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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
2章-孤立と殺戮

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第22話「一時の平穏」

 目が覚めたとき、天井が見えた。白い天井だ。見慣れたものではない。ここはどこだろう。慎吾は体を起こそうとして、激痛に襲われた。全身が悲鳴を上げる。肋骨、腕、脚、あらゆる場所が痛む。まるで体の中に無数の針が刺さっているような、鋭い痛みだった。


「動かないでください」


 陽菜の声が聞こえた。慎吾は顔を横に向ける。陽菜が椅子に座り、こちらを見ていた。その顔は疲れ切っていて、目の下には隈ができている。だが、表情は穏やかで、安堵の色が浮かんでいる。


「ここは…」


「避難所の医療室です」


 慎吾は周囲を見渡す。簡易ベッドがいくつか並び、医療器具が置かれている。窓からは朝の光が差し込んでいて、埃が光の中で舞っている。どのくらい眠っていたのだろう。


「どのくらい」


「丸一日です」


 一日。それだけ眠っていたのか。慎吾は再び体を起こそうとする。だが、陽菜が止める。


「まだ、完全には治っていません。治療魔法を使いましたが、傷が深すぎて…」


 陽菜の声は申し訳なさそうだった。まるで、自分の無力さを責めているような、小さな声だった。


「お前のせいじゃない」


 慎吾は言う。陽菜は俺を生かしてくれた。それだけで十分だ。


 陽菜は何も答えず、ただ頷いた。そして、杖を握り、再び治療魔法を唱える。光が慎吾の体を包み、温かさが広がる。痛みが少しだけ和らぐ。骨が繋がる音がする。筋肉が修復されていく感覚がある。だが、完全には治らない。治療魔法にも限界がある。


「ありがとう」


 慎吾は陽菜に言った。陽菜は小さく笑う。その笑顔は、いつもより少しだけ弱々しかった。


 扉が開き、桐生が入ってきた。その後ろには冴と長谷川もいる。三人とも疲れた表情をしている。だが、慎吾を見て安堵の表情を浮かべた。


「目が覚めたか」


 桐生が言う。その声はいつもの冷静さを取り戻していた。


「ああ」


「無茶をする」


「すまない」


 桐生は慎吾のベッドの横に立ち、腕を組む。その目は慎吾を見下ろしている。だが、その視線には怒りはない。ただ、心配と、そして少しの安堵が混じっている。


「状況を報告する」


 桐生が言った。慎吾は黙って聞く。


「SS級魔物は、まだ広場にいる。動く気配はない。まるで眠っているかのように、ただそこに立っている」


 慎吾は窓の外を見る。遠くに、SS級魔物の巨体が見えた。動かない。本当に、まるで彫刻のように、ただそこにある。


「なぜ動かないんだ」


「分からない」


 冴が答える。その声は冷静で、分析的だった。


「可能性はいくつかある。一つは、満足したから。我々を倒す価値がないと判断した。二つ目は、まだ完全に覚醒していない。三つ目は、何か別の目的がある」


「どれが正しいと思う」


「分からない。だが、いずれにせよ、我々には時間ができた」


 長谷川が前に出る。その手には、温かいスープが入った容器があった。


「これを飲め。体力をつけなければならん」


 慎吾はスープを受け取る。湯気が立ち上り、優しい香りが鼻をくすぐる。一口飲むと、体に温かさが広がった。野菜の甘みと、塩の味がする。美味しい。生きている、と実感できる味だった。


「ありがとうございます」


「礼はいい。お前がいなければ、皆死んでいた」


 長谷川の言葉は重かった。だが、その声には感謝が込められている。


 慎吾はスープを飲み続ける。体が少しずつ力を取り戻していくのが分かる。


「柊」


 桐生が言った。慎吾は顔を上げる。


「これからどうする」


「どうするとは」


「SS級魔物が再び動き出す可能性がある。お前は、どうするつもりだ」


 慎吾は少しの間、黙っていた。そして、答える。


「もっと強くなる」


 その言葉は、静かだった。だが、その中には確固たる意志が込められている。


「左腕の力を、完全に制御する。次に戦うときは、負けない」


 桐生は何も言わなかった。ただ、慎吾を見ている。その目は、何かを探るような、深い視線だった。まるで、慎吾の心の奥底まで見透かそうとしているかのような、静かで、しかし鋭い眼差しだった。


