第64話 宿屋での食事の時間
宿屋の食堂で僕はリサと青の勇者の三人で夕食を待っていた。
奥の調理場からは宿屋の主人が作る美味しそうな料理の香りが漂ってきている。
僕はその香りを感じ、食事が出来上がるのを待ち遠しく思っていた。
「今日はビーフシチューの香りがするけど、ちゃんと肉入っているのかな?」
「どうですかね師匠。この街は商品不足で肉は贅沢品ですからね」
そんな会話をしている僕たちに、どこからか殺気がこもった視線が僕たちを射抜いていた。
その殺気を放っている方へ視線を向けると、鋭く睨みつけるリサが無言で睨んでいる。
「お二人は良いですね。自分達ばかり肉を食べてきて」
返す言葉もない。ギルドからの依頼の仕事と言って数日かけて行ったのは慰安旅行と同じだったからだ。
僕はリサをなだめる様に言葉をかけた。
「今度リサさんも一緒に行きましょう! 時には仕事を忘れてゆっくりするのも良いですよ!」
さらにリサの目が鋭くなった。
「そう簡単に、仕事が休めるとでも思っておられるのですか?」
これはまずい。怒りが収まるかと思ったら更にひどくなった。
僕たちは慌てふためいていた。だが、幸運にもそのタイミングで宿屋の主人が出来たての料理を運んできた。
「すまんね、遅くなって。さあ、ビーフシチューだ。腹いっぱいに召し上がれ」
なんと、目の前に出された「ビーフシチュー」には本物の牛肉が入っている。
リサは、熱気で湯気が立つビーフシチューから肉をスプーンですくい静かに口へ運んだ。
表情が一瞬にして花が咲いたように明るくなった。
本当に助かった。
宿屋の主人GJ!
僕は主人に笑顔で頷いたら、彼も微笑みを返してくれた。
「ところで、この街で肉は貴重品なんだけど、どこから調達してきたんだい?」
「これはね、以前から緊急用に食糧庫に乾燥保存していたんだ。今回はそれを使ったんだ。
最近、肉も気軽に手に入らなくなっただろう。でも肉料理を食べないと力が出ないから今日は奮発して使ってみた」
「それは、有難いです。遠慮なくいただきます」
僕たちは、ビーフシチューをスプーンで口に運んだ。
リサも笑みをこぼしながら美味しそうに味わっていた。
その様子を見ていた宿屋の主人は、僕たちに声をかけた。
「そう言えば、君たち先日は王都で国王に謁見したらしいね」
「はい、青の勇者とリサさんの二人です。僕は付き添いですけどね」
「そうか、でもあの国王はつまらない奴だよね」
青の勇者が返事した。
「同感だ」
その言葉を聞いて、僕は主人の顔を見た。
お前もか! なぜ、僕の周りには国王を嫌う人ばかり集まっているのだ。
これでは本当に、僕まで反逆罪で囚われてしまうのではないか!
主人が続けた。
「この商品不足にしても、街道の山賊出没にしても、国王は自分の事ばかりしか考えていない。
内政には全く興味がないから、結局しわ寄せを受けるのは俺たち庶民なんだよ」
とてもお怒りの様だ。
でも正論だ。庶民から見放された王家の行く末なんて転生前の世界でも同じ。
きっと、今の状況が続けばこの国も市民革命により王家は滅ぼされるのであろう。
青の勇者が主人を見て尋ねた。
「主人よ、お主のその体型、ただの宿屋の主人ではないな。
以前、兵士か冒険者をしていただろう」
主人がニコッと微笑んだ。
「まあ、そんなところだ。以前冒険者をやっていて一番困ったのが宿と食事だ。
だから、冒険者を引退してからはこの宿屋を経営して、他の冒険者たちの手助けをしようかと思っているんだ」
リサが目を輝かしながら聞いていた。
「そうだったんですね。確かにここの宿は安くて料理も多くて美味しい。だから他の宿泊客も冒険者っぽい人ばかりなんですね。主人さんとてもご立派です!」
「そうか、何か照れるな。 ところで、青の勇者さん、嫌な国王を退治する時は俺も呼んでくれ。手助けするぜ!」
「その時は頼むよ」
主人は笑いながら厨房へ戻って行った。
青の勇者もビーフシチューを食べながら僕につぶやいた。
「あの主人、元冒険者ではないですね。体の傷が少なすぎます。」
僕にはその疑問の意味が解らない。
「だったら、マジソン君はどうなんだ。ゆで卵の様にツルツルして傷一つもないよ」
青の勇者のスプーンが止まった。
「言われてみると…、そうですね」




