第62話 山奥の村と肉料理パーティ
僕たちは依頼の対象となる山奥の村へと向かい歩き続けていた。
あと2日程歩き続ければ、その村へ到着するであろう。
だが、少し気になる事があった。それは道中山賊が多いという事だ。
青の勇者は鋭い目付きで僕たちを守る様に、剣を抜き身構えている。
その視線の先には武器を構えた山賊が5人いる。
「師匠、また気絶させますか」
「うん、出来るだけ命は奪わないようにお願いね」
「わかりました。では!」
その掛け声とともに、僕たちの前から青の勇者が消えた。
正面で対峙している山賊の周りを青い風が吹き荒れる。
山賊の一人が、剣を振り回しながら叫んでいた。
「なんだ、この風は? 季節外れの嵐でも吹いているのか!?」
彼らの周りに吹き荒れる風に戸惑いを隠せないようだ。
もちろん、その風の正体は青の勇者。日頃の努力のおかげで新しい技を身につけたのだ。
山賊の周りを吹き荒れていた風が止むと、山賊達も安心した表情を見せていた。
「戦闘の最中に風が吹かれると調子狂ってしま……」
その言葉を言い終わらないうちに、その山賊は地面にうずくまってしまった。
その光景を見ていたマジソンは目を丸くして僕に尋ねた。
「一体何が起きているのですか?」
「あの風の正体は、高速移動をしている青の勇者君なんだ。」
エルミアは楽しそうな笑顔になった。
「青ちゃん、マジぱねー。いつの間にそんな技覚えたの?!」
僕は技の説明を始めた。
「山賊の周りを高速移動しながら、軽く剣の柄で腹を突いていくんだ。
1回の腹パンは軽いからダメージはほぼ無い。だけど何度も繰り返ししていくうちに、内臓がえらいことになってしまうんだ」
「えらいこと?」
「うん、気持ち悪くなって吐きそうになるの」
マジソンは顔を横に背け嫌がっていた。
「それは、辛そう。その新技受けたくないね」
「実は僕ね、何度も練習台になったんだよね。本当気持ち悪かった」
そう話をしているうちに、一人、また一人と山賊がうずくまっていく。
全員を無力化した後、青の勇者がエルミアに伝える。
「エルミア、全員確保した。信号弾をよろしく!」
「オッケー、ドーンと花火打ちあげちゃうからね!」
エルミアは空に向かって弓を構えると、ボソボソとつぶやきだした。
詠唱が終わると鋭い目で天空を見上げ光り輝く矢を放った。
放たれた矢は勢いよく舞い上がり黄金の航跡を描き天空へと消えていった。
空が静かになった瞬間はるか上空で大きな爆発が発生した。
ドーーーーン!
雲一つない青空を背景に、その黄色い爆発は大きな向日葵の様に空一杯に広がっていた。
「何度見ても、すごい迫力だな」
にんまりと笑顔を見せているエルミアは嬉しそうに答えた。
「でしょでしょ! ウチ、この技チョー好きなんだ!」
「爆発が向日葵だけど、秋になったら紅葉には出来ないの?」
くだらない事を僕は尋ねてしまった。
その質問に彼女は目を輝かす。
「マジいい! その紅葉、チョー可愛いんですけど! 今度、やってみよう」
マジソンは上空の大きな向日葵を見て僕に話しかけた。
「この合図でリサさん達の組織が、捕まえた山賊を回収に来るんですよね。
その後彼らたちはどうなるんですかね?」
僕も実はどうなるか知らない。リサさんの事だから穏便に処理しているんでしょう。
「どうなるんだろうね。ひょっとすると知らない方が良いかもしれないね」
「なにそれ、怖い!」
山賊により物流が滞っている可能性もある為、この様に山賊退治をしながら山村へと進んでいた。これで少しは街の商品不足も解消されればいいのだが。
2日後、ようやく目的の山村へとたどり着いた。
僕は村の様子を見て違和感を抱いた。
「なんか、平和じゃない?」
「確かに。イノシシの被害で苦しんでいる様にも見えませんね」
