第66話 長雨が降っている街
3日遅れで街に戻ったマジソンとも合流して、僕たちはいつものようにギルドで依頼を受けていた。商品不足以外は平和な地域らしく、依頼内容も『薬草の採取』、『荷馬車の警護』そのようなものばかりだ。
本当に、青の勇者君の才能の無駄使いをしている感じがする。
僕は彼に尋ねてみた。
「僕と一緒にいても学べるもの無いから、以前の様に国中を旅してみたらどうだい?」
「しばらくはこのままが良いです。少し気になる動きがこの街で起きているので」
「そうなんだ」
気になる事って『闇の組織』の事だろう。
毎日の様に、リサからその事で文句を言われている。
昨晩も宿屋の部屋で言われた。
「勇者様、エジマーズフォレト村で調合した薬の、この街での販売が開始されました!」
「おっ!ようやくですね。これであの村も発展していったらいいね」
「そうですね。でも一つ問題が発生したんですよ」
「問題?」
「村で調合した薬をこの街に運ぶ途中、山賊に遭遇して略奪されるんです」
「そんなに街道の治安は悪かったの?」
「その街道は私の組織の勢力圏の外なのです。しかも最近色んな地域で山賊が増えた気がするんです」
「また、青の勇者君に山賊退治でもお願いしてみたら?」
「それは、気が引けます」
「そうか」
「では、私の組織の全勢力で一気に街道沿いを清掃活動する事にします!」
「いやいや、ちょっと怖いよ。もう少し冷静に事を進めましょうよ」
「これが、冷静になれますか! 村の将来がかかっているんですよ。邪魔しないでください!」
「あっ、はい。ごめんなさい」
という具合に、文句を言われてしまう。
でも、リサって一体何者なんだろうか?
最初、出会った時は素朴な村娘だった気がするのだが、今では裏の組織を支配するリーダになっている。しかも昼間は医薬局製造所で薬の調合の仕事をしているし。
本当に謎だ。
さて、そんな平穏な日が続いているのだが、同じく長雨も続いている。
街の人に聞いてみると毎年この時期になると長雨になるそうだ。
日本で言えば梅雨の様な感じだ。
この世界の主要な産業は農産物だから、日照りが続くより長雨の方が良い。
ただ、農作業とは関係ない僕ら冒険者にとっては仕事が少なくなる時期らしい。
冒険者ギルドの依頼掲示板を見ても、以前の三分の一ぐらいに依頼件数が減っている。
近くに黒縁メガネ君がいたので尋ねてみた。
「ギルドの依頼掲示板に張り出される依頼は、長雨が終ると件数増えるのかな?」
「そうですね。長雨の影響が出ますので、それに対する依頼が発生しますよ」
「長雨の影響?」
「例えば、崩壊した水路やぬかるんだ道の補修とかですね」
「なるほど。上手く出来ているんだね」
今度は黒縁メガネ君の方から話しかけてきた。
「今年の長雨は降り方が激しいので、ひょっとすると山間部辺りで水害が発生しているかもしれません」
「水害ですか?」
「先日、翔馬さん達が訪れた山間部の村は、大雨時に水害が起こりやすい地域でもあります。
確か、20年位前にも水害が発生して村人の多くが犠牲になってました」
「確かにあの村は大雨の時は危なそうだね。今年の雨の降り方は酷いの?」
「そうですね。例年より少し多いかなという印象は持ちます」
「そうか。あの村は良い村だから何もなければいいよね」
「そうですね」
僕は黒縁メガネ君に挨拶をしてギルドを後にし、宿屋へ戻る事にした。
そんな感じが僕の最近の毎日の様子だ。
青の勇者とエルミアは、それぞれの剣や弓の能力を買われ、街の兵士に訓練指導を行っている。
リサは薬の事や裏組織の事など忙しいらしいが、僕から見ると何をしているか分からない。
マジソンは・‥、本当に何をしているか分からない。
そんな日が数日続いたある朝、僕は朝陽の眩しさで目が覚めた。
「うーん、やけに眩しいぞ。ん?雨が止んだのか?」
ベッドから飛び起きて窓に駆け寄った。外を見ると綺麗な青空が広がっている。
昨夜まで降っていた雨は止み、雨に濡れた街がキラキラと輝いていた。
「すごい綺麗だな! 晴れの日がこんなに綺麗だと今まで感じた事なかったよ!」
朝の爽やかさと雨上がりの輝きで、僕の心の中も澄みきっていた。
そんな静かな空間に、突然リサが息を切らして部屋の中に飛び込んできた。
「勇者様、大変です!」




