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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
2章-孤立と殺戮

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第30話「決意の夜」

 決戦の前日、それぞれが準備をしていた。


 慎吾は、部屋で武器を確認していた。刃こぼれがないか、柄はしっかりしているか。何度も何度も確かめる。左腕の紋様を見る。いつもより濃い。まるで、明日の戦いを予期しているかのように、黒い線が肌を這っている。


 陽菜は、小さな部屋で祈っていた。膝をつき、手を合わせる。弟の写真が、目の前にある。


「蓮、私、頑張るね。怖いけど、逃げないよ」


 その声は小さく、震えている。だが、諦めてはいない。


 桐生は、銃を整備していた。ライフルを分解し、一つ一つの部品を磨く。油を差し、組み立て直す。その手つきは正確で、まるで儀式のように、丁寧だった。娘の写真が、机の上にある。桐生は、写真を見る。


「優花、お前の代わりに、俺が守る」


 冴は、避難民のリストを確認していた。誰がどこに逃げるか、誰が子供を連れているか、誰が高齢者か。全てを把握する。その顔は疲れ切っている。だが、止まらない。生徒の写真が、机の引き出しにある。冴は、それを取り出し、見つめる。


「香織、私、まだ諦めないよ」


 長谷川は、厨房で料理をしていた。シチュー、パン、サラダ、デザート。全てを丁寧に作る。まるで、最後の晩餐を準備しているかのように、心を込めて作っていた。妻の写真が、エプロンのポケットにある。長谷川は、それに触れる。


「愛、見守っていてくれ」


 夕方、長谷川が慎吾の部屋を訪れた。


「柊、今夜、皆で食事をしよう」


「皆?」


「ああ。お前、陽菜ちゃん、桐生、冴さん。五人でな」


 慎吾は、少しの間、考えた。そして、頷く。


「分かりました」


 夜、五人は長谷川の部屋に集まった。大きなテーブルが用意され、料理が並んでいる。湯気が立ち上り、良い匂いが部屋を満たしている。


「さあ、座ってくれ」


 長谷川が椅子を引く。五人は、テーブルを囲んで座る。慎吾、陽菜、桐生、冴、長谷川。皆、疲れた顔をしている。だが、その目には温かさがある。


「では、いただきます」


 長谷川が言う。皆が手を合わせ、食事を始める。


 シチューは温かく、優しい味がする。野菜と肉の旨みが口の中に広がる。パンは焼きたてで、外は香ばしく、中はふんわりとしている。サラダは新鮮で、ドレッシングの酸味が食欲をそそる。


