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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
3章-真実

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第32話「桐生の決意」

 朝の光が、廃墟の隙間から差し込んでいる。


 桐生要は、レッドゾーンの廃ビルの屋上に立っていた。双眼鏡を構え、遠くの街を見ている。


 視界の先に、一人の男がいた。


 柊慎吾だ。


 黒いパーカーを羽織り、杖を手に、C級魔物と対峙している。魔物は巨大なトロール型だ。身長は三メートルを超える。


 慎吾が杖を振る。火炎の魔法が発動する。炎が魔物を包む。魔物が咆哮する。だが、倒れない。再生能力があるのだ。


 慎吾が再び魔法を放つ。今度は爆発系だ。魔物の頭部が吹き飛ぶ。


 魔物が倒れる。動かなくなる。


 桐生は、その一連の動きを見ていた。


 戦闘は、鮮やかだった。無駄がない。慎吾の動きには、長年の経験が刻まれている。


 だが。


 桐生の目は、別のものを見ていた。


 慎吾の体だ。


 戦闘後、慎吾が壁に寄りかかる。息を整える。その動きが、微妙に鈍い。


 桐生「……また、傷を無視している」


 慎吾の右腕に、血が滲んでいる。戦闘中に負った傷だろう。だが、慎吾は治療もせずに、次の魔物を探し始める。


 桐生が双眼鏡を下ろす。


 一週間前から、慎吾を観察している。SS級魔物が撤退した後、慎吾の狩りのペースが異常になった。


 一日に十体以上。


 それも、C級からB級の大型魔物ばかりだ。


 桐生「……あの子は、何を焦っている」


 桐生は、刑事だった。人の動きを見れば、その心理が読める。


 慎吾は、恐怖している。


 SS級魔物が、再び来るかもしれない。その前に、強くならなければならない。


 そう考えているのだろう。


 桐生は、ため息をついた。


 桐生「……無茶をするな」


 だが、その言葉は届かない。


 慎吾が次の魔物を倒した。


 今度はオーク型だ。筋肉質の巨体が、地面に倒れている。


 慎吾が杖を下ろす。呼吸が荒い。


 左腕が語りかける。


 左腕『疲れているな』


 慎吾「……大丈夫だ」


 左腕『嘘をつくな。お前の体は限界に近い』


 慎吾「まだ、動ける」


 左腕『……そうか』


 慎吾が壁に寄りかかる。パーカーの袖が、少し上がる。


 その時、桐生が双眼鏡で、ある変化に気づいた。


 慎吾の左腕だ。


 黒い紋様が、浮き出ている。


 桐生「……あれは」


 桐生は、以前にも慎吾の左腕を見たことがある。一ヶ月前、偶然、戦闘後の慎吾とすれ違った時だ。


 あの時、紋様は肘までだった。


 だが、今は違う。


 肩まで伸びている。


 桐生の目が細くなる。


 桐生「……広がっている」


 紋様は、まるで木の根のように、皮膚の下を這っている。黒い、有機的な模様だ。


 桐生は、双眼鏡を下ろした。


 これは、普通ではない。


 桐生「……あの子の左腕……」


 桐生は、第七班壊滅事件の調査を担当していた。その時、慎吾の左腕が「何か」に憑依されていることを知った。


 だが、詳細は分からない。慎吾も語らなかった。


 桐生は、手帳を取り出した。そこには、慎吾の観察記録が書かれている。


「一ヶ月前:紋様、肘まで」

「今日:紋様、肩まで」


 桐生「……速すぎる」


 桐生は、手帳を閉じた。


 これは、報告すべきだろうか。


 対策室は、慎吾を監視対象としている。桐生は、その任務を受けている。


 だが。


 桐生は、ビルの柱に背を預けた。


 娘の顔が、浮かぶ。


 十二歳だった。魔物に襲われて、死んだ。


 桐生は、娘を守れなかった。


 その罪悪感は、今も消えない。


 桐生「……あの子も、同じだ」


 慎吾も、誰かを守れなかった。第七班の仲間を。


 だが、慎吾は戦い続けている。


 桐生「……守れなかった者同士か」


 桐生は、立ち上がった。


 報告書のことは、後で考える。


 今は、あの子を見守る。


 それが、今の自分にできることだ。


 数時間後。


 慎吾が、レッドゾーンから戻る途中で休んでいた。


 廃墟の壁に寄りかかり、水を飲む。


