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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
3章-真実

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第46話「魔王の復活」

 世界中で、亀裂が拡大し始めた。


 東京、ニューヨーク、ロンドン、北京、パリ、モスクワ。すべての都市で、すべての亀裂が同時に開く。


 人々がパニックになる。街中に警報が鳴り響く。


 「魔物が大量に出てくる」


 そう予想した人々が、避難を始める。だが、魔物は出てこない。ただ、亀裂が開いているだけだ。


 対策室。


 藤崎聡が、複数のモニターを見ていた。世界中の亀裂の映像が映し出されている。すべてが、同時に拡大している。


 「魔素濃度、Level 5を超えた」


 藤崎が報告を読み上げる。


 森川が問う。


 「これは……」


 エマ・ラーソンが静かに言う。


 「始まりました。魔王の復活です」


 藤崎がエマを見る。


 「……本当に復活するのか」


 エマが頷く。


 「理論的には、はい」


 その瞬間、モニターに変化が現れる。


 世界中の亀裂から、黒い霧が噴き出す。魔物ではない。純粋な魔素だ。


 霧が空中で渦を巻く。一箇所に集まっていく。東京上空。最も大きな亀裂の前に。


 藤崎が息を呑む。


 「これは……」


 森川が窓の外を見る。


 「見えるぞ……」


 対策室の窓から、遠くに黒い霧が見える。それが渦を巻き、巨大な塊になっていく。


 エマが静かに言う。


 「魔王が、形を取り始めています」





 東京上空。


 亀裂の前に、黒い霧が集まっている。そして、形を取り始める。


 巨大な人型。まず、骨格のような構造が現れる。次に、筋肉のような層が覆う。最後に、黒い装甲のような外皮が形成される。


 高さは五十メートルを超える。


 魔王が、完全体として現れる。


 その姿は、人間に似ている。だが、圧倒的に巨大だ。黒い装甲が全身を覆い、赤い光が瞳に宿る。


 世界中の人々が、その姿を見る。テレビ、インターネット、窓の外。様々な方法で。


 そして、世界中の魔物が「静止」する。


 暴れていた魔物も、襲っていた魔物も、すべてが動きを止める。まるで、時間が止まったかのように。


 慎吾も、その姿を見ていた。


 廃墟の一角。グリーンゾーンとの境界近く。慎吾が空を見上げている。


 「……これが、魔王」


 慎吾の声は、静かだ。恐怖ではなく、畏怖に近い。


 魔王が目を開ける。赤い光が、瞳に宿る。


 その視線が、世界を見渡す。東京、日本、そして世界全体を。


 そして、慎吾の方向を見る。


 慎吾と魔王の「視線」が合う。


 距離は数キロメートル。だが、確かに合っている。慎吾はそれを感じる。


 魔王の声が、テレパシーのように世界中に響く。


 『……長い眠りだった』


 その声は、怒りでも憎しみでもない。ただ、事実を述べるような静けさ。深く、重く、だが温度がない。


 人々が息を呑む。


 魔王が続ける。


 『人間たちよ。恐れるな』


 その言葉に、世界が驚く。


 魔王が、人間に語りかけている。敵として、ではなく。


 『我は、お前たちの敵ではない』


 魔王の声が、世界に響く。


 『我が封印されし後、我が民は道を失った』


 魔王が手を広げる。その動きは、ゆっくりとしているが、圧倒的な存在感がある。


 『統制を失い、無目的に暴れ、汝らの世界を侵した』


 『それは、我が民の本来の姿ではない』


 魔王の声に、何かが混ざる。謝罪か。それとも、説明か。


 『我は今、彼らを連れて帰る。元の世界へ』


 その言葉と同時に、世界中の魔物が動き始める。


 だが、襲わない。戦わない。


 ただ、静かに歩く。亀裂の方へ。


 列を作って、整然と歩く。まるで、帰宅する人々のように。


 人々が驚く。


 「魔物が……帰っていく」


 「襲ってこない……」


 東京でも、魔物が亀裂に向かって歩いている。数百、数千の魔物が、静かに列を作る。


 魔王が再び慎吾を見る。


 『柊慎吾』


 慎吾の名前が、世界に響く。


 慎吾が驚く。


 「……!」


 魔王が続ける。


 『我が左腕を、長き間預かってくれた』


 慎吾が自分の左腕を見る。普通の腕だ。だが、つい先ほどまで、そこには左腕がいた。


 魔王が静かに言う。


 『感謝する』


 慎吾が驚く。


 「……感謝?」


 魔王が頷く。その動きは、人間のそれに似ている。


 『我が左腕は、汝と共にあることで、何かを学んだ』


 『それは、我にとっても価値あることだった』


 慎吾が何も言えない。ただ、魔王を見上げている。


 魔王が最後に言う。


 『……生きよ。汝の世界で』


 その言葉は、左腕の最後の言葉と同じだ。


 慎吾の目から、涙が流れる。


 「……ああ」


 慎吾が答える。声は小さいが、魔王には届いている。


 魔王が静かに頷く。





 世界中の魔物が、亀裂へ入っていく。


 数万、数十万の魔物が、静かに列を作って歩く。


 人々が見守る。恐怖ではなく、畏怖の中で。


 魔物が亀裂に入る瞬間、光に包まれる。そして、消える。元の世界へ帰っていく。


 その光景は、美しかった。まるで、蛍が空へ昇っていくかのような。


 東京の亀裂では、最後の魔物が入っていく。そして、魔王が動く。


 巨大な体が、ゆっくりと亀裂へ向かう。


 一歩、一歩。地面が震える。だが、破壊はしない。ただ、歩く。


 魔王が亀裂の前に立つ。


 振り返る。世界を見渡す。


 そして、慎吾を見る。


 最後の視線。


 慎吾が手を上げる。別れの挨拶。


 魔王が頷く。


 そして、亀裂の中へ入っていく。


 巨大な体が、光に包まれ、消えていく。


 完全に消える。


 その瞬間、すべての亀裂が閉じ始める。


 東京の亀裂も、ゆっくりと縮小していく。光が弱まり、空間の裂け目が塞がっていく。


 数分後、完全に閉じる。


 そこには、ただの空がある。青い空。雲が流れている。


 世界が、静寂に包まれる。


 人々が、しばらく何も言わない。ただ、空を見上げている。


 やがて、誰かが呟く。


 「……終わった」


 その言葉が、世界中に広がる。


 「終わった」


 「魔物が、いなくなった」


 「パンデミックが、終わった」


 慎吾も、空を見上げている。


 亀裂があった場所に、何もない。ただ、青い空がある。


 慎吾が呟く。


 「……終わった」


 その言葉は、安堵ではない。喪失感に近い。


 何かが終わった。二年三ヶ月の戦いが終わった。


 だが、同時に何かを失った。


 左腕を失った。目的を失った。戦う理由を失った。


 慎吾は、ただ立っている。


 風が吹く。新しい風だ。魔物がいない世界の風だ。


 慎吾が歩き始める。


 グリーンゾーンへ。人々がいる場所へ。


 もう、一人ではない。


 そう、自分に言い聞かせながら。

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