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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
3章-真実

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第36話「美咲の発見」

 深夜。


 グリーンゾーン郊外の廃棄された研究施設の地下。天童美咲は、一人でB級魔物の死体と向き合っていた。


 施設は本来、立ち入り禁止だ。だが美咲は、裏のルートを使ってこの場所を手に入れた。電力も、限られた範囲でだが使える。記録は残らない。誰も来ない。完璧な実験室だ。


 部屋は狭く、壁には湿気が這っている。光源は一つだけ。天井の裸電球が、美咲と死体を白く照らす。血と薬品の匂いが混ざり、空気は重い。


 美咲は白衣を着て、手袋をはめ、メスを手に取った。死体は解剖台の上に横たわっている。犬型の魔物だ。体長二メートル。黒市で手に入れた。手続きなし。記録なし。


 美咲「……始めましょう」


 美咲は自分に言い聞かせるように呟き、メスを死体に当てる。皮膚が切れ、黒い体液が滲む。魔物の体液は人間のものとは違う。粘度が高く、まるで油のように光る。


 解剖が進む。美咲の手は正確だ。一つひとつの組織を確認し、ノートに記録していく。心臓、肺、胃。それぞれの構造が、地球上の生物とは異なる。まるで、別の星の生き物のように。


 だが、美咲の手が震えている。疲労だ。この一週間、ほとんど眠っていない。食事も最低限だ。だが、止められない。真実が、目の前にある。


 美咲「……これが、答えに繋がる」


 美咲はそう呟きながら、魔物の体内組織を一つずつ調べていく。その視線は、もはや生き物を見るそれではない。構造を、データを見ている。研究者としての視線だ。





 数時間後。


 美咲が測定装置を手に取った。魔素濃度測定器。手のひらサイズの機械で、対象の魔素濃度を数値化できる。


 美咲は測定器を魔物の心臓組織に当てる。数値が表示される。


 「MS 280」


 美咲の目が見開かれる。体内の魔素濃度がLevel 3に達している。一体の魔物の体内だけで。


 美咲は急いでノートを開き、数値を書き込む。そして、過去のデータと比較する。一ヶ月前に測定したC級魔物の数値は「MS 150」だった。二ヶ月前は「MS 120」。


 美咲「……上昇している」


 魔物の体内魔素量が、時間とともに急激に上昇している。美咲はさらに計算を始める。「体内蓄積量」「放出量の理論値」「大気中への散逸パターン」。ノートに数式が並んでいく。手が震えているのに、文字は正確だ。


 そして、過去の大気中魔素濃度の観測データと照合する。政府が公開しているデータだ。グラフを重ねる。


 美咲の手が止まる。


 グラフが、一致している。魔物の討伐数が増えると、大気中の魔素濃度も上昇する。討伐が減ると、濃度も減少する。完璧な正の相関だ。


 美咲「……これが、答え」


 美咲の声に、興奮が混じる。研究者として、真実に辿り着いた瞬間の高揚感。目が輝き、動きが速くなる。


 美咲「殺された瞬間に、体内の魔素が全て大気中に放出される」


 仮説が、データと完全に一致する。魔物は生きている間、体内に魔素を蓄積する。そして死ぬと、その全てを大気中に放出する。まるで、生命活動の終わりに全てを解き放つかのように。


 美咲「これが……パンデミックの仕組みだ」


 美咲はノートに書き込み続ける。手が追いつかないほど、頭の中で理論が組み上がっていく。魔素の循環。蓄積。放出。全てが繋がる。パズルの最後のピースが、はまっていく感覚だ。


 美咲は椅子に座り込み、ノートを見つめる。数字が、全てを語っている。疑いようのない事実が、そこにある。


 美咲「……やっと」


 美咲の目から、涙が一滴落ちる。疲労と興奮が混ざった涙だ。だがすぐに拭い、再び測定を続ける。データは、何度確認しても同じ結果を示す。





 夜明け前。


 美咲はノートを閉じ、深呼吸をした。全身に疲労が広がっているが、頭は冴えている。


 美咲「次は……」


 美咲の頭に、慎吾の顔が浮かぶ。正確には、慎吾の左腕だ。


 美咲「柊さんの左腕……」


 美咲は独言する。あの左腕には、魔物とは違う何かがある。魔王の欠片。それが、どのように慎吾の体内で機能しているのか。同化のメカニズムは。魔素の流れは。


 美咲「あのデータがあれば、全てが繋がる」


 美咲の目に、再び熱が戻る。だが、その熱は慎吾への温かさではない。研究対象への興味だ。


 美咲は今回の発見の「意味」を考える。魔物を殺すと魔素が放出される。大気中の魔素濃度が上昇する。それは事実だ。美咲はそれを記録した。


 だが、その先は。


 美咲「……これを、対策室に報告しないと」


 美咲は立ち上がり、ノートの一部をコピーする。全てではない。核心部分だけを抜き出し、「魔物の体内魔素量に関する観測報告」という表題をつける。


 美咲「藤崎さんなら、理解してくれるはず」


 美咲は報告書を封筒に入れ、実験室を出た。階段を上がり、地上に出ると、夜明けの光が目に入る。空が、少しずつ明るくなっている。


 美咲は廃墟の通路を歩きながら、ノートを抱きしめる。そこには、真実が詰まっている。だが、その真実が何を意味するのか。魔物討伐が逆効果だという論理の一歩先には、美咲はまだ至っていない。


 なぜなら、美咲の問いは「魔物の仕組み」であって、「人間の対策が正しいかどうか」ではないから。


 美咲の視野には、まだその答えは入っていない。研究者としての興奮が、その先を見ることを妨げている。


 美咲「柊さん……いつか、見せていただきたい」


 その言葉には熱がある。だが、慎吾への思いやりではない。ただ、研究対象としての興味だけが、そこにある。


 美咲は歩き続ける。朝日が廃墟を照らし始め、美咲の影が長く伸びる。その影は、まるで何かに引きずられているかのように、地面に這っていた。

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