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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
2章-孤立と殺戮

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第25話「冴の計画」

 冴は、灯火の会の本部で書類を見ていた。避難民のリスト、食料の在庫、医薬品の残量。どれも、深刻な数字だった。避難民は増え続けている。先週だけで、五十人が新たに保護された。だが、食料は足りない。あと二週間で底をつく。医薬品も、残りわずかだった。


 冴は溜息をつき、ペンを置く。窓の外を見ると、避難民たちが庭で話している。子供たちが走り回り、母親たちが笑っている。その光景は、平和だった。まるで、魔物など存在しない世界のような、そんな錯覚を覚える。だが、それは錯覚だ。現実は厳しい。食料がなくなれば、皆、飢える。医薬品がなくなれば、病人は死ぬ。


 冴は、決断しなければならなかった。レッドゾーンへ行き、物資を回収する。だが、それは危険だ。B級、C級の魔物が徘徊している。誰かが死ぬかもしれない。だが、行かなければ、もっと多くの人が死ぬ。


 冴は立ち上がり、部屋を出た。廊下を歩き、慎吾の部屋へ向かう。扉をノックする。


「柊さん、入ってもいいですか」


「どうぞ」


 冴は扉を開け、中に入る。慎吾がベッドに座っていた。その体には、まだ傷の痕が残っている。だが、以前よりは良くなっている。


「話があります」


「何ですか」


 冴は椅子に座り、慎吾を見る。


「レッドゾーンから、物資を回収してほしいんです」


 慎吾は黙る。その目は、冴を見ている。


「食料と医薬品が足りません。このままでは、避難民を養えない。だから、レッドゾーンのスーパーマーケットや病院から、物資を回収したいんです」


「危険です」


「分かっています。だから、あなたにお願いしたい」


 慎吾は少しの間、黙っていた。冴は、慎吾の返事を待つ。以前なら、断られただろう。慎吾は、人と関わりたがらなかった。だが、今は違う。陽菜と修行をし、桐生と話し、少しずつ心を開いている。


「…分かりました」


 慎吾が答える。冴は驚いて目を見開く。


「本当に?」


「ああ。やります」


 冴は、安堵の息をつく。その胸の中で、何かが温かくなる。慎吾は、変わった。本当に、変わり始めている。


「ありがとうございます」


「礼はいりません」


 慎吾が立ち上がる。


「いつ行きますか」


「明日、朝に出発します。陽菜さんと、桐生さんも一緒です」


「分かりました」


 冴は部屋を出る。廊下を歩きながら、冴は過去を思い出していた。その足取りは重く、まるで見えない鎖に繋がれているかのような、そんな歩みだった。


 冴は、かつて教師だった。高校で国語を教えていた。生徒たちは、明るく、元気で、未来に希望を持っていた。冴は、生徒たちを愛していた。彼らの成長を見ることが、冴の喜びだった。授業で詩を読み、小説を語り、生徒たちの目が輝くのを見る。それは、冴にとって何よりも幸せな時間だった。


 だが、魔物パンデミックが起きた。


 学校は避難所になった。冴は、生徒たちと一緒に学校に籠もった。食料を分け合い、励まし合い、生き延びようとした。だが、魔物が襲ってきた。D級の魔物の群れが、学校に侵入した。その日、冴は初めて、人の死を目の当たりにした。血の匂い、絶叫、逃げ惑う人々。教室が、地獄になった。


 冴は、生徒たちを守ろうとした。だが、冴には力がなかった。魔法も使えない。ただの教師だった。武器を持ち、魔物に立ち向かったが、何もできなかった。生徒たちが次々と殺されていく。冴は、何もできなかった。ただ、見ているだけだった。その無力感は、今でも冴の心を苦しめる。


 最後に残ったのは、冴と、数人の生徒だけだった。その中には、冴が最も愛していた生徒、香織もいた。香織は、いつも笑顔で、冴を「先生」と呼んでくれた。成績は良くなかったが、心は誰よりも優しかった。困っている人を見ると、必ず手を差し伸べる。そんな子供だった。


「先生、大丈夫ですよ。私たち、生き延びますから」


 香織が言った。その声は明るく、希望に満ちていた。まるで、本当に未来があると信じているかのような、そんな声だった。


 だが、その夜、魔物が再び襲ってきた。今度は、C級の魔物だった。体長三メートル、鋭い牙、黒い鱗。それは、悪夢のような存在だった。香織が、冴を守ろうとして、魔物の前に立った。


「先生、逃げてください」


「香織、ダメだ!」


 だが、香織は聞かなかった。その小さな体で、魔物に立ち向かった。魔物が香織を襲い、その体を引き裂いた。香織は叫び声を上げ、地面に倒れた。血が床を染め、その赤は、冴の視界を覆い尽くした。


 冴は、香織の元へ駆け寄った。だが、もう遅かった。香織は、冷たくなっていた。その目は開いたまま、まるで何かを見ているかのように、空を見つめていた。その顔には、まだ笑顔の名残があった。


 冴は、香織の遺体を抱いて泣いた。声を出して、泣いた。喉が枯れるまで、泣いた。


 それから、冴は変わった。生徒を守れなかった罪悪感が、冴を苦しめた。だが、冴は諦めなかった。生き残った人々を守ると決めた。それが、香織への贖罪だと思った。香織が守ろうとした命を、冴が守り続ける。それが、冴の使命だった。


 冴は、灯火の会を作った。避難民を保護し、食料を分け、希望を与える。だが、それは容易ではない。毎日が戦いだった。食料不足、病気、魔物の襲撃。何度も、諦めそうになった。だが、諦めなかった。香織の顔が、いつも冴の心にあった。あの笑顔が、冴を支えていた。


 冴は、自分の部屋に戻った。窓の外を見ると、夜が訪れていた。星が瞬いている。無数の星が、まるで散らばった砂粒のように、夜空を埋め尽くしている。遠くには、SS級魔物の影が見える。動かない。だが、その存在は、いつも冴を不安にさせる。まるで、巨大な墓標のように、そこに立っている。世界の終わりを象徴するかのような、そんな存在だった。


 冴は、椅子に座る。そして、考える。


 慎吾は、変わり始めている。以前は、誰も寄せ付けなかった。孤独を纏い、死を望んでいるかのような目をしていた。だが、今は違う。陽菜と一緒に修行し、桐生と話し、そして今日、冴の依頼を受け入れた。それは、小さな変化かもしれない。だが、確実な変化だった。人との繋がりを、少しずつ受け入れ始めている。


 冴も、変わらなければならない。ただ、避難民を守るだけではいけない。慎吾のように、前に進まなければならない。過去の罪悪感に囚われず、未来を見なければならない。香織は、冴に未来を見てほしいと思っているはずだ。


 冴は、窓を閉める。そして、ベッドに横になる。明日は、物資回収作戦だ。慎吾、陽菜、桐生と一緒に、レッドゾーンへ行く。危険だ。だが、やらなければならない。そして、冴も戦う。もう、ただ見ているだけではいけない。


 冴は目を閉じる。香織の顔が浮かぶ。その笑顔が、冴を励ます。


「先生、頑張ってください」


 香織の声が聞こえる気がした。冴は、小さく頷く。


 窓の外では、風が吹いている。木々が揺れ、葉が擦れ合う音がする。その音は、まるで誰かの囁きのようだった。


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