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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
2章-孤立と殺戮

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第29話「SS級魔物の動き」

 警報が鳴り響いた。避難所中に、けたたましい音が広がる。人々が飛び起き、窓の外を見る。そして、凍りつく。


 SS級魔物が、動いていた。


 あれほど静止していた巨体が、ゆっくりと足を動かしている。広場から離れ、街の方へと向かっている。その動きは緩慢だった。だが、一歩ごとに地面が揺れる。ビルが軋む。まるで、世界そのものが悲鳴を上げているかのような、そんな音だった。


 慎吾は窓の外を見ていた。SS級魔物の姿が、遠くに見える。黒い巨体が、朝日を遮っている。その影は長く、街全体を覆い尽くしそうなほど、巨大だった。


『動き始めたな』


 左腕が言う。その声は、いつもより少しだけ緊張している。


「ああ」


『あれは、こちらに向かってくる』


「分かっている」


 慎吾は、武器を手に取る。そして、部屋を出る。廊下には、既に人々が集まっている。皆、恐怖に顔を引きつらせている。子供たちが泣いている。母親たちが、必死に子供をなだめている。


 冴が、拡声器を持って現れる。


「皆さん、落ち着いてください。今から、対策本部で会議を開きます。避難の準備をしてください」


 冴の声は冷静だった。だが、その顔は青ざめている。


 慎吾は、冴に近づく。


「会議に、参加します」


 冴が驚いて慎吾を見る。


「柊さん…」


「俺も、戦う者の一人です」


 冴は、少しの間、慎吾を見ていた。そして、頷く。


「分かりました。一緒に来てください」


 対策本部は、避難所の会議室にあった。既に、多くの人が集まっている。自衛隊の制服を着た男たち、魔法使いたち、政府関係者たち。皆、深刻な表情をしている。


 桐生もいた。ライフルを背負い、腕を組んでいる。慎吾を見て、小さく頷く。


 陽菜もいた。杖を握り、不安そうな顔をしている。慎吾を見て、少しだけ安心したような表情を浮かべる。


 会議が始まった。自衛隊の指揮官が、地図を広げる。


「SS級魔物は、現在、広場から北東へ移動しています。このまま進めば、三時間後には避難所に到達します」


 指揮官の声は厳しい。その目には、絶望が浮かんでいる。


「我々の兵器では、SS級魔物を倒すことはできません。核兵器の使用も検討しましたが、東京都内での使用は、被害が大きすぎる」


 室内に、沈黙が広がる。誰も、何も言えない。


 政府関係者が口を開く。


「避難しかないのではないか。東京を捨て、西へ逃げる」


「どこまで逃げるんだ。魔物は、どこまでも追ってくる」


「だが、戦っても勝てない」


「ならば、どうしろと言うんだ」


 会議室が、混乱に包まれる。皆、怒鳴り合い、責任を押し付け合う。まるで、溺れる者が藁をも掴もうとするかのような、そんな必死さだった。


 慎吾は、黙って聞いていた。左腕が疼く。紋様が、わずかに光る。


『あれを倒すには、俺の力を全て使う必要がある』


 左腕が言う。


『だが、お前の体が持たない。暴走する』


「分かっている」


『それでも、やるのか』


「他に、方法がない」


 慎吾は立ち上がる。皆の視線が、慎吾に集まる。


「俺が、戦います」


 室内が、静まり返る。


 指揮官が、慎吾を見る。


「君は…」


「柊慎吾です。魔法使いです」


「君一人で、SS級魔物と戦うと?」


「勝てないかもしれません」


 慎吾は、正直に答える。


「だが、時間を稼げます。その間に、避難民を逃がしてください」


 桐生が口を開く。


「俺も行く」


 陽菜も立ち上がる。


「私も、一緒に戦います」


 冴が二人を見る。


「陽菜ちゃん…」


「冴さん、私、決めました。もう、逃げません」


 陽菜の目は、真剣だった。その目には、恐怖がない。ただ、決意だけがある。


 指揮官が、深く息をつく。


「分かった。君たちに任せる。我々は、避難民の誘導を行う」


「お願いします」


 会議が終わり、人々が散っていく。慎吾、陽菜、桐生の三人が残った。


 桐生が、慎吾に近づく。


「本当に、やるのか」


「ああ」


「死ぬかもしれないぞ」


「分かっています」


 桐生は、慎吾の肩に手を置く。


「生きて帰れ」


「…努力します」


 陽菜が、慎吾の隣に立つ。


「柊さん、一緒に頑張りましょう」


「ああ」


 三人は、会議室を出る。廊下には、長谷川が立っていた。その顔は、心配に満ちている。


「柊、本当に行くのか」


「はい」


「…そうか」


 長谷川は、何も言わなかった。ただ、慎吾を抱きしめた。その腕は温かく、まるで父親のような、そんな温もりだった。


「必ず、帰ってこい」


「はい」


 夜になり、慎吾は自分の部屋にいた。武器を整え、体を休める。明日、SS級魔物と戦う。勝てるかどうか、分からない。だが、やるしかない。


 慎吾は、左腕に意識を向ける。


『準備はいいか』


『ああ。お前と俺の同調率は、以前より上がっている。だが、まだ完全ではない』


『完全にならなくても、戦える』


『お前が死ぬぞ』


『それでもいい』


 左腕は、しばらく黙っていた。そして、言う。


『お前は、変わったな』


『そうか』


『以前のお前なら、死ぬことを望んでいた。だが、今は違う。生きようとしている』


 慎吾は、何も答えなかった。


『だから、俺も協力する。お前を、生かす』


「ありがとう」


 慎吾は、窓の外を見る。星が瞬いている。遠くには、SS級魔物の影が見える。動きを止めている。まるで、明日の戦いを待っているかのように。


 慎吾は、拳を握る。明日、全てが決まる。


 風が吹き、窓が揺れる。その音は小さく、だが確かに、慎吾の耳に届いていた。

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