表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
2章-孤立と殺戮

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/24

第21話「絶望的な力の差」

 SS級魔物の咆哮が、街を揺らした。地面が波打つように震え、ビルの窓ガラスが一斉に砕け散る。音が空気を裂き、耳を劈く。それは声というより、世界そのものを破壊する音の暴力だった。慎吾は左腕を前に突き出し、黒い炎を解放する。炎が渦を巻いて広がり、夜の闇を焼く。陽菜が杖を構え、防御魔法の光が二人を包み込む。


 戦いが、始まった。


 慎吾は地を蹴り、SS級魔物へ突進する。左腕の黒い炎が槍のように伸び、魔物の巨体を貫こうとする。だが、炎は魔物の鱗に触れた瞬間、まるで水に触れた火のように消えた。弾かれる。いや、拒絶される。慎吾の全力の一撃が、まるで子供の悪戯のように無視された。


「効かない…」


 慎吾が呟く。左腕が疼く。もっと力を、もっと炎を、という声が内側から湧き上がる。だが、それは無意味だった。SS級魔物は動かない。慎吾を見下ろし、まるで虫けらを眺めるように、ただそこに立っている。


 陽菜の支援魔法が慎吾を包む。体が軽くなり、筋力が増す。だが、それでも足りない。慎吾は再び黒い炎を放つ。今度は左腕だけでなく、全身から炎を噴き出させる。紋様が体全体を覆い、まるで自分自身が炎になったかのように熱が渦巻く。炎が魔物に殺到し、その巨体を包み込む。


 数秒間、炎が魔物を覆い尽くした。慎吾は息を止め、結果を待つ。


 だが、炎が消えたとき、SS級魔物はそこに立っていた。傷一つない。鱗は光を反射し、まるで鏡のように滑らかなままだった。


「嘘だろ…」


 陽菜が呟く。その声は震えている。恐怖と絶望が混じり合った、小さな声だった。


 SS級魔物が動いた。尻尾が一本、鞭のように振られる。それは緩慢な動きに見えた。だが、その速度は錯覚だった。尻尾が空気を切り裂き、音速を超え、慎吾に迫る。


 慎吾は横に飛ぶ。だが、間に合わなかった。尻尾が慎吾の脇腹を掠める。掠めただけだ。それなのに、慎吾の体は吹き飛んだ。まるで砲弾に撃たれたかのように、体が宙を舞う。視界が回転し、地面が、空が、ビルが、すべてが混ざり合う。


 背中がビルの壁に激突した。骨が軋む音がする。肋骨が何本か折れたのが分かる。激痛が体を駆け巡り、呼吸ができない。口から血が溢れ出す。


 陽菜が叫ぶ声が聞こえる。だが、言葉は理解できない。耳鳴りがして、世界が遠い。


 慎吾は壁から滑り落ち、地面に倒れる。体が動かない。腕が、脚が、まるで他人のもののように感覚がない。


 左腕が再生を始める。黒い紋様が光り、折れた骨が元に戻る。痛みが和らぎ、呼吸ができるようになる。だが、完全には治らない。体のあちこちが悲鳴を上げている。


 慎吾は立ち上がる。膝が震える。視界が霞む。それでも、立つ。戦わなければならない。ここで倒れれば、避難民が死ぬ。陽菜が死ぬ。長谷川が、桐生が、冴が、皆が死ぬ。


 SS級魔物が再び動く。今度は前脚を振り上げ、地面を叩く。衝撃波が広がり、地面が割れる。アスファルトが砕け、破片が宙を舞う。陽菜が防御魔法を展開するが、衝撃波は魔法の壁を貫通し、陽菜を吹き飛ばす。


「陽菜!」


 慎吾が叫ぶ。陽菜は地面に叩きつけられ、動かない。慎吾は駆け出す。足が縺れ、転びそうになる。だが、走り続ける。陽菜の元へ辿り着き、体を抱き起こす。


「陽菜、目を開けろ」


 陽菜の目がゆっくりと開く。血が口から流れている。


「柊さん…」


「喋るな。治療魔法を使え」


「でも…」


「いいから使え!」


 陽菜が杖を握り、自分に治療魔法をかける。光が体を包み、傷が少しずつ塞がっていく。だが、完全には治らない。陽菜の魔力が足りない。


 慎吾は陽菜を抱えて立ち上がる。SS級魔物がこちらを見ている。まだ、本気を出していない。遊んでいるのだ。この圧倒的な力の差を見せつけるために、わざとゆっくりと攻撃している。


