第15話「魔物討伐の日常」
朝、俺はレッドゾーンへ向かった。
夜明け前の街を、一人で歩く。空はまだ暗くて、星が見える。冷たい風が吹いて、頬に当たる。
武器を持って、リュックに食料を詰めて、俺は廃墟の街を進む。崩壊したビルの間を抜けて、錆びた車を避けながら、レッドゾーンの深部へと向かう。
魔物の気配を探す。左腕が周囲の魔力を感知して、俺に教えてくれる。
『北に三つ。C級だ』
「分かった」
俺は北へ向かった。
やがて、魔物が見えてきた。
犬型のC級魔物が三匹いる。死体を漁っている。何の死体かは分からない。人間か、動物か。もう、どちらでもいい。
俺は魔物に近づいた。足音を消して、慎重に。
魔物の一匹が俺に気づいた。鼻を鳴らして、こちらを向く。赤い目が俺を見る。
俺は手を前に出した。
火炎魔法を発動する。
魔法の原理は、物理法則の書き換えだ。この世界には、物理法則が存在する。重力、慣性、熱力学、電磁気学。全てが法則に従っている。だが、魔法使いは、その法則を局所的に書き換えることができる。
火炎魔法の場合、俺は空気中の酸素濃度を局所的に上昇させる。通常、空気中の酸素濃度は約21パーセントだ。だが、俺はそれを50パーセント、いや、それ以上に上げる。同時に、温度を上昇させる。摂氏数百度まで。すると、発火点に達する。炎が生まれる。
炎は、魔力で制御されている。俺の意志に従って、特定の方向へ放たれる。今回は、魔物に向かって。
炎が魔物を包んだ。魔物が燃える。毛皮が焼ける。肉が焼ける。魔物が咆哮する。だが、すぐに沈黙する。灰になって、地面に崩れ落ちる。
残りの二匹も、同じように倒した。三匹とも、灰になった。
俺は灰を見た。何も感じない。怒りも、悲しみも、達成感も、何もない。ただ、虚無だけがある。
俺は歩き続けた。
レッドゾーンを進む。次の魔物を探す。
午前中だけで、俺は十匹以上の魔物を倒した。C級が大半で、B級が二匹いた。B級は少し手こずったが、左腕の力を使って倒した。
黒い炎。通常の火炎魔法とは違う。左腕の力で生み出される炎は、より強力で、より制御が難しい。だが、俺と左腕は二年間、共に戦ってきた。今では、ある程度の制御ができる。
『疲れたか』
左腕が呟く。
「いや」
『嘘をつくな。魔力を使いすぎだ』
「大丈夫だ」
『無理するな』
俺は答えなかった。
午後、俺は廃墟となったコンビニで休憩した。
棚は空っぽで、商品は何もない。だが、屋根があって、風を避けられる。
俺は床に座って、リュックから缶詰を取り出した。蓋を開けて、スプーンで食べる。味はしない。ただ、栄養を摂取するために食べているだけだ。
食事を終えて、俺は窓の外を見た。
曇っている。空が灰色で、今にも雨が降りそうだ。
俺は立ち上がって、再び歩き始めた。
魔物を探して、倒して、また探す。それだけの日々だ。
夕方近くになったとき、俺は他の魔法使いと遭遇した。
若い男性で、20代半ばくらいだろうか。剣を持っていて、魔物と戦っている。
俺は立ち止まった。
男性が魔物を倒す。C級の魔物だ。剣で斬って、魔法で焼く。魔物が倒れる。
男性が俺に気づいた。
俺を見る。一瞬、驚いた顔をする。だが、すぐに表情を変えて、俺から視線を逸らす。
そして、男性は去っていった。俺を避けるように、急いで去る。
俺は、ただそこに立っていた。
当然だ。俺は、化け物だ。他の魔法使いたちも、俺を避ける。
俺は歩き始めた。
夕方、俺はグリーンゾーンに戻った。
検問所を通過して、街に入る。人々が歩いている。店が開いている。平和な光景だ。
だが、俺には関係ない。
俺はアパートに向かった。部屋に入って、武器を置く。
窓の外を見る。夕日が沈んでいく。
俺は簡素な食事をした。缶詰と水。それだけだ。
食事を終えて、俺は窓の外を見た。
夜が来た。星が見える。
左腕が呟く。
「全部だ。魔物も、この世界も、俺自身も」
左腕は何も言わなかった。
俺は窓の外を見続けた。
また、同じ日が来る。魔物を倒して、食事をして、眠って、また朝が来る。
終わらない日常。
俺は、何のために生きているのか。
分からない。
ただ、生きている。
それだけだ。
窓の外で、星が瞬いている。
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