表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
3章-真実

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/46

第40話「水無瀬遥」

 レッドゾーンの廃墟。


 慎吾がC級魔物を倒した。犬型の魔物が地面に倒れ、動かなくなる。慎吾は杖を下ろし、深呼吸をする。


 だが、今日の動きは鈍かった。普段なら一撃で仕留められる相手に、三発も魔法を使った。集中が切れている。


 慎吾は魔物の死体を見る。そこから何かが放出されている。目には見えないが、感じる。空気が重くなる。


 『……魔素が増えている』


 左腕が呟く。


 「……ああ」


 慎吾が答える。声に、力がない。


 『気になるのか』


 「……分からない」


 慎吾は自分でも、その答えが正直なのか分からなかった。気になる。だが、考えたくない。エマの紙がポケットにある。真実を知る手段がある。だが、知りたくない。


 慎吾は廃墟の壁に寄りかかり、水を飲む。体が重い。疲労が、骨の奥まで染み込んでいる。


 その時、気配を感じた。


 慎吾が顔を上げる。誰かがいる。殺気ではない。だが、明確な敵意がある。慎吾は杖を握り直す。


 廃墟の影から、人影が現れた。


 女性だ。黒い服を着て、黒髪を長く伸ばしている。身長は百六十センチほど。顔立ちは整っているが、その目は鋭い。まるで刃物のような、冷たい光を帯びている。


 女性が口を開く。


 「柊慎吾」


 慎吾が警戒する。


 「……誰だ」


 女性が一歩、近づく。


 「覚えているか。第七班壊滅事件を」


 その言葉で、慎吾の体が固まる。血の気が引く。第七班。あの日の記憶が、一気に蘇る。


 女性が続ける。


 「私の婚約者……橋本誠を、お前が殺した」


 慎吾の中で、記憶が鮮明になる。橋本誠。あの日、血まみれになった顔。「柊! 俺だ! 分からないのか!」という声。そして、自分の手が、その首を締めた感覚。


 「……橋本」


 慎吾が、その名前を呟く。声が震えている。


 女性が右腕の袖を上げる。そこには、黒い紋様が刻まれている。肩まで伸びた紋様は、慎吾の左腕と同じものだ。ただし、右腕に。


 慎吾が息を呑む。


 「まさか……お前も……」


 女性が答える。


 「ああ。お前と同じだ。魔物を右腕に憑依させた」


 慎吾が問う。


 「なぜ」


 女性の目が、さらに鋭くなる。


 「お前を殺すためだ」


 女性が杖を構える。白い杖だ。その先端から、冷気が漏れ出す。周囲の空気が凍り始める。地面に、薄い氷が張る。


 慎吾が後ずさる。


 「……待て」


 だが、女性は待たない。


 「私の名は、水無瀬遥。覚えておけ」


 遥が魔法を発動する。氷の槍が空中に現れ、慎吾に向かって飛ぶ。





 慎吾が防御魔法を展開する。火の壁が氷の槍を溶かす。だが、次の攻撃がすぐに来る。


 遥の魔法は、氷だけではない。雷も使う。氷の槍と雷の矢が、交互に慎吾を襲う。攻撃の間隔が短い。まるで、息をするように魔法を使っている。


 慎吾は防御に徹する。反撃しない。できない。


 遥の顔に、橋本の面影が見える。この人の大切な人を、自分が奪った。その事実が、慎吾の体を縛る。


 遥が叫ぶ。


 「なぜ戦わない!」


 慎吾は答えない。ただ、防御を続ける。


 遥の攻撃が激しくなる。氷の壁が地面から立ち上がり、慎吾を囲む。そして、その壁から無数の氷の刃が飛び出す。


 慎吾が防御魔法を強化するが、一部の刃が体を切り裂く。血が流れる。


 遥が再び叫ぶ。


 「全力で来い! そして死ね!」


 慎吾は動けない。橋本の顔が、頭から離れない。「柊! 俺だ!」という声が、耳に残っている。


 『このままでは死ぬぞ』


 左腕が警告する。


 「……構わない」


 慎吾が答える。


 『俺が困る』


 左腕の声が変わる。そして、慎吾の意志を無視して、左腕が体を動かし始める。


 慎吾の体が勝手に動く。黒い炎が左腕から噴き出し、遥の氷の壁を砕く。炎は通常の火炎魔法とは違う。黒く、重く、まるで生き物のように動く。


 遥が目を見開く。


 「やっと……本気か」


 遥も右腕の力を解放する。右腕から、白い光が溢れ出す。その光は冷たく、触れたものを凍らせる。


 二つの力が激突する。黒い炎と白い氷。廃墟が揺れ、建物が崩れていく。


 慎吾の体は、左腕に操られている。意識はあるが、動きを制御できない。まるで、自分の体を外から見ているような感覚だ。


 遥の攻撃は正確で、容赦がない。氷の刃が慎吾の体を狙い、雷が地面を走る。だが、左腕はそれらを全て避け、反撃する。


 戦いは互角だ。どちらも引かない。廃墟は戦場と化し、瓦礫が飛び散る。


 その時、声が聞こえた。


 「柊さん!」


 陽菜だ。遠くから走ってくる。その後ろに、桐生もいる。


 桐生が遥に向かって叫ぶ。


 「やめろ!」


 遥が二人を見る。攻撃の手が止まる。


 「……邪魔だ」


 桐生が前に出る。


 「これ以上は危険だ。周囲に一般人が避難している」


 桐生が指差す方向を、遥が見る。確かに、少し離れた場所に避難民の建物がある。戦闘の余波が届けば、建物が崩れるかもしれない。


 遥が舌打ちする。


 「……チッ」


 遥が杖を下ろす。慎吾を見る。その目には、まだ殺意がある。


 「次こそ、殺す。覚悟しておけ」


 遥が去る。氷を足場にして、廃墟の上を飛ぶように移動していく。その姿が見えなくなると、左腕の介入が解除される。


 慎吾の体から力が抜け、膝をつく。呼吸が荒い。体中が痛む。


 陽菜が駆け寄る。


 「柊さん! 大丈夫ですか」


 慎吾が答える。


 「……大丈夫だ」


 だが、その声は弱々しい。桐生が慎吾の横に座る。


 「……あの女は誰だ」


 慎吾が遥が去った方向を見る。


 「……橋本の婚約者だ」


 桐生が眉をひそめる。


 「橋本……第七班の」


 慎吾が頷く。


 「……俺が、殺した」


 静寂が、三人を包む。陽菜は何も言えない。桐生も、言葉を失っている。


 慎吾は遥が去った方向を見続ける。「橋本……すまない」という言葉が、喉まで出かかっている。だが、声にならない。


 陽菜と桐生が慎吾を見る。その目には、心配と、何か別の感情が混ざっている。同情か。それとも、恐れか。


 風が吹く。廃墟の中に、静けさだけが残る。

読んで下さりありがとうございました!

★★★★★評価と[[[ブックマーク]]]、リアクションお願いします!

Youtubeにて作品公開中!

http://www.youtube.com/@mizukara-h2z

ご感想やご質問など、ぜひコメントでお聞かせください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