第9話 魔法の秘密
リサや村長たちの要望に応えるべく、勇者は魔法発動の仕組みを説明する事にした。
勇者が口を開いた。
「魔法は神から与えられた力です。それを「きょうかい」を通じて私が発動するのです」
「『教会』ですか?」
「『教会』でなく『協会』です。」
リサと村長は顔を見合わせて首を傾けていた。
どうやら、二人にはイメージ出来ないみたい。
勇者は二人にも分かる様に「異世界転生」の話しから始めた。
二人は真剣な表情で耳を傾けていた。
「私は前の世界でブラック企業に勤めていた。
激務とストレスにより道端で倒れ、そのまま死んでしまったんだ。
そして気が付いたら目の前に人がいた。その人から様々な能力やステータスを授かりこの世界に転生してきたんだ」
「その人は神様だったんですか?」
勇者は首を横に振った。
「その人から名刺を渡されて確認したら神様でなかったんだ」
受け取った名刺には、このように書かれていた。
――― 財団法人 異世界転生振興会
転生受付課 ハニエル・マーニャ ―――
リサの目が丸くなった。
「財団法人 異世界転生振興会って何ですか?教会の一部ですか?」
リサの世界は王族や貴族が支配している封建制度の世界だ。
そんな世界で日本でいう「官僚制度」は理解できないだろう。
「転生者を選定して、能力を与えて、他の世界に転生させる一切の業務を管理している組織がこの「財団法人 異世界転生振興会」略して振興会なんだ」
「わかったような…わからないような」
「教会の組織や冒険者ギルドの組織と同じと思ってもいいよ。
それで授かった魔法は神から与えられた力を『協会』を通じて発動するの。。
その『協会』というのが、『一般社団法人 魔法普及促進協会』略して魔法協会です」
「魔法協会?」
「魔法協会は魔法全般を扱っています。ちなみに僕は勇者だから
『一般社団法人 勇者普及促進協会』略して勇者協会にも登録してます」
「なにか一気に難しくなってきました」
「魔法協会や勇者協会が実務を管轄する組織で、それらを統括するのが振興会となる」
「さて、魔法を発動する時だけど、簡易魔法だと直ぐに発動できます。ほら」
勇者は指をこすると、ボッと指先から小さな炎が現れた。
「でも、初級魔法以上になると魔法協会へ『魔法発動使用許可』を申請する必要が出てくる。
申請が受理されると、神からの魔法の能力が僕に届いて、無事発動! となる」
リサは、首をかしげて困り顔をしていた。
理解できないか…。
しょうがない。
時間もまだあるからあの手を使おうか。
「リサさん、言葉じゃ説明できなから、実際見に行きましょう!僕の手をつないで!」
「えっ!見に行くって。どこへですか?」
「魔法協会ですよ!」
リサの目が輝いた。魔法教会…でなく、魔法協会を見に行くという事に!
リサは手を伸ばし、勇者の手を握った。
「通信接続!」
勇者が言葉を発した瞬間、勇者は白目になった。
同時にリサは目の前が真っ白に輝いて二人の体に包まれていくのを感じた。
意識が光の粒子となり高速で空間を駆け抜けていく。
その後、速度が遅くなり静かな世界となった。
ゆっくり目を開けると、目の前にシンプルな味気ない大きな建物が建っていた。
隣にいた勇者に招かれて建物の中に入っていく。
建物の中では多くの人が働いていた。教会の神父や神官の姿も見える。
壁には「不正魔法取り締まり強化月間」というポスターも貼ってあった。
奥のカウンターには多くの受付スタッフが並んでいる。
事務所の電話が鳴り、受け番号の呼び出しも聞こえてきた。
「リサさん。ここが魔法協会の事務所だよ。窓口番号の4番が魔法発動の申請書を提出する受付。そこ座っているのが『ミラ』さん。僕も初心者だから色々と助けてもらっているんだ」
「あれ、翔馬さん! 異世界生活はいかがですか?」
笑顔で声をかけてきたミラさんに勇者も笑顔で応える。
「楽しくやってますよ! 今日はこちらの女性を魔法について説明しようかと思い、来ました」
