第68話 沈黙の山奥の村
山奥の村に近づくにつれ、状況は悪くなっている。
途中の橋も流されて、川一面が土砂やなぎ倒されて木で埋め尽くされていた。
しかも、動物の死骸も至る所に横たわっている。
やっとの思いで山奥の村に辿り着いたのだが、目の前に広がる光景は、つい先日訪れた村の光景とは全く異なっていた。
「うぁ、これはひどい」
思わずエルミアがつぶやいた。
村中の建物が土砂の被害により流されていたのだ。
そして多くの土砂・流木、多数の動物の死骸が、辺り一面を埋め尽くしていた。
「これは…。しかもなぜ多くの動物までもが巻き込まれているんだろう」
「災害が発生する前は、動物が一番に逃げると言われてますけどね」
僕たちは土砂や木々を乗り越えて村の中心部辺りまで移動した。
「確かこの辺りが先日泊まった宿屋だよね」
周りを見渡しても、宿屋があったという形跡はない。
唯一宿屋の側にあった井戸だけが残っていた。
その井戸を覗き込んでみても中には土砂で埋まってしまっていた。
ふと、井戸の石組みの真横に目がいった。
そこには何か小さく光るものが落ちていた。
それを拾い上げ表面についていた泥を払いよけた時、僕は心臓が止まる感覚を味わった。
僕の手のひらには、小さな桜の髪飾りがある。
エルミアがそれを見て涙を浮かべた。
僕はマジソンにその髪飾りを渡した。
「マジソン。この髪飾りは君に渡しておくよ」
マジソンは、きょとんとした表情で桜の髪飾りを受け取った。
「あっ、はい。わかりました」
僕はマジソンの表情に違和感を抱いた。
(あれっ、なんで無表情なんだろうか。きっとサクラさんが髪飾りをしていた事を気づいていなかったのか、もしくは現状を把握できなかったのだろうか)
どちらにしても、こんな状況は人生でも何度もない。どのような感情を持っていればいいのか僕さえ分からないものだ。
すると、エルミアが僕たちに話し始めた。
「この土砂崩れ現場何かおかしいです」
「おかしいとは?」
「異様に木々の量や動物の死骸が多いのです」
「確かに死骸は多いよね」
「通常ならばこの土砂の量だと木々は半分以下、動物の死骸などほぼ無いです」
「少し上流を見てみようか」
僕たちは、この土砂が流れてきた上流へ向かった。
その場所では、山の頂上から木々がなぎ倒されなくなっていた。
倒された木々は下を流れる川に落ち、川を堰止める天然のダムを作っていく。
そして先日の大雨で川の水量が一気に増えて天然のダムは崩壊して村へ流れ出した。
今回の災害が発生したメカニズムだろう。
僕は更に山の頂上へと向かってみた。
辺り一面赤黒い苔が生えている。しかも焦げ臭い。
地面では何か燃えたのであろうか焦げている砂が広い範囲で散らばっていた。
そして動物の足跡が点在している。
「なんだこれ? 雷が落ちて山火事にでもなったのか?」
「山火事にしては、燃えた跡が見当たりませんね」
エルミアはエルフ族であって、自然の異常を見分ける事が出来るのだろう。
「どちらかというと、動物たちが暴れていたような足跡にも見えます」
「このような事ってよくある事なの」
「いいえ、数百年生きている私でさえ、初めて見た光景です」
そうなんだ、複数の現象が偶然に同時に発生して、結果悲しい出来事になってしまったのだろうか。
「詳しい原因は、王国の調査団に任せるとして、あと私たちにできる事は何もないから、街に帰りましょうか」
僕たちが街に戻る足は重かった。
山奥の村へ向かうときは、小さいながらも希望を持ち進んでいたが、村の光景を目の当たりにしたら言葉も失ってしまう。
僕はつぶやいた。
「村の人達、きっとどこかで避難して無事だよね」
エルミアは答えた。
「えぇ、そう思います」




