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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
2章-孤立と殺戮

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第28話「陽菜の成長」

 陽菜は、一人でレッドゾーンにいた。慎吾との修行は、今日は休みだ。だから、陽菜は一人で修行をすることにした。杖を握り、支援魔法を唱える。光が体を包み、筋力が増す。何度も何度も繰り返す。魔力が減り、疲労が溜まる。だが、止めない。


 陽菜は、強くなりたかった。もっと強くなれば、もっと多くの人を救える。慎吾を支えられる。誰も、死なせずに済む。


 陽菜は、D級魔物を見つけた。犬のような姿をした、小さな魔物だ。陽菜は杖を構える。攻撃魔法を唱える。光の矢が放たれ、魔物に命中する。魔物が怯む。陽菜は、もう一度攻撃する。今度は、二本の光の矢が放たれる。魔物が倒れ、動かなくなる。


 陽菜は、息を整える。以前なら、一本の光の矢しか放てなかった。だが、今は二本放てる。成長している。それは確かだ。だが、まだ足りない。B級魔物には勝てない。A級やS級、SS級など、到底無理だ。


 陽菜は、杖を見る。この杖で、どこまで強くなれるのだろう。


 修行を終え、陽菜は避難所へ戻る道を歩いていた。だが、途中で足を止める。墓地が見えた。二年ぶりに訪れる、弟の墓がある場所だった。


 陽菜は、墓地に入る。草が生い茂り、墓石は苔むしている。誰も手入れをしていない。それは当然だ。魔物パンデミック以降、墓地を訪れる人は少ない。皆、生きることで精一杯だ。


 陽菜は、弟の墓を見つける。小さな墓石だ。名前が刻まれている。「桜井 蓮」。陽菜の弟の名前だった。


 陽菜は、墓石の前に膝をつく。そして、花を置く。道端で摘んだ、小さな野花だった。


「蓮、ごめんね」


 陽菜が呟く。その声は、震えている。


 二年前、陽菜と蓮は、家族と一緒に避難していた。魔物パンデミックが起き、街は混乱していた。陽菜の家族も、避難所へ向かっていた。だが、途中でD級魔物の群れに襲われた。


 父と母は、陽菜と蓮を守ろうとした。だが、魔物は多すぎた。父が倒れ、母も倒れた。陽菜は、蓮の手を握り、逃げようとした。だが、蓮が転んだ。陽菜は、蓮を助けようとした。だが、魔物が蓮に襲いかかった。


 陽菜は、その時、魔法に目覚めた。光の魔法だった。陽菜は、本能的に魔法を使った。光の矢が魔物を倒した。だが、もう遅かった。蓮は、血まみれで倒れていた。


「お姉ちゃん…」


 蓮が小さく呟いた。その声は、か細く、消えそうだった。


「蓮、大丈夫、今、治すから」


 陽菜は、必死に治療魔法を試みた。だが、当時の陽菜には、治療魔法は使えなかった。ただ、光の矢しか使えなかった。


 蓮は、陽菜の手を握る。


「お姉ちゃん、ありがとう」


 それが、蓮の最後の言葉だった。蓮の手が、力を失い、落ちた。


 陽菜は、蓮の遺体を抱いて泣いた。声を出して、泣いた。


 それから、陽菜は変わった。治療魔法を習得した。支援魔法も習得した。誰も死なせないために。蓮のような子供を、二度と生まないために。


 だが、それは贖罪だった。陽菜は、蓮を守れなかった。魔法に目覚めたのに、守れなかった。その罪悪感が、陽菜を苦しめ続けている。


「蓮、私、頑張ってるよ。たくさんの人を、助けてるよ」


 陽菜が言う。涙が頬を伝い、地面に落ちる。


「でも、まだ足りない。もっと強くならなきゃ。もっと、みんなを守らなきゃ」


 陽菜は、墓石に額をつける。冷たい石の感触が、陽菜の額に伝わる。


「ごめんね、蓮。お姉ちゃん、蓮を守れなかった。でも、これからは、誰も死なせない。約束する」


 その時、足音が聞こえた。陽菜は顔を上げる。慎吾が、墓地に入ってきた。その手には、花がある。


「柊さん」


 慎吾が驚いて陽菜を見る。


「陽菜…」


 慎吾が近づいてくる。陽菜は涙を拭く。


「柊さんも、お墓参りですか」


「ああ」


 慎吾は、陽菜の隣を通り過ぎ、少し離れた場所にある墓石の前に立つ。そこには、三つの墓石が並んでいる。慎吾は、花を置く。


 陽菜は、慎吾を見ている。慎吾は、黙って墓石を見ていた。その背中は、悲しみに満ちている。まるで、世界中の重さを背負っているかのような、そんな背中だった。


 陽菜は立ち上がり、慎吾に近づく。


「柊さんのご家族ですか」


「ああ。母と、妹だ」


 慎吾の声は、静かだった。だが、その言葉には深い悲しみが込められている。


「私も、弟を亡くしました」


 慎吾が陽菜を見る。その目には、驚きと、そして共感が浮かんでいる。


「そうか」


 二人は、しばらく黙っていた。風が吹き、木々が揺れる。葉が擦れ合う音がする。その音は、まるで誰かの囁きのようだった。


「柊さん」


「何だ」


「私たち、似てますね」


 慎吾が眉をひそめる。


「似てる?」


「はい。二人とも、大切な人を失って。二人とも、罪悪感を抱えて。二人とも、贖罪のために戦っている」


 慎吾は、何も答えなかった。ただ、陽菜を見ている。


「私、ずっと思ってました。柊さんは、なぜあんなに孤独なんだろうって。でも、今、分かりました。柊さんも、私と同じなんですね」


 陽菜が微笑む。その笑顔は、悲しみと、そして優しさが混じったような、複雑な笑顔だった。


「陽菜」


「はい」


「お前は、弟を守れなかったことを、悔いているのか」


「はい」


「だが、お前は今、多くの人を守っている」


「それでも、足りません。蓮を守れなかった罪は、消えません」


 慎吾は、少しの間、黙っていた。そして、口を開く。


「俺も、同じだ。俺は、仲間を殺した。その罪は、消えない。だが…」


 慎吾が言葉を探す。


「だが、お前や、桐生さんや、長谷川さんが言った。『生きろ』と。『人を守れ』と」


 陽菜は、慎吾を見ている。


「俺は、まだ分からない。生きる意味も、守る意味も。だが、お前たちと一緒にいると、少しだけ、心が軽くなる」


 陽菜が涙を流す。その涙は、悲しみではなく、何か別のものだった。


「柊さん、ありがとうございます」


「何も、してない」


「いいえ。柊さんがいてくれるだけで、私、嬉しいです」


 慎吾は、何も答えなかった。ただ、空を見上げる。


 夕日が沈みかけている。空が、赤く染まっている。その美しさは、この墓地には似つかわしくないほど、穏やかなものだった。


 二人は、墓地を出る。並んで歩く。その影が、地面に伸びている。


「陽菜」


「はい」


「一緒に、頑張ろう」


 陽菜が驚いて慎吾を見る。慎吾の顔には、いつもの無表情がある。だが、その目には、少しだけ温かさが宿っていた。


「はい」


 陽菜が笑う。その笑顔は、いつもの明るさを取り戻していた。


 二人は、避難所へ向かって歩き続ける。夕日が二人を照らし、長い影が道を這う。その影は、まるで二人が昔からの仲間であるかのように、自然に並んでいた。


 風が吹き、陽菜の髪を揺らす。陽菜は、その風を心地よく感じた。まるで、蓮が背中を押してくれているような、そんな気がした。


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