青の勇者も首をかしげていた。
とりあえず、宿屋へ向かう事にした。
宿屋に入って主人にイノシシの被害について聞いてみた。
「イノシシの被害? この辺りではそのような話は聞かないね」
何か話が違う。さらに主人から詳しく話を聞くが、この村は平和そのものだ。
「師匠、この村何かおかしくないですか?」
「うん、僕も思う」
「少し村の周りも見てきます。何か分るかもしれませんから」
「そうだね、みんなで手分けして調べよう」
全員が宿屋を後にして村の至る所を調べ始めた。
僕は、村の広場から村の外に流れる川の間を散策してみた。
広場では、子供たちが走り回り、ベンチでは老人が談笑している。
買い物かごを持ったご婦人はお店の前で井戸端会議をやっている。
商店の店先にも商品が豊富に並んでいた。
「どういう事なんだろうか。平和そのものじゃないか」
特に何かを見つける事が出来ずに、宿屋へと戻る事にした。
宿屋に戻ると他のメンバーも続々戻ってきた。
やはり、何も問題は無いらしい。
マジソンが首をかしげている。
「どうしましょうか。このままだと依頼達成できませんよ。」
「うーん。依頼内容と全く状況が違うから今日は泊って、明日街に戻ろうか。依頼は未達成でしょうがないよ」
「そうですね。戻りましょう」
僕の表情が笑顔になる。
「という事で、理由は分かりませんが依頼は中止します。
な・の・で、今夜はイノシシ肉パーティだ!」
皆の表情も笑顔になる。久しぶりの肉料理だ!
宿屋の食堂で、ありとあらゆる肉料理を注文し、若い女性店員に名物料理も紹介してもらった。
目の前に並べられた肉料理は、まさに圧巻だった。
僕たちは貪るようにその料理を食べる。
そして食べる、飲む、食べる。
途中で若い女性店員も加わりこの村の事の話を聞いたりして楽しい食事の時間を過ごしていた。
エルミアがその女性店員を見て言った。
「ねえ、あなたが付けている花の髪飾り、可愛くない!?」
「はい、これは先祖代々伝わる髪飾りなんです」
僕はその話を聞きながら肉料理を堪能していたが、ふと彼女の髪飾りを見て食事が止まった。
「その髪飾りの花はこの辺りでも見る事が出来るのですか?」
「いいえ、実在しない花だと思います。この髪飾りだけが代々伝わっています。」
「この世界では実在せず、昔からこの髪飾りにデザインされて今に伝わっている。
よろしければ、あなたのお名前お聞かせいただいても」
「いいですよ。私は『サクラ』といいます」
やっぱりだ。日本人は誰もが知る桜の花びらをデザインしている。
「お母さんのお名前は?」
「スミレです」
僕は納得した。
「そうなんだ。僕だけじゃないんだ」
みんなの顔がキョトンとしている。
「僕は転生人なのですが、転生前に住んでいた同じ国の人が昔、ここに転生していたみたいだね」
女性店員は口を開いた。
「私のご先祖様は、遠い世界からこの地に訪れたという話をお婆ちゃんから聞いたことあります」
「うん、きっと転生の事だ。あなたの名前も日本にある花から付けられている。間違えないと思うよ」
こんなところで同じ日本人の末裔と出会うなんて思わなかった。
その後も話が盛り上がり、楽しい食事の時間が続いていった。
マジソンは楽しそうに、その女性店員と話をし続けている。
こんな彼を見たの初めてだ。
ひょっとして恋?
僕は食べ過ぎて少し苦しくなった。
「ふぅー」
椅子の背もたれに深くもたれ、天井を眺めていた。
(マーズフォレトの街でもこんな風に沢山の食べ物が食べられたらな)
そう思っていたら、徐々に瞼が重くなり、ぼんやりとしてきた。
そして椅子に座ったまま眠りについていた。
まあ、食事中に寝てしまうのは行儀が悪いけど、たまにはいいかな。
僕は深い眠りへとついた。




