第19話「迫る危機」
翌朝、グリーンゾーンは混乱していた。
政府が避難を呼びかけていて、街中にスピーカーから放送が流れている。
「グリーンゾーン東部の住民は、直ちに避難してください。繰り返します。グリーンゾーン東部の住民は…」
人々が荷物を持って、避難所へ向かっている。子供を抱えた母親、老人を支える若者、皆、不安そうな顔をしている。
俺はアパートの窓から、その光景を見ていた。
混乱。恐怖。パニック。
まるで二年前の、あの日のようだ。
左腕が呟く。
「ああ」
俺は武器を手に取った。リュックに食料を詰める。
部屋を出る。
階段を下りると、長谷川が立っていた。荷物を持っている。
「柊くん、お前も避難するのか」
「いえ」
「そうか。気をつけろよ」
長谷川が笑顔を見せる。だが、その笑顔には不安がある。
「長谷川さんも、気をつけて」
「ああ」
長谷川が去っていく。
俺も、街へ出た。
街は混乱していた。人々が右往左往していて、車が渋滞している。子供が泣いている。
俺は人混みを抜けて、避難誘導が行われている場所へ向かった。
そこでは、桐生が避難誘導をしていた。
「落ち着いて!順番に避難してください!」
桐生が叫んでいる。だが、人々はパニックになっていて、言うことを聞かない。
桐生が俺を見つけた。
「柊!手伝ってくれ!」
俺は頷いた。
桐生の隣に立つ。
「皆、落ち着いてください」
俺が言う。
人々が俺を見る。魔法使いだと分かると、少し落ち着く。
「順番に避難してください。避難所は安全です」
人々が列を作り始める。
桐生が俺を見て、頷いた。
避難誘導を続けていると、冴が現れた。
「柊さん」
冴が声をかけてくる。
「灯火の会も避難誘導をしています。協力していただけますか」
俺は少し迷った。
だが、頷いた。
「分かった」
冴が少し驚いた顔をする。だが、すぐに笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
俺は冴と共に、灯火の会の避難誘導を手伝うことになった。
灯火の会の拠点では、陽菜や他のメンバーが避難民を誘導していた。
陽菜が俺を見て、目を丸くする。
「柊さん!」
「手伝う」
俺は短く言った。
陽菜が嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます!」
俺と陽菜は、避難民を連れて、避難所へ向かうことになった。
数十人の避難民が、俺たちについてくる。子供、老人、若者。様々な人々だ。
街を歩く。避難所は、街の西部にある。
道中、陽菜が話しかけてきた。
「柊さん、手伝ってくれて、ありがとうございます」
「…」
「どうして、手伝ってくれたんですか」
俺は少し考えた。
「…分からない。ただ、見捨てられなかった」
陽菜が微笑む。
「優しいんですね」
「違う」
俺は否定した。
だが、陽菜は笑顔のままだ。
そのとき、前方で悲鳴が聞こえた。
俺と陽菜は走った。
角を曲がると、魔物がいた。
B級魔物で、熊のような姿をしている。避難民を襲おうとしている。
俺は火炎魔法を使った。炎が魔物を包む。魔物が咆哮する。
陽菜も支援魔法を使う。光の矢が魔物に当たる。
魔物が俺たちに向かってくる。俺は左腕の力を使った。黒い炎が魔物を焼く。魔物が倒れる。
戦闘が終わった。
避難民が安堵の表情を浮かべる。
「大丈夫ですか」
陽菜が避難民に声をかける。
「はい…ありがとうございます」
避難民が答える。
俺たちは再び歩き始めた。
避難所まで、まだ距離がある。
道中、陽菜が口を開いた。
「柊さん、私、強くなりたいんです」
俺は陽菜を見た。
「なぜ」
「守りたい人がいるから」
陽菜が真剣な顔で言う。
「私、弟を守れなかったんです。二年前、魔物が出現した日に」
陽菜が続ける。
「弟が転んで、魔物が追ってきて、私は…逃げました」
陽菜の声が震える。
「弟を置いて、逃げたんです」
俺は何も言えなかった。
「だから、強くなりたい。もう、誰も失いたくない」
陽菜が俺を見る。
「柊さんも、同じじゃないですか」
俺は答えなかった。
同じか。確かに、俺も誰かを失った。守れなかった。
だが、俺は…
「俺は、化け物だ」
俺は言った。
「守ろうとすると、暴走する。皆を殺す」
陽菜が首を横に振る。
「違います。あなたは、化け物なんかじゃない」
「お前には分からない」
「分かります。だって、あなたは今、避難民を守っているじゃないですか」
俺は何も言えなかった。
陽菜が続ける。
「一緒に、戦いましょう。一緒に、皆を守りましょう」
俺は陽菜を見た。
その目には、決意がある。恐怖もある。だが、それでも前を向こうとしている。
「…考える」
俺は答えた。
陽菜が笑顔を見せる。
「それで十分です」
避難所に到着すると、夕方だった。
避難民を避難所に入れる。人々が安堵の表情を浮かべる。
俺と陽菜は、避難所の外に出た。
空が赤く染まっている。夕日が沈んでいく。
陽菜が空を見上げる。
「綺麗ですね」
俺は何も答えなかった。
そのとき、遠くで大きな音が聞こえた。
地面が揺れる。
俺と陽菜は、音の方向を見た。
北の方角だ。亀裂がある場所だ。
そして、光が見えた。
巨大な光が、空に向かって放たれている。まるで柱のように、光が天に届いている。
左腕が叫ぶ。
俺は走り出した。陽菜も続く。
街を抜けて、北へ向かう。
やがて、広場に到着した。
亀裂が、開いていた。
いや、開いたというより、裂けた。亀裂がさらに大きくなって、その中から何かが出てこようとしている。
光が溢れ出している。空気が震えている。地面が揺れている。まるで世界そのものが悲鳴を上げているかのようだ。
そして、亀裂から、「それ」が出てきた。
巨大な影。
体長30メートル以上ある。竜のような姿だが、もっと禍々しい。黒い鱗に覆われていて、赤い目が六つある。翼が六枚ある。尻尾が三本ある。牙が鋭く、爪が長い。
圧倒的な存在感。
空気が重い。呼吸が苦しい。足が震える。
これは、SS級魔物だ。
今まで見た中で、最強の魔物だ。
陽菜が息を呑む。
俺も、声が出ない。
SS級魔物が咆哮する。
地面が揺れる。ビルが崩れる。
そして、SS級魔物が、こちらを見た。
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