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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
3章-真実

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第41話「慎吾の絶望」

 夜。


 慎吾のアパート。慎吾は遥との戦闘でできた傷を治療していた。左腕の再生能力で致命傷は治っているが、浅い傷は残っている。包帯を巻き、痛み止めを飲む。


 ドアがノックされる。


 慎吾が警戒しながらドアを開ける。森川が立っていた。


 「柊。話がある」


 慎吾が森川を部屋に入れる。二人とも座る。しばらく沈黙が続く。森川は何かを言おうとしているが、言葉が出ない。


 慎吾が先に口を開く。


 「……何だ」


 森川が深く息を吐く。


 「お前に、伝えるべきことがある。対策室からは口止めされているが……俺の判断で話す」


 慎吾が森川を見る。森川の表情は、いつになく重い。


 「……何を」


 森川が資料を取り出す。グラフが印刷された紙だ。二つのグラフが並んでいる。


 「魔物討伐と、魔素濃度の関係だ」


 森川が説明を始める。美咲の発見。魔物の体内に魔素が蓄積されていること。死ぬと、その全てが大気中に放出されること。観測データとの照合。完璧な正の相関。


 慎吾の手が止まる。包帯を巻いていた手が、宙に浮いたまま動かない。


 森川が続ける。


 「魔物を殺すと、体内の魔素が全て大気中に放出される。それが魔素濃度上昇の主因だ」


 慎吾の視線が、グラフに固定される。二つの曲線が、まるで鏡に映したように一致している。


 森川が静かに言う。


 「つまり……お前の戦いは……」


 慎吾が、その言葉を引き取る。


 「逆効果だった」


 森川が頷く。


 「……ああ」


 部屋の空気が変わる。重くなる。まるで、何かが押し潰されたかのように。


 慎吾は何も言わない。ただ、グラフを見つめている。その目には、何かが消えていく。





 長い沈黙が続く。森川も、何も言わない。言葉がない。


 慎吾が静かに立ち上がる。窓の方へ歩き、外を見る。夜の廃墟が広がっている。


 「……俺が殺した全部が」


 森川が立ち上がる。


 「柊……」


 慎吾が続ける。


 「第七班の後。この二年間。何百体も殺した」


 慎吾の声は静かだ。だが、その静けさが恐ろしい。感情がない。まるで、空っぽになったかのような声だ。


 「全部……無駄だった。いや、逆効果だった」


 慎吾が自分の手を見る。その手は、何百体もの魔物を殺してきた手だ。


 「この手で殺した全てが……魔素を増やした」


 『……慎吾』


 左腕が語りかける。だが、慎吾は答えない。


 慎吾が左腕を見る。


 「お前も、知っていたのか」


 『いや。だが、魔素が増えているのは感じていた』


 「なぜ言わなかった」


 『お前が強くなりたいと望んだからだ。魔素が増えれば、俺も強くなる。お前も強くなる』


 慎吾が静かに笑う。笑い声はない。ただ、口元が歪む。


 「……そうか」


 慎吾が壁に手をつく。だが、叩くわけではない。ただ、触れるだけ。力が入らない。


 森川が前に出る。


 「柊……お前のせいじゃない」


 慎吾が森川を見る。


 「俺のせいだ」


 森川が言葉を詰まらせる。


 「誰も、知らなかった。お前だけじゃない。俺たちも、政府も、誰も……」


 慎吾が遮る。


 「俺が、何も考えずに殺し続けた」


 慎吾が再び窓の外を見る。


 「終わらせるために、と言いながら。ただ、殺していた」


 森川は何も言えない。慰めの言葉が、全て無力に思える。


 慎吾が呟く。


 「第七班のみんなも……無駄死にだったんだ」


 その言葉が、部屋に沈む。森川は拳を握りしめるが、何も言えない。


 慎吾が座り込む。床に座り、膝を抱える。まるで、子供のように。


 森川が慎吾の横に座る。何も言わない。ただ、そこにいる。


 時間が過ぎる。どれくらい経ったのか、分からない。


 森川が立ち上がる。


 「……俺は行く。だが、柊」


 慎吾が顔を上げる。


 「お前は、一人じゃない」


 慎吾は何も答えない。森川が部屋を出る。ドアが閉まる音が、静かに響く。





 しばらくして、再びドアがノックされる。


 慎吾が開ける。陽菜が立っていた。


 「……白石」


 陽菜の目は赤い。泣いていたのだろう。


 「柊さん……聞きました。魔物討伐が……」


 慎吾が答える。


 「ああ。逆効果だった」


 陽菜が部屋に入る。二人とも座る。陽菜は慎吾を見つめている。


 「……私も、ショックでした」


 慎吾が窓の外を見る。


 「そうか」


 陽菜が続ける。


 「でも……柊さんのせいじゃないです」


 慎吾が静かに言う。


 「俺のせいだ」


 陽菜が首を振る。


 「違います。誰も知らなかった。誰も……」


 慎吾が陽菜を見る。その目は、冷たい。


 「……お前に何が分かる」


 陽菜が言葉を失う。


 慎吾が続ける。


 「お前は、誰も殺していない。だが、俺は殺した。何百体も。そして、全部が逆効果だった」


 陽菜の目から、涙が溢れる。


 「それでも……柊さんは……」


 慎吾が問う。


 「何だ」


 陽菜が震える声で言う。


 「柊さんは、世界を救おうとしていた」


 慎吾が静かに笑う。


 「救えなかった。逆に、悪化させた」


 陽菜は何も言えない。言葉が出ない。陽菜の「希望」という言葉が、全て無力に思える。


 慎吾が立ち上がる。


 「もう、帰ってくれ」


 陽菜が立ち上がる。ドアの方へ歩く。だが、ドアの前で振り返る。


 「柊さん……一人にならないでください」


 慎吾は答えない。ただ、窓の外を見ている。


 陽菜が去る。ドアが閉まる。


 慎吾は、再び一人になった。





 部屋の中で、慎吾は座っている。窓の外を見ている。


 『……慎吾』


 左腕が語りかける。


 「何だ」


 『お前は、どうする』


 慎吾が答える。


 「……分からない」


 『魔物を殺すのをやめるか』


 「やめたら、人が死ぬ」


 『続けたら、魔素が増える』


 慎吾が静かに言う。


 「……どちらを選んでも、終わらない」


 『……そうだな』


 慎吾が窓の外を見る。夜空に、亀裂が見える。以前より小さくなっているが、まだ閉じていない。微かに光っている。


 慎吾が呟く。


 「何も終わらなかった」


 慎吾が自分の手を見る。傷だらけの手。魔物を殺してきた手。


 「この手は……何のためにあるんだ」


 左腕は答えない。ただ、沈黙がある。


 慎吾は窓の外を見続ける。亀裂が、微かに脈動している。まるで、生きているかのように。


 慎吾の目には、何もない。感情がない。希望もない。絶望だけがある。


 部屋の中に、静寂だけが残る。

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