第56話 初めての王都
目の前に広がる建物群、そして大通りを行き交う人々。
そんな大都市の光景に僕は息を飲んだ。
「これが、王都か! 流石に王国の中心部だけあって賑やかな街だ」
「私もこんな大きい街初めてです」
リサも街の巨大さに口をポカンと開けたままでいる。
僕たちの反応とは反対に、青の勇者の表情は硬い。
「一見、煌びやかで賑やかに見えるけど、この街の本質は『欲』ですよ」
「……欲か」
青の勇者はこの街に何度も訪れている。
だから、この街の表の姿だけでなく裏の姿を知っている。
賑やかで平和に見えるこの街は、人々の欲でしか繋がっていない。
正義を信念とする彼にとっては、住みづらい場所なのだろう。
「この街、貧富の差が激しいと思いませんか?」
僕は青の勇者から言われてから気づいた。
「確かに、城門から宮殿まで続く大通り沿いは賑やかだ。
しかも商品不足になってるマーズフォレトの街とは違い、どの店先にも商品が並んでいるね」
青の勇者は遠く離れた丘を指差した。
「あの丘の周辺は貧民街と言われている場所です」
その場所に目をやると、大通り沿いとは違い、確かに建物が貧素だ。
「あの丘はまだ、ましな方です。
更にその先の城壁の向こう側は野宿している住民が多くいます。
この街は、住む場所すらない人々が多すぎます。」
僕は何とも言えない気持ちで城壁を見つめた。
「マーズフォレトの街では野宿をしている住人などいなかった」
「そうなんです。この王都を統治している人物、つまり国王は領民の暮らしなど見ていない」
リサの表情も悲しげになる。
「マーズフォレトのマルデリア伯爵は領民思いの方だと感じます。
王都と比べたら小さな街ですが、非常に住みやすく魅力的な街だと思います」
青の勇者はうなずく。
「私も同感です。それに加え、あの街には師匠やリサさんの様な素晴らしい人々が集まっているのです。
だからこそ、この王都の上辺だけの賑やかさは好きになれないです」
僕は彼の気持ちに感銘を受けた。
だが、一つ疑問に思う事がある。
僕は青の勇者に尋ねてみた。
「青の勇者君よ。何故、そんなに僕への評価が高いのか」
彼は青春真っただ中の中学生かと思うほどの澄んだ瞳で僕を見て答えた。
「師匠が強いからです。これは能力的でなく精神的にもです」
リサは驚いた表情をしている。
もちろん一番驚いているのはこの僕だ。精神的に強い……、真逆の様な気もするが。
更に続ける。
「先日の魔竜退治の時は、本当ならば師匠が最初から参戦して討伐すれば早かったのですが、
それは僕たちの為にはならないのです」
(何を言っているんだろうか?)
「僕たちが努力し、考え、魔竜を倒せるようにならなければ成長できません。
しかし、あの戦いでは僕たちの力を全て使い切ったのに勝つことは出来ませんでした。
だから、最後の最後で手を差し出して討伐の手伝いをしてくれたのですよね」
(あれっ? 何か勘違いしているかも)
「師匠の攻撃が僕の技の様に見せてくれたのも、僕が倒す事で皆への安心感を表すとともに、私に対しては、一から修行をやり直しなさいという意味だったんですよね」
リサはその言葉を信じたようで僕の事を眩しい瞳で見つめてくれている。
(どうしよう、本当にたまたま偶然だったのに。
その前に青の勇者の存在や、戦っていたなんて事すら知らなかったんだよ。
翌日、目を覚ましたら君が横にいて驚いたのが初対面なんだから。)
とりあえず、誤解を解くことから始めないと、後でややこしくなってくる。
「う、うん。そうだよ」
また、誤魔化してしまった!
リサが僕を見つめていたので、思わずカッコつけてしまった!
僕の返事に、青の勇者は笑顔で僕を見つめていた。
彼は、急に真剣な表情に戻る。
「師匠、気づきました?右後ろの、露天の前です」
「えっ?」
僕は探知魔法を使った。
「あの反応、初めてだ。気づかれない様見てみるよ」
ゆっくりと視線を後方へ向けた。