 疲労が、体を重くしている。


 今日だけで、十二体の魔物を倒した。


 右手の指が、微かに震えている。


 慎吾「……まだ、足りない」


 左腕『無理をするな』


 慎吾「お前が言うな」


 左腕『……』


 その時、足音がした。


 慎吾が顔を上げる。


 桐生が、近づいてきていた。


 慎吾「……桐生さん」


 桐生「柊」


 二人の間に、数メートルの距離がある。


 桐生が立ち止まる。


 桐生「少し、話がある」


 慎吾「……何ですか」


 桐生「左腕の紋様。広がっているな」


 慎吾の表情が、微かに変わる。


 慎吾「……見えていましたか」


 桐生「ああ」


 桐生が一歩、近づく。


 桐生「見せてくれ」


 慎吾は、しばらく黙っていた。


 だが、拒絶はしなかった。


 慎吾が、パーカーの袖を上げる。


 左腕が露わになる。


 黒い紋様が、肩の手前まで伸びている。まるで血管のように、皮膚の下を走っている。


 桐生が近づき、紋様を見る。


 桐生「……一ヶ月前より、明らかに広がっている」


 慎吾「……そうですね」


 桐生「理由は分かるか」


 慎吾「……分かりません。でも、魔物を倒すたびに、少しずつ広がっている気がします」


 桐生「……そうか」


 沈黙。


 桐生が口を開く。


 桐生「柊。無理があるぞ」


 慎吾「……」


 桐生「お前の体は、限界に近い。それは見れば分かる」


 慎吾「分かっています」


 桐生「なら、なぜ休まない」


 慎吾「……休めません」


 桐生「なぜだ」


 慎吾が空を見上げる。


 慎吾「SS級魔物が、また来るかもしれない」


 慎吾「その前に、強くならなければ」


 桐生「……」


 慎吾「だから、休めません」


 桐生は、何も言わなかった。


 その気持ちは、分かる。


 恐怖から逃れるために、戦い続ける。


 それは、自分も同じだった。


 桐生「……お前の判断だ」


 慎吾「……はい」


 桐生「だが」


 桐生が慎吾を見る。


 桐生「無理をしすぎるな。お前が倒れれば、誰が魔物と戦う」


 慎吾「……」


 桐生「お前は、必要な人間だ」


 慎吾が桐生を見る。


 慎吾「……俺は」


 桐生「お前が何を思っていようと、事実は変わらない」


 桐生「お前がいなければ、もっと多くの人が死んでいた」


 慎吾は、何も言えなかった。


 桐生は、それ以上何も言わず、背を向けた。


 桐生「……行け。今日はもう、休め」


 慎吾「……はい」


 桐生が歩き出す。


 慎吾が、その背中を見る。


 慎吾「桐生さん」


 桐生が振り返る。


 慎吾「……ありがとうございます」


 桐生は、微かに笑った。


 桐生「礼を言うな。俺は、監視しているだけだ」


 桐生が去る。


 桐生は、一人でビルの屋上に戻った。


 夕日が、廃墟を染めている。


 桐生は、柱に背を預けた。


 桐生「……あの子」


 慎吾の顔が、浮かぶ。


 疲れ切った顔。だが、戦い続ける目。


 それは、かつての自分に似ていた。


 いや、違う。


 自分は、守れなかった。


 だが、慎吾は、まだ戦っている。


 桐生「……娘に、重なる」


 娘も、強かった。


 最期まで、諦めなかった。


 だが、守れなかった。


 桐生の中に、罪悪感がある。


 それは、消えない。


 だが。


 桐生「……あの子は、自分で選んでいる」


 慎吾は、自分の意志で戦っている。


 それを、止める権利は自分にはない。


 桐生「……尊重する。それが、今できることだ」


 桐生は、立ち上がった。


 報告書のことを考える。


「柊慎吾、左腕の紋様拡大」


 それを書けば、対策室は動くだろう。


 だが。


 桐生は、報告書を書かないことに決めた。


 今は、まだ。


 桐生「……見守る」


 それが、自分の選択だ。


 桐生は、屋上から下りた。


 遠くで、慎吾が歩いている姿が見える。


 桐生は、その姿が見えなくなるまで、見ていた。


 風が吹く。


 廃墟の中に、静寂がある。


 桐生「……頼むから、無理するな」


 その言葉は、風に流れた。

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