 慎吾は歯を食いしばる。避難民はまだ逃げ切れていない。時間を稼がなければならない。たとえ勝てなくても、たとえ死んでも、時間を稼ぐ。それが、今の俺にできることだ。


「陽菜、避難所に戻れ」


「嫌です」


「お前じゃ無理だ」


「それでも、一緒に戦います」


 陽菜が杖を構える。その手は震えている。顔は青ざめ、汗が流れている。だが、目は諦めていない。


 慎吾は陽菜を見る。この子は、強い。力ではなく、心が強い。


「分かった。だが、無理するな」


「はい」


 二人は再びSS級魔物に向き合う。魔物は動かない。ただ、見下ろしている。


 慎吾は左腕の力を限界まで解放する。紋様が全身を覆い、黒い炎が溢れ出す。視界が歪む。意識が遠のきかける。暴走の兆候だ。だが、構わない。今は、この力が必要だ。


 陽菜が支援魔法を連続で放つ。光が慎吾を包み、体が強化される。筋力が増し、速度が上がる。だが、それでも足りない。


 慎吾は地を蹴り、再びSS級魔物に突撃する。左腕を振りかぶり、全力で殴りかかる。黒い炎が拳を包み、空気が爆発する。拳が魔物の脚に叩き込まれる。


 だが、魔物は動かない。慎吾の拳は、まるで岩に叩きつけられたかのように、ただ跳ね返された。手首が砕ける。骨が飛び出し、血が噴き出す。


 痛みが体を貫く。慎吾は叫び声を上げる。だが、その声は咆哮に掻き消される。SS級魔物が再び咆哮し、慎吾を吹き飛ばす。


 体が地面を転がる。何度も何度も地面に叩きつけられ、ようやく止まる。視界が真っ赤だ。血で染まっている。左腕が再生を始めるが、追いつかない。傷が多すぎる。


 慎吾は立ち上がろうとする。だが、立てない。脚が折れている。両脚とも、骨が変な方向に曲がっている。


 陽菜が駆け寄る。治療魔法をかける。だが、効果が薄い。魔力が尽きかけている。


「柊さん、もう…」


「まだだ」


 慎吾は地面に手をつき、這いながら前に進む。立てないなら、這ってでも進む。SS級魔物まで辿り着き、何かをする。何でもいい。とにかく、時間を稼ぐ。


 だが、その時、銃声が響いた。乾いた音が夜の空気を裂き、慎吾の耳に届く。顔を上げると、ビルの屋上に桐生の姿が見えた。ライフルを構え、SS級魔物を狙撃している。弾丸が魔物の鱗に当たり、火花を散らす。まるで花火のように、一瞬だけ光が弾ける。だが、それだけだ。傷一つつかない。鱗は弾丸を弾き、何事もなかったかのように光を反射し続けている。


「柊!もういい!避難は完了した!逃げろ!」


 桐生の声が響く。その声は、いつもの冷静さを失っていた。まるで娘を呼ぶ父親のように、必死で、切迫していて、慎吾の名を叫んでいる。


 慎吾は周囲を見渡す。視界が霞んでいるが、それでも見える。冴が避難民たちを連れて走っている。長谷川の姿も見える。皆、遠くへ逃げている。無事だ。誰も、死んでいない。


 避難は、完了した。俺の役目は、終わった。


 ならば、もう戦う必要はない。これ以上、この化け物と向き合う理由はない。


 慎吾は地面に倒れ込む。力が抜ける。まるで糸の切れた人形のように、体が崩れ落ちる。脚が折れているから立てない。腕も、動かない。呼吸をするたびに胸が痛む。肋骨が肺を刺しているのかもしれない。血が口から溢れ出し、地面を濡らす。


 陽菜が駆け寄り、慎吾の体を抱き起こす。その腕は細く、震えている。陽菜も限界だ。魔力を使い果たし、体力も尽きかけている。それでも、慎吾を支えようとする。


「柊さん、行きましょう」


 陽菜の声は優しい。まるで、子供をあやすような、柔らかな声だった。


 慎吾は陽菜に支えられて立ち上がる。脚が動かないから、陽菜の肩に寄りかかり、引きずられるようにして後退する。一歩、また一歩と、ゆっくりとSS級魔物から離れていく。魔物は追ってこない。ただ、そこに立ち、二人を見下ろしている。まるで、去っていく虫けらを眺めるかのように、無関心な視線で。


 そして、突然、魔物が動きを止めた。いや、止めたというより、興味を失ったという方が正しい。魔物は振り返り、広場の方へ歩き出す。その歩みはゆっくりとしていて、まるで散歩をするかのように、悠然としている。地面が揺れる。ビルが軋む。だが、魔物は気にしない。ただ、歩く。そして、亀裂の前で止まり、動かなくなった。まるで、元の場所に戻ったかのように。


 静寂が訪れた。戦いの音が消え、風の音だけが聞こえる。慎吾は陽菜に支えられながら、その光景を見ていた。SS級魔物は、もう動かない。戦いは、終わった。


 だが、終わったのは戦いだけだ。脅威は去っていない。魔物は、まだそこにいる。


 慎吾は意識が遠のいていくのを感じた。視界が暗くなり、音が遠ざかる。陽菜の声が聞こえる。だが、言葉は理解できない。


「まだ…終わらない…」


 慎吾は呟く。その声は小さく、風に溶けて消えた。そして、闇が視界を覆った。体が重力を失い、まるで水の中に沈んでいくような感覚に包まれる。


 桐生が駆け寄り、慎吾の体を抱え上げる。陽菜も力尽き、その場に膝をつく。二人とも、もう動けない。限界を超えて戦い、体は悲鳴を上げ続けていた。


 冴が戻ってくる。避難民を安全な場所に送り届け、すぐに引き返してきたのだ。冴は状況を一瞬で把握し、指示を出す。「二人を避難所へ運べ。医療班を呼べ」その声は冷静で、的確で、まるで機械のように感情を排していた。だが、その目は違う。慎吾と陽菜を見る目には、心配と、安堵と、そして深い疲労が滲んでいる。


 長谷川が毛布を持って駆けつける。慎吾と陽菜の体を包み込む。毛布は温かく、まるで母の腕のように優しい。


 夜空には、星が見えた。無数の星が瞬いている。まるで、何も起きていないかのような、平和な夜空だった。だが、その下には、破壊された街がある。崩れたビル、砕けた道路、血に染まった地面。そして、亀裂の前に立つ、巨大な魔物の影。


 慎吾は眠りの中で、拳を握りしめた。意識はないが、体は覚えている。まだ、何も終わっていない。この戦いは、始まったばかりだ。

読んで下さりありがとうございました!

★★★★★評価と[[[ブックマーク]]]、リアクションお願いします!

Youtubeにて作品公開中!

http://www.youtube.com/@mizukara-h2z

ご感想やご質問など、ぜひコメントでお聞かせください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