
冴が慎吾を見る。
「柊くん。あなたは、自分の道を見つけたわね」
慎吾が首を振る。
「……まだ、分かりません」
冴が静かに言う。
「大丈夫よ。あなたは強い子だから」
慎吾が何も言わない。
冴が続ける。
「ただ……一つだけ」
「何ですか」
冴が優しく言う。
「時々は、誰かに頼ってもいいのよ」
慎吾が冴を見る。
冴が微笑む。
「あなたは、一人で全てを背負おうとする。でも、頼ってもいいの」
慎吾が静かに答える。
「……はい」
冴が言う。
「約束ね」
慎吾が頷く。
「……約束します」
対策室の廊下。
森川が慎吾を見つける。
「柊」
慎吾が振り返る。
「……森川少佐」
森川が笑う。
「もう少佐じゃない。対策室が解散したからな」
慎吾が頷く。
「……そうでしたね」
森川が真剣な顔になる。
「お前に、謝らなければならないことがある」
慎吾が森川を見る。
「……何ですか」
森川が静かに言う。
「あの時、真実を伝えたこと。命令違反だった」
慎吾が首を振る。
「……」
森川が続ける。
「だが、伝えて良かったと思っている」
慎吾が静かに答える。
「……俺もです。教えてくれて、ありがとうございました」
森川が驚く。
「……そうか」
森川が慎吾の肩に手を置く。
「お前は、信じられる男だった」
慎吾が森川を見る。
森川が続ける。
「これからも、そうあり続けろ」
慎吾が頷く。
「……はい」
森川が手を離す。
「元気でな」
「……はい。森川さんも」
慎吾のアパートの前。
長谷川が待っていた。
「柊」
慎吾が驚く。
「……長谷川さん」
長谷川が静かに言う。
「引っ越すそうだな」
慎吾が頷く。
「……はい。このアパートを出ます」
長谷川が頷く。
「そうか」
沈黙。
長谷川が口を開く。
「お前と話すのは、楽しかった」
慎吾が静かに答える。
「……俺もです」
長谷川が問う。
「食事、ちゃんと食ってるか」
慎吾が頷く。
「……はい。ちゃんと食べてます」
長谷川が微笑む。
「ならいい」
長谷川が手を差し出す。慎吾が握手する。
長谷川の手は、温かい。
長谷川が静かに言う。
「……元気でな」
慎吾が答える。
「……はい。長谷川さんも」
長谷川が去る。慎吾がその背中を見る。
長谷川の背中は、少し小さく見える。だが、まっすぐだ。
数日後。
慎吾が街を歩いていると、前から人影が見える。
水無瀬遥だ。
二人が立ち止まる。
「……柊慎吾」
遥が静かに言う。
「……水無瀬」
慎吾が答える。
沈黙。
遥が口を開く。
「……終わったな」
「ああ」
遥が続ける。
「魔物が消えた。魔法も使えなくなった」
慎吾が頷く。
「……ああ」
遥が慎吾を見る。
「私の復讐は……意味を失った」
慎吾が何も言わない。
遥が続ける。
「だが、それでいい」
慎吾が驚く。
「……え」
遥が静かに言う。
「誠は……世界を救いたかった。お前が、それを成し遂げた」
慎吾が首を振る。
「……俺じゃない。みんなで」
遥が静かに笑う。
「……そうかもしれない」
遥が歩き出す。すれ違いざまに言う。
「……お前を許したわけじゃない。だが、感謝する」
慎吾が立ち止まる。
遥が去る。慎吾がその背中を見る。
慎吾が小さく呟く。
「……ありがとう」
その夜。
慎吾がアパートに戻る。荷物をまとめている。明日、引っ越す。
段ボール箱に、服、本、日用品を入れる。
窓の外を見る。街の灯りが見える。
慎吾が呟く。
「……みんな、ありがとう」
慎吾が左腕を見る。
「お前も」
慎吾が荷物の中から、何かを取り出す。
第七班のメンバーの写真だ。
六人が笑っている。慎吾も、笑っている。
慎吾がその写真を見つめる。
「……明日、行く」
その言葉が、静かに部屋に響く。
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