「無茶をするな」


 桐生の声は低い。だが、その言葉には重みがある。


「分かっている」


「分かっていない」


 桐生の声が厳しくなった。慎吾は驚いて桐生を見る。桐生は腕を組んだまま、こちらを見下ろしている。その表情は、いつもの無表情ではない。眉がわずかに寄せられ、口元には苦みのような色が浮かんでいる。


「お前は、自分の命を軽く見すぎている。死ねば終わりだ。二度と、何もできない。誰も救えない。ただ、消えるだけだ」


 その言葉は、まるで刃物のように慎吾の胸に刺さった。


「生きろ。それが、お前の役目だ」


 桐生の言葉は重い。慎吾は何も答えられなかった。ただ、桐生を見上げることしかできない。


 陽菜が口を開く。


「私も、強くなりたいです」


 その声は、いつもより少しだけ強かった。慎吾と桐生が陽菜を見る。陽菜は椅子から立ち上がり、まっすぐにこちらを見ている。その目には、いつもの優しさだけでなく、確固たる意志が宿っていた。


「私の治療魔法では、足りなかった。柊さんを完全には治せなかった。もっと強くなれば、もっと多くの人を救える。誰も、死なせずに済む」


「陽菜…」


「柊さん、一緒に修行してください」


 陽菜の目は真剣だった。そこには、迷いがない。ただ、強くなりたいという純粋な意志だけがある。まるで、燃える炎のように、揺るぎない決意が込められている。


 慎吾は少しの間、陽菜を見ていた。この子は、本気だ。そして、頷く。


「分かった」


 陽菜が笑う。その笑顔は、いつもの明るさを取り戻していた。太陽のような、周囲を照らす笑顔だった。


 冴が口を開く。


「灯火の会も、協力する。物資の提供、訓練場所の確保、何でも言ってくれ」


 その声は冷静で、事務的だった。だが、その目は違う。慎吾を見る冴の目には、心配と、そして期待が混じっている。


「ありがとう」


 長谷川が頷く。


「俺も手伝う。何かあれば言え。飯でも、毛布でも、何でも持ってくる」


 その声は温かい。まるで、父親が息子を見守るような、優しい声だった。


 慎吾は皆を見渡す。桐生、冴、長谷川、陽菜。皆、こちらを見ている。その目には、信頼と、期待と、そして少しの不安が混じっている。だが、誰も、慎吾を否定していない。誰も、慎吾を止めようとしていない。ただ、支えようとしている。


 慎吾は、初めて気づいた。俺は、一人じゃない。こんなにも、多くの人が俺を支えてくれている。


 夜になり、皆が部屋を出ていった。慎吾は一人、ベッドに横たわっている。体はまだ痛むが、先ほどよりは楽になった。陽菜の治療魔法と、左腕の再生能力のおかげだ。明日には、もっと良くなるだろう。


 慎吾は窓の外を見る。夜空には星が瞬いている。無数の星が、まるで砂粒のように散らばっている。そして、遠くには、SS級魔物の影が見えた。動かない。だが、その存在感は圧倒的だ。まるで、世界そのものが魔物を中心に回っているような、そんな錯覚を覚える。巨大な、黒い、沈黙の塊だった。


 慎吾は拳を握る。次は、負けない。必ず、倒す。


 左腕が疼いた。まるで、慎吾の決意に応えるかのように、紋様が微かに光る。


 慎吾は目を閉じる。明日から、修行を始める。陽菜と一緒に。そして、次にSS級魔物が動き出すまでに、完全に力を制御する。暴走せず、意識を保ったまま、左腕の全ての力を使えるようになる。


 それができれば、勝てる。


 そう信じて、慎吾は眠りに落ちた。


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