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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
3章-真実

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第48話「変わった世界」

 魔物消失から一ヶ月後。


 かつてレッドゾーンだった新宿区の廃墟。慎吾が立っていた。


 ここは、最初の亀裂が出現した場所だ。二年前、この場所から全てが始まった。


 今は、静かだ。破壊された建物が残っているが、魔物の気配はない。復興作業の音が、遠くから聞こえる。


 慎吾が空を見上げる。青い空。雲が流れる。亀裂の痕跡はない。


 「……二年前、ここから始まった」


 慎吾が呟く。


 第七班がここに来た。亀裂から魔物が出現した。戦闘が始まった。そして、左腕を手に入れた。


 全てが、ここから始まった。


 慎吾が周囲を見る。


 グリーンゾーンが拡大し、人々が戻り始めている。建物の修復が進んでいる。道路が整備されている。電車が一部区間で運行を再開した。


 人々の表情に、笑顔が戻っている。子供たちが公園で遊ぶ。老人たちが散歩する。家族が手をつないで歩く。


 日常が、戻っている。


 慎吾が歩き始める。廃墟を抜け、街の中へ。


 誰も慎吾を特別視しない。ただの通行人だ。魔法使いでもない。化け物でもない。普通の人間だ。


 慎吾が公園に向かう。





 公園のベンチ。慎吾が座っている。


 子供たちが遊んでいる。笑い声が響く。鳥が鳴いている。風が吹く。


 平和がある。


 「柊さん」


 声が聞こえる。慎吾が振り返る。


 陽菜が立っていた。


 「……白石」


 慎吾が答える。


 陽菜がベンチに座る。二人で空を見る。


 「久しぶりですね」


 陽菜が言う。


 「ああ。一週間ぶりか」


 慎吾が答える。


 「はい」


 沈黙。だが、それは心地よい沈黙だ。


 陽菜が口を開く。


 「柊さん……元気でしたか」


 「……まあな。お前は」


 陽菜が微笑む。


 「はい。元気です」


 その笑顔は、以前の「希望の鎧」の笑顔ではない。本物の、静かな笑顔だ。無理をしていない。ただ、素直に笑っている。


 陽菜が静かに言う。


 「私……灯火の会を辞めました」


 慎吾が陽菜を見る。


 「……そうか」


 「魔物がいなくなったから。もう、戦う必要がないんです」


 陽菜の声は、穏やかだ。


 慎吾が問う。


 「それで、どうする」


 陽菜が答える。


 「大学に戻ろうと思います。心理学の勉強を続けたいんです」


 慎吾が頷く。


 「……いいと思う」


 陽菜が少し驚く。


 「本当ですか」


 「ああ。お前に似合ってる」


 陽菜が嬉しそうに笑う。


 「ありがとうございます」


 陽菜が続ける。


 「柊さんは? これから、どうしますか」


 慎吾が空を見上げる。


 「……分からない。仕事を探している」


 「そうですか」


 沈黙。


 陽菜が静かに言う。


 「柊さん……あなたに出会えて、良かったです」


 慎吾が陽菜を見る。


 陽菜が続ける。


 「最初は……あなたを変えたいと思っていました。でも、変わったのは私の方でした」


 慎吾が首を振る。


 「……そんなことはない」


 陽菜が微笑む。


 「いいえ。あなたが、私に教えてくれました」


 「何を」


 陽菜が静かに答える。


 「無理に笑わなくていいって。絶望していいって。それでも、生きていいって」


 慎吾が何も言わない。ただ、陽菜を見ている。


 陽菜が続ける。


 「ありがとうございます」


 陽菜の目に涙が浮かぶ。だが、笑顔だ。


 慎吾が静かに答える。


 「……こちらこそ」


 陽菜が驚く。


 「え?」


 慎吾が続ける。


 「お前がいなければ、俺は……もっと孤独だった」


 陽菜の涙が溢れる。


 「柊さん……」


 慎吾が言う。


 「お前が、俺に人間らしさを思い出させてくれた」


 陽菜が涙を拭う。


 「そんな……私は何もしていません」


 「いや。お前は、いつも笑顔だった。その笑顔に、何度も救われた」


 陽菜が静かに泣く。声を上げない。ただ、涙を流す。


 慎吾が続ける。


 「だから……ありがとう」


 陽菜が頷く。


 「……はい」





 しばらくして、陽菜が涙を拭い終わる。


 二人で空を見る。雲が流れている。


 陽菜が口を開く。


 「柊さん……これから、どうしますか」


 慎吾が答える。


 「……分からない。でも、生きる」


 陽菜が頷く。


 「はい」


 慎吾が陽菜を見る。


 「お前は?」


 陽菜が答える。


 「大学に戻って、勉強します。そして……いつか、カウンセラーになりたいです」


 慎吾が静かに言う。


 「……似合ってる」


 陽菜が笑う。


 「本当ですか」


 「ああ。お前なら、きっと多くの人を救える」


 陽菜が嬉しそうに頷く。


 「頑張ります」


 陽菜が続ける。


 「柊さんも……何か、見つかるといいですね」


 慎吾が頷く。


 「……そうだな」


 陽菜が立ち上がる。


 「じゃあ、私はこれで」


 慎吾が頷く。


 「……ああ」


 陽菜が歩き出す。数歩進んで、振り返る。


 「柊さん。また、会えますか」


 慎吾が陽菜を見る。


 「……ああ。会える」


 陽菜が微笑む。


 「約束ですよ」


 慎吾が静かに答える。


 「……約束だ」


 その言葉は、これまでの慎吾では考えられない言葉だ。未来を約束する。また会うことを約束する。


 陽菜が嬉しそうに笑う。


 「じゃあ、また」


 陽菜が去る。慎吾がその背中を見る。


 陽菜の歩き方は、軽い。もう、重い荷物を背負っていない。「希望の鎧」を脱いだ陽菜は、自由だ。


 慎吾が微かに笑う。


 「……お前は、強いな」


 その言葉が、風に流れる。


 慎吾が再びベンチに座る。一人で、空を見上げる。


 左腕を見る。普通の腕だ。紋様はない。


 「……お前はいない。だが」


 慎吾が空を見上げる。


 「お前のことは、忘れない」


 風が吹く。木の葉が揺れる。


 慎吾が立ち上がる。歩き出す。


 夕日が街を染め始めている。人々が家路につく。


 慎吾も歩く。どこへ行くか、まだ決めていない。だが、歩く。


 影が長く伸びる。慎吾の影だけだ。左腕の影はない。


 だが、心の中に、左腕がいる。陽菜がいる。桐生がいる。長谷川がいる。冴がいる。森川がいる。


 慎吾は、もう一人ではない。


 慎吾が呟く。


 「……生きるか」


 その言葉には、四十七話よりも強い決意がある。


 生きる。それが、左腕との約束だ。それが、陽菜との約束だ。


 慎吾が歩き続ける。夕暮れの街を。新しい世界を。


 普通の人間として。

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