第65話 悪徳領主の計画
ここは、マーズフォレトの街にあるフォルファード侯爵の別荘。
庭では庭師が雑談をしながら花の手入れをしていた。
「侯爵様が、何か計画を立ている噂を聞いたか?」
「俺も聞いたぞ。物資を買い占め、職人を連れ去り山賊達とも繋がっているとか」
「そうそう、確か侯爵様は先代の国王様の一番の忠臣だったんだよね」
「国王の息子が王位継承の争いを始めて、第二王子が第一王子を追放して王位の座を勝ちとったんだよ」
「そうだったな。確か第一王子が正室の子で、第二王子が側室の子なんだよね。
それで貴族の間でも真っ二つに派閥が分かれてしまったと」
「あれは、酷かったよね。結局第一王子派の貴族は地方へ飛ばされ、第二王子派の貴族が力を持つけど汚職が酷くなって。俺たちの生活はどうなるんだか」
「でも、フォルファード侯爵は第一王子派なのに広い領地を統治しているよね」
「多分、派閥間で繋がりを保つためじゃない?完全に分かれてしまうと王国としても良くないし」
「マーズフォレトの街での品不足が更に問題になっているが、これも緊急事態措置として、統治権を握って何か行動を起こそうとしているんじゃないか?」
「そうなると、しばらく続いた平和の時代も終わりなのかな?」
屋敷の執務室ではそんな庭師の様子を椅子に座り眺めている人物がいた。
フォレト領を統治しているフォルファード侯爵だ。
彼は高級酒が注がれているグラスをカタカタと机に刻みながら苛立ちを隠せずにいた。
執務室のドアをノックする音がした。
「侯爵様、ご報告に参りました」
その者を部屋の中に入れ、彼の報告に耳を傾けていた。
「この街における物資の件ですが、十分に確保できていません」
「そうか、そのまま続けろ」
「承知しました」
「続きまして、街道の山賊の件ですが、彼らとの連絡を取り合って協力体制を確約致しました」
「おぉ、それはよかった。では作戦時には奴らも利用できるのだな」
「はい。可能でございます。ただ…」
「どうした。何か問題でもあるのか?」
「最近他の組織による妨害があり、山賊が連れ去られているとの事で…」
侯爵の顔がみるみる赤くなり椅子から立ち上った。
「バカヤロー!」
酒入りのグラスがその者の横をかすめた。
「今回の計画は、街道にいる山賊たちが重要なんだぞ。
その山賊を連れ去られるとか、今すぐにでも連れ戻せ!」
「承知しました」
「職人の方はどうなった」
「はい、街の職人を集めてただいま作業中でございます。こちらは順調です」
「そうか」
侯爵は再び椅子に腰を深くかけて、深く息を吐きだしながら天井を仰ぎ見た。
「国王陛下をお迎えして花見が開催されるまで、時間がない。それまでに何とか間に合わせないと」
静かにつぶやいたその表情は、あまりにも無謀な計画なのか、自信がなさそうにも見えた。
侯爵は思った。
先代の国王陛下は偉大な方だった。
それに比べて今の国王陛下には情けないことよ。
ワシは頭を下げているのは、国王の後ろにおられる先代の幻影に対して頭を下げているんだ。
この王国は正統な人物が統治しなければいけない。それは血脈ではない。
精神的な継承が非常に重要なのだ。それを守れるのはこの王国中を探してもこのワシ以外見当たらない。
それに国王の取り巻きも気に食わん。
俺たち一派を追い出して自分達ばかり甘い蜜を吸いやがって。
そう考えいくうちに、みるみる侯爵の顔が赤くなっていった。
そして立ち上がり、その者に伝えた。
「おい、ここからは慎重に行え。そして情報収集をさらに強化しろ」
「はい、承知しました」
その者は、一礼して部屋を後にした。
侯爵は窓の外を眺めながら拳を握りしめ、決意を表した。
―――既に歯車は回り始め、誰にも止められない。
もう引き返せない。
やるしかない。




