表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/16

第13話「監視者の視線」

その日、俺は誰かに尾行されていることに気づいた。


レッドゾーンで魔物を狩っているとき、視線を感じた。誰かが見ている。遠くから、俺を観察している。


俺は周囲を見回したが、誰もいない。だが、確かに視線がある。


左腕が呟く。


「ああ。だが、敵意はない」


「監視か」


「おそらくな」


俺は気にせず、魔物狩りを続けた。監視されているなら、それでいい。俺は何も隠していない。


戦闘を終えて、俺はグリーンゾーンに戻った。検問所を通過して、街に入る。


視線は、まだある。グリーンゾーンでも、誰かが俺を見ている。


俺はアパートに向かった。途中、配給所に寄って食料を受け取り、それからアパートに戻る。


部屋に入って、窓から外を見た。


遠くに、男が立っている。50代くらいだろうか。がっしりとした体格で、鋭い目をしている。元刑事か、元自衛隊か。そんな雰囲気がある。


男は俺を見ていた。視線が合う。だが、男は逃げない。ただ、そこに立っている。


俺は窓を閉めた。


左腕が呟く。


「政府の人間だろう」


「分かってる」


「どうする」


「放っておく」


俺は気にしなかった。監視されているなら、それでいい。俺に隠すことは何もない。


一方、男――桐生要は、慎吾のアパートから離れて、近くのカフェに入った。


カフェは小さな店で、客は数人しかいない。桐生はコーヒーを注文して、窓際の席に座った。


桐生は手帳を取り出して、メモを書き始めた。


「柊慎吾。21歳。魔法使い。レッドゾーンで単独行動。戦闘能力は高い。左腕に特異な力を持つ。危険度…」


桐生はペンを止めた。危険度は、どう評価すべきか。


桐生は慎吾の戦闘を観察した。確かに、左腕の力は不気味だ。黒い炎。通常の火炎魔法とは違う。魔王の欠片の力だと報告されている。


だが、制御されている。暴走の兆候はない。慎吾は冷静に戦い、必要以上の力は使わない。


それに、慎吾の目を見た。あの目は、桐生が知っている目だ。


娘の目だ。


桐生には、娘がいた。いや、いたのだ。過去形だ。


娘は、魔物出現の日に死んだ。まだ15歳だった。学校にいるときに、魔物が襲ってきた。多くの生徒が死んだ。娘も、その一人だった。


桐生は警察官として現場に駆けつけたが、遅かった。娘は既に死んでいた。


妻は、娘の死を受け入れられなかった。悲しみに暮れて、やがて病気になった。そして、一年後に亡くなった。


桐生は、一人になった。


それから、桐生は魔物対策室に転属した。魔物と戦う者たちを支援する部署だ。だが、実際には監視でもある。魔法使いたちは強力な力を持っている。暴走すれば、危険だ。だから、監視が必要だ。


桐生の今の任務は、慎吾の監視だ。「第七班の生存者」として、慎吾は要注意人物に分類されている。過去に、何かがあったらしい。詳細は伏せられているが、慎吾が危険な存在である可能性があるとされている。


だが、桐生が見た慎吾は、危険というより、孤独だった。


あの目。痛みを隠している目。娘が死ぬ前に見せた目と、同じだ。


桐生は手帳を閉じた。


「もう少し、見守ろう」


桐生は呟いた。報告は、保留だ。


夕方、桐生は橋の上にいた。


グリーンゾーンの端にある橋で、下には川が流れている。魔物出現後も、川は変わらず流れている。


桐生は橋の欄干に寄りかかって、川を見ていた。


そのとき、足音が聞こえた。


桐生は振り返った。


慎吾が、そこに立っていた。


慎吾は桐生を見たが、何も言わない。ただ、橋の反対側に行って、川を見始めた。


桐生は少し考えてから、口を開いた。


「いい夕日だな」


慎吾は答えなかった。ただ、川を見ている。


桐生は続けた。


「俺は桐生。ただの調査員だ」


慎吾が少しだけ桐生を見た。


「知ってる」


慎吾が初めて口を開いた。


桐生は少し驚いた。


「尾行に気づいていたか」


「ああ」


「すまない。仕事でね」


慎吾は何も答えなかった。再び、川を見ている。


桐生も川を見た。夕日が川面に反射していて、オレンジ色に輝いている。まるで川が燃えているかのようだ。


沈黙が続いた。だが、不快な沈黙ではない。ただ、二人で夕日を見ている。


やがて、桐生が口を開いた。


「お前、いくつだ」


「21だ」


「若いな。俺の娘と、あまり変わらない」


慎吾が桐生を見た。


「娘がいたのか」


「いた。過去形だ。魔物に殺された」


慎吾は何も言わなかった。


桐生は続けた。


「娘は、死ぬ前、お前と同じ目をしていた」


「同じ目?」


「痛みを隠している目だ」


慎吾は黙った。


桐生は夕日を見た。


「無理するなよ。一人で抱え込むな」


慎吾は答えなかった。


桐生は橋を去ろうとした。だが、立ち去る前に、振り返った。


「また会おう」


慎吾は何も答えなかった。ただ、川を見ている。


桐生は橋を去った。


慎吾は一人、橋の上に残された。夕日が沈んでいく。空がオレンジから赤へ、そして紫へと変わっていく。


慎吾は左腕を見た。


左腕が呟く。


慎吾は答えなかった。


夜が来た。


慎吾は橋を去って、アパートに戻った。


部屋に入って、窓の外を見る。星が見える。


慎吾は、桐生の言葉を思い出していた。


「痛みを隠している目」


「無理するな」


慎吾は窓を閉めた。


そして、ベッドに横になった。


天井を見る。


桐生のような人間が、まだいるのか。優しさを持った人間が。


だが、慎吾には関係ない。俺は一人だ。これからも、一人で生きる。


慎吾は目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