リサは笑顔であいさつした。
「リサです。魔法の発動の仕組みは、聞いた話とは違っていてびっくりしてます!」
「神官たちがどの様に説明しているか分からないけど、正しく広めて欲しいわ」
ミラさんは笑顔なのだが、目の奥が少しお怒りの様だ。
「リサさん、初級以上の魔法はこの窓口に魔法使用の申請書を提出して、許可が下りたら、魔法発動されるんだ」
リサはきょとんとした顔で口を開けたまま固まっていた。
「なんか…事務的ですね」
「僕も説明受けたときは驚いたね。市役所での手続きみたいで」
「ところで、魔法発動する時に白目になるのはどうしてですか?」
「ここへの通信が接続された時、白目になるんだ。
接続状態になったら、魂だけここに来れる。
リサさんも魂だけこの場所に来てますよ」
それを聞いたら、リサは不思議な感覚に襲われた。
試しに頬をつねったら…痛い。
痛みは魂の世界でもあるんだ。
一つ賢くなった。
「でもね、中級魔法以上を発動しようとすると、更に面倒になる」
「えっ、どのようにですか?」
「申請書だけでなく更に詳しい情報を説明する必要があるから、添付する資料も増えて直ぐには許可が下りないんだよ。だから受付の上司に直接説明して許可を貰うんだ。」
「結構面倒ですね」
カウンターの中から30歳位の爽やかな青年がその会話を聞いて話しかけてきた。
「魔法という強大な力を自由に使用するのは大変危険なんだ。だから我々の管理下において安全に発動しなければいけない。その為の仕組みなんだよ」
勇者は笑顔で声をかけた。
「ガルド主任! あの時は本当に助かりました。この世界のルール分からないから、いきなり馬鹿やってしまって!」
「あの時は翔馬さんが興味本位で特級魔法の申請を提出したから、協会中大騒ぎになって! その後、うちの課長に凄く怒られてましたけどね」
「いや、無知は怖いですね。リサさん、あの窓際にいる怖い顔のおじさんが課長なんだけど、
大人になっても、こんなに怒られるんだ!ってくらい怒鳴られてね。僕は課長苦手なんだよ」
リサは口に手を充てて、クスっと笑った。
「ところで勇者様、魔法を発動する時に詠唱をすると聞いたのですが、今までの説明を聞いたら詠唱ってどのような意味があるのですか?」
「詠唱って必要ないんだよ。発動が難しい魔法になると、ここの職員に色々と頼み込む必要があるんだよね。
その時の言葉が周りの人に詠唱として聞こえてるんじゃないかな。小声でつぶやくから聞き取りづらいと思うけどね」
「呪文じゃなかったんですね」
「今度よく聞いてみて。
『よろしくお願いしますよー』とか『他の件で埋め合わせしますから』
とか言っているから」
「なんか、魔法への夢が崩れていきます…」
「というのが、魔法発動の仕組みです。 さあ戻りましょうか!」
二人は、職員に頭を下げ出口へと向かった。
途中、神官とすれ違い、視線を彼に向けていた。リサが尋ねた。
「あの神官様や教会の神父たちは神の使いなんですよね?」
「あぁー、違うと思う。王国と神の橋渡しという事なら間違いないけど。
でも実際はこの魔術協会や上位組織の振興会との交渉や手続申請業務などを任された人たちだよ」
リサは教会、神官そして魔法について、今まで教えられた事と全く異なる事であるのを知って戸惑いを隠せなかった。だが、新しく知れた事実に好奇心的な楽しさも感じていた。
建物から出た時、勇者は立ち止まる。
そして、リサに真剣なまなざしで話を始めた。
「リサさんにも知っていて欲しい事がある。とても重要な事なんだ」
リサはその重要な事を聞き逃さないよう勇者の言葉に集中した。
「魔法の申請をする魔法協会はね…」
「はい」
リサは息を呑んだ。
その時、チャイムが鳴り、建物のシャッターがガラガラと下りていく。
「AM9:00~PM5:00の業務だから、基本的に時間外は受け付けてくれないんだ!」
リサは、無表情で勇者を見つめた。




