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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
3章-真実

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第45話「左腕の別れ」

 レッドゾーンの廃墟。


 慎吾がA級魔物と戦っていた。これまでで最も激しい戦闘だった。


 魔物は巨大な熊の姿をしている。高さ五メートル。鋭い爪が、慎吾の体を狙う。慎吾が火炎魔法で防ぐが、魔物は怯まない。


 『全力を出す』


 左腕が告げる。


 「頼む」


 慎吾が答える。


 黒い炎が左腕から噴き出す。魔物を包み込む。魔物が咆哮する。だが、黒い炎は容赦なく燃え続ける。


 やがて、魔物が倒れる。動かなくなる。


 慎吾が膝をつく。呼吸が荒い。全身から汗が流れている。疲労が、限界に達している。


 『……魔素濃度、Level 5に達した』


 左腕が告げる。


 慎吾が顔を上げる。


 「……本当か」


 『ああ。周囲の魔素を感じる。濃度は501 MS。基準値を超えた』


 慎吾が立ち上がる。空を見上げる。


 亀裂が、これまでより大きく開いている。まるで、何かを待っているかのように。


 『……時間だ』


 左腕が静かに言う。


 「……ああ」


 慎吾が答える。


 慎吾が廃墟の中の静かな場所に移動する。かつてビルだった建物の残骸。瓦礫が積み重なっているが、その一角に平らな場所がある。


 慎吾がそこに座る。


 「……ここでいいか」


 『どこでもいい』


 左腕が答える。


 慎吾が左腕を見る。紋様が、肩から胸、背中まで広がっている。まるで、体全体を覆うかのように。


 風が吹く。静寂がある。





 慎吾と左腕の、最後の対話が始まる。


 「……お前と、どれくらい一緒だった」


 慎吾が問う。


 『2年と3ヶ月だ』


 左腕が答える。


 「……そうか」


 『長かったか』


 「いや。短かった気がする」


 沈黙。風が、瓦礫の間を吹き抜ける。


 『慎吾』


 左腕が名前を呼ぶ。


 「何だ」


 『お前は、変わった』


 慎吾が自分の手を見る。


 「……そうか」


 『最初に会った時、お前は死にたがっていた』


 慎吾が頷く。


 「ああ。第七班壊滅事件の後、俺は……」


 『生きる理由を失っていた』


 「……ああ」


 『今は?』


 左腕が問う。


 慎吾が空を見上げる。


 「……分からない。でも、死にたいとは思わなくなった」


 『なぜだ』


 慎吾が左腕を見る。


 「お前がいたから……かもしれない」


 『……そうか』


 左腕の声が、微かに震える。


 慎吾が問う。


 「お前は? 変わったか」


 『……ああ』


 「どう変わった」


 『最初は、お前を宿主としか思っていなかった。生き残るための道具だと』


 慎吾が微かに笑う。


 「そうだったな」


 『だが、今は違う』


 「何だと思っている」


 沈黙。左腕が答えを探している。


 『……仲間、かもしれない』


 慎吾が驚く。その言葉を、予想していなかった。


 「仲間、か」


 『おかしいか』


 慎吾が首を振る。


 「いや。嬉しい」


 慎吾の目が潤む。


 「お前が、そう思ってくれていたなんて」


 『……俺も、最初は分からなかった』


 『だが、お前と共に戦う中で、分かった』


 『お前は、ただの宿主ではない』


 慎吾が涙を拭う。


 「……ありがとう」


 沈黙。だが、それは温かい沈黙だ。


 慎吾が問う。


 「……お前が本体に戻ったら、どうなる」


 『分からない。記憶が残るかも分からない』


 慎吾が俯く。


 「……そうか」


 『だが、もし残ったら』


 慎吾が顔を上げる。


 「もし残ったら?」


 『お前のことを、覚えていたい』


 慎吾の目から、涙が溢れる。声を上げて泣きそうになるのを、必死に堪える。


 「……ああ。俺も、お前のことを忘れない」


 『……ありがとう』


 二人の静かな時間が、流れる。





 しばらくして、左腕が言う。


 『……始まる』


 慎吾が顔を上げる。


 「何が」


 『本体が、俺を呼んでいる』


 慎吾の左腕が熱くなる。紋様が光り始める。黒い光から、白い光へ。そして、透明な光へ。


 慎吾が歯を食いしばる。


 「……痛いか」


 『いや。だが、お前は痛いだろう』


 「どういう意味だ」


 『俺が離れる時、お前の左腕は消える。激痛が伴う』


 慎吾が静かに言う。


 「……そうか」


 『耐えられるか』


 「……耐える」


 紋様の光が強くなる。慎吾の左腕から、黒い霧のようなものが立ち上り始める。


 痛みが始まる。鋭い痛み。まるで、腕を内側から引き裂かれるような痛みだ。


 慎吾が声を殺して耐える。歯を食いしばり、呼吸を整える。


 『……すまない』


 左腕が謝る。


 慎吾が答える。


 「……謝るな」


 『だが』


 「お前のせいじゃない。これは、俺が選んだことだ」


 痛みがさらに強まる。慎吾の体が震える。だが、声は出さない。


 『慎吾』


 左腕が静かに呼ぶ。


 「……何だ」


 慎吾が答える。声が震えている。


 『ありがとう』


 その言葉で、慎吾の涙が止まらなくなる。


 「……こちらこそ」


 慎吾が言う。


 「お前がいなければ、俺はとっくに死んでいた」


 「お前と共に戦えて……よかった」


 『……俺も』


 黒い霧が、完全に左腕から離れ始める。空中に浮かぶ。人型に近い形を取る。


 それが、慎吾を見る。


 『……生きろ』


 左腕が最後の言葉を告げる。


 慎吾が答える。


 「……ああ」


 霧が空へ上がっていく。亀裂の方へ向かう。そして、亀裂の中に吸い込まれていく。


 慎吾の左腕が、完全に消失する。肩から先が、何もない。空気だけがある。


 激痛。


 慎吾が叫ぶ。これまで我慢していた痛みが、一気に噴き出す。声が廃墟に響く。


 だが、叫びは長くは続かない。数秒後、痛みが引いていく。


 不思議な感覚。左腕があった場所に、何かが満ちてくる。


 光が、肩から流れ出す。それが、腕の形を作っていく。


 魔法ではない。自然治癒でもない。何か、別の力が働いている。


 十分後、光が消える。


 慎吾の左腕が、そこにある。


 普通の人間の腕だ。紋様はない。黒い光もない。ただ、普通の腕だ。


 慎吾が左腕を見る。動かす。感覚がある。痛みもない。


 だが、左腕の「声」はもうない。


 静寂。


 慎吾が空を見上げる。


 「……行ったか」


 その言葉が、静かに流れる。


 亀裂が、さらに大きく開いている。遠くで、何か巨大なものが動く気配がある。


 慎吾が呟く。


 「……ありがとう」


 涙が一筋、流れる。慎吾はそれを拭わない。ただ、流れるままにする。


 風が吹く。瓦礫が音を立てる。


 慎吾は一人、座っている。左腕は戻った。だが、声はもうない。


 二年三ヶ月の旅が、終わった。


 慎吾が立ち上がる。空を見上げる。


 「さよなら」


 その言葉を最後に、慎吾が歩き始める。


 廃墟を出る。グリーンゾーンに向かう。


 もう、魔物を狩る必要はない。もう、戦う必要はない。


 ただ、生きればいい。


 左腕が最後に言った言葉。「生きろ」。


 慎吾は、それを守る。


 歩き続ける。新しい世界へ。

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