 しばらく、皆は黙って食べていた。その沈黙は、心地よい。まるで、長年一緒に暮らしている家族のような、そんな自然な沈黙だった。


「美味しいですね」


 陽菜が言う。長谷川が微笑む。


「そうか。それは良かった」


 桐生が、ワインのボトルを取り出す。


「こんな日だ。少しくらい、いいだろう」


 桐生がグラスに注ぐ。皆のグラスにワインが注がれる。


「乾杯しよう」


 桐生がグラスを掲げる。皆も、グラスを掲げる。


「明日、生きて帰るために」


 グラスが触れ合い、澄んだ音がする。


 食事が進む中、桐生が口を開いた。


「俺には、娘がいた」


 皆が桐生を見る。桐生は、グラスを見つめながら話す。


「優花という名前だった。明るくて、元気で、魔法使いになりたがっていた」


 桐生の声は、静かだった。だが、その言葉には深い愛情が込められている。


「だが、俺は反対した。危険だからと。でも、優花は聞かなかった。そして、魔物との戦闘で死んだ」


 桐生が目を閉じる。


「俺は、娘を守れなかった。それが、今でも後悔している」


 冴が、口を開く。


「私にも、生徒がいました。香織という子でした」


 冴の声も、静かだった。


「優しい子で、いつも笑っていて、私を『先生』と呼んでくれました。でも、魔物が学校を襲ったとき、香織は私を守ろうとして、死にました」


 冴が涙を拭う。


「私は、何もできませんでした。ただ、見ているだけでした」


 陽菜が、自分の番だと気づく。


「私にも、弟がいました。蓮です」


 陽菜の声は、震えている。


「魔物に襲われたとき、私は魔法に目覚めました。でも、蓮を守れませんでした。蓮は、私の腕の中で死にました」


 陽菜が泣く。冴が陽菜の手を握る。


 長谷川が、深く息をつく。


「俺には、妻がいた。愛という名前だった」


 長谷川の声は、温かい。


「一緒にレストランをやっていた。俺が料理を作り、妻が接客をする。それが、俺たちの幸せだった」


 長谷川が微笑む。その笑顔は、悲しみと、そして感謝が混じったような、複雑な笑顔だった。


「でも、魔物が妻を殺した。俺は、何もできなかった。妻は、最後に言った。『あなたの料理、大好きだったわ』と」


 長谷川が目を閉じる。


「だから、俺は料理を作り続ける。誰かが笑ってくれるなら、それでいい」


 四人が、慎吾を見る。慎吾は、少しの間、黙っていた。そして、口を開く。


「俺には、母と妹がいました」


 慎吾の声は、小さい。


「二人とも、魔物に殺されました。目の前で」


 慎吾が拳を握る。


「そして、俺には仲間がいました。集落の人々です。だが、俺が暴走して、皆を殺しました」


 慎吾が目を伏せる。


「美咲という人も、いました。優しい人でした。でも、俺が守れなかった。美咲も、死にました」


 慎吾が顔を上げる。その目には、涙が浮かんでいる。


「俺は、全てを失いました。だから、一人でいようとしました。誰も巻き込みたくなかった」


 慎吾が皆を見る。


「でも、皆さんが、俺に関わってくれました。陽菜さんが、希望をくれました。桐生さんが、生きろと言ってくれました。冴さんが、信じてくれました。長谷川さんが、温もりをくれました」


 慎吾が立ち上がり、深く頭を下げる。


「ありがとうございます」


 皆が驚く。陽菜が泣きながら笑う。桐生が微笑む。冴が頷く。長谷川が慎吾の肩を叩く。


「礼はいらん。お前は、俺たちの仲間だ」


 食事は続く。今度は、笑い声が溢れる。陽菜が冗談を言い、桐生が笑う。冴が昔の話をし、長谷川が料理の秘訣を語る。慎吾も、少しずつ話に加わる。


 その光景は、まるで本当の家族のようだった。喪失を抱え、罪悪感を背負い、それでも生きようとする、五人の家族だった。


 食事が終わり、皆が立ち上がる。


「じゃあ、明日に備えて休もう」


 桐生が言う。皆が頷く。


「明日、生きて会おう」


 冴が言う。皆が「ああ」と答える。


 一人ずつ、部屋を出ていく。最後に、慎吾と長谷川が残った。


「柊」


「はい」


「必ず、帰ってこい」


「…はい」


 長谷川が慎吾を抱きしめる。その腕は温かく、まるで全てを許してくれるような、そんな温もりだった。


 慎吾は、自分の部屋に戻った。窓の外を見ると、夜空に星が瞬いている。遠くには、SS級魔物の影が見える。動いていない。だが、明日には動き出す。


 慎吾は、武器を手に取る。そして、ベッドに横になる。


 明日、全てが決まる。勝てるかどうか、分からない。だが、一つだけ分かることがある。


 俺は、もう一人じゃない。


 夜が明け始める。窓の外が、少しずつ明るくなる。朝日が、地平線から顔を出す。その光は優しく、世界を照らしていく。


 慎吾は目を覚ます。よく眠れた。体は軽い。


 慎吾は立ち上がり、武器を手に取る。そして、部屋を出る。


 廊下には、既に陽菜と桐生がいた。二人とも、準備を整えている。


「おはようございます、柊さん」


「おはよう」


 三人は、避難所を出る。朝日が、三人を照らす。その影は長く、地面に伸びている。


 遠くに、SS級魔物が見える。動き出している。こちらに向かってくる。


 決戦の日が、始まった。


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