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終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)


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第14話「グリーンゾーンの日常」

翌日、俺は配給所に向かった。


グリーンゾーンの中心部にある広場に、配給所が設置されている。毎週決まった曜日に、政府から食料が配給される。缶詰、水、パン、時々は野菜や肉も配られる。


配給所には、既に長い列ができていた。数十人の人々が、順番を待っている。老人、子供を連れた親、若者、様々な人々がいる。皆、疲れた顔をしているが、それでも生きている。


俺は列の最後尾に並んだ。


すると、周囲の人々が俺を避けた。まるで病原菌を避けるように、じわりと距離を取る。俺の前後には、誰も並ばない。まるで俺の周りだけ、空間が空いているかのようだ。


小声で話す声が聞こえる。


「あれが…」


「第七班の…」


「近づかない方がいい」


「化け物だって聞いた」


噂話。俺についての噂話だ。だが、俺は気にしなかった。当然だ。俺は、化け物だ。美咲を焼いた化け物だ。人々が避けるのは、正しい判断だ。


列が進む。ゆっくりと、だが確実に進んでいく。太陽が高く昇って、暑くなってきた。汗が流れる。


やがて、俺の番が来た。


配給所の職員が俺を見た。若い男性で、少し顔を強張らせたが、すぐに笑顔を作った。作り物の笑顔だ。陽菜の笑顔に似ている。


「お疲れ様です」


職員が言う。


「いつもありがとうございます。魔物と戦ってくださって」


職員が俺に食料を渡す。缶詰が五個、水のペットボトルが三本、パンが二個。一週間分だ。


「ありがとうございます」


俺は短く礼を言って、食料を受け取った。リュックに詰める。


配給所を出ようとしたとき、誰かが声をかけてきた。


「柊くん」


俺は振り返った。


老人が立っていた。60代くらいだろうか。優しい顔をしていて、笑顔を見せている。白髪で、少し腰が曲がっているが、目は優しい。


「俺は長谷川。君のアパートの大家だよ」


長谷川が言う。


俺は頷いた。確かに、家賃は長谷川に払っている。だが、直接会うのは初めてだ。


「これ、良かったら」


長谷川が俺におにぎりを差し出した。ラップに包まれたおにぎりが二個ある。


「自分で作ったんだ。温かいうちに食べてね」


俺は戸惑った。なぜ、この老人は俺に優しくするのか。俺は化け物だ。避けるべき存在だ。


だが、長谷川の目には、恐怖がない。ただ、優しさだけがある。


「…ありがとうございます」


俺はおにぎりを受け取った。温かい。手のひらに、温もりが伝わってくる。


「無理するなよ」


長谷川が言う。


「一人で抱え込むな。頼ってもいいんだよ」


俺は何も答えられなかった。


長谷川は笑顔のまま、去っていった。


俺はおにぎりを持って、アパートに向かった。


部屋に戻って、テーブルにおにぎりを置く。まだ温かい。湯気が少し出ている。


俺はおにぎりを一つ手に取った。ラップを外す。中には梅干しが入っている。


一口食べた。


美味しい。


久しぶりに、味がする。缶詰ばかり食べていた俺には、この味が、まるで別世界のもののように感じられた。


俺は二個目も食べた。美味しい。温かい。


食べ終わって、俺は窓の外を見た。


涙が出そうになった。


だが、俺は涙を流さなかった。泣く資格はない。俺は、化け物だ。


午後、俺は街を歩いていた。


グリーンゾーンの街は、まるで魔物が出現する前の世界のようだ。店が開いていて、人々が買い物をしていて、子供たちが遊んでいる。だが、それは幻想だ。この平和は、いつ崩れるか分からない。


俺が歩くと、人々が道を開ける。まるで俺が見えない壁を纏っているかのように、誰も近づかない。子供たちは親に手を引かれて、俺から遠ざかる。


俺は気にせず、歩き続けた。


そのとき、ボールが転がってきた。


サッカーボールだ。俺の足元で止まる。


俺はボールを拾った。


子供が走ってくる。小さな男の子で、五歳くらいだろうか。


「ボール…」


子供が俺を見上げる。だが、すぐに母親が駆けつけた。


「近づかないで!」


母親が叫ぶ。子供を抱きしめて、俺からボールを奪い取る。


「近づかないで!」


母親が再び叫ぶ。恐怖に満ちた声だ。


母親は子供を抱えて、走り去った。


俺は、ただそこに立っていた。


周囲の人々が俺を見ている。恐怖、嫌悪、憐憫。様々な感情が、俺に向けられている。


俺は歩き始めた。


「…当然だ」


俺は呟いた。


「俺は、化け物だ」


夕方、俺は橋の上にいた。


グリーンゾーンの端にある橋で、下には川が流れている。昨日、桐生と話した橋だ。


俺は欄干に寄りかかって、川を見ていた。夕日が川面に反射していて、オレンジ色に輝いている。


「これが正しいんだ」


俺は呟いた。


「俺は、一人でいるべきだ」


「また、誰かを失いたくない」


左腕が呟く。


「寂しくないのか」


俺は左腕を見た。


「慣れた」


「…そうか」


左腕は何も言わなくなった。


俺は川を見続けた。夕日が沈んでいく。空がオレンジから赤へ、そして紫へと変わっていく。やがて、星が見え始める。


俺は橋を去った。


アパートに戻る。部屋に入って、ベッドに横になる。


天井を見る。


長谷川の優しさ。桐生の言葉。陽菜の笑顔。


俺の周りに、人々が現れている。


だが、俺は関わらない。関われない。


また、失うのが怖い。


俺は目を閉じた。


明日も、同じ日が来る。

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