第52話 勇者の力
青の勇者が新しく加わった、新生のんびり倶楽部の初依頼達成を祝い、今夜は宿屋で楽しい食事会になるはずだった。
外はまだ明るく、昼間強く照らしていた太陽は少しずつ傾き、夕日へと姿を変えようとしている。
宿屋の食堂に集まった僕たち、のんびり倶楽部の三人と、リサと三人の盗賊達は黙り込んで座っている。誰一人として口を開かない重たい空気がその場を包み込んでいた。
その沈黙を動揺している僕が破った。
「昨晩の件で、街の一角に甚大な被害が起きたって本当なの? 今日、ギルドへ依頼報告に行ったけど、そんな様子全くなかったよ。街復興の依頼も張り出されていなかったし、いつもと変わらなかったんだけど」
青の勇者は僕の方へ視線を向けた。
「師匠、魔竜が昨夜この街を襲い、街の一区画を破壊したのは本当です。
現時点では被害状況を調査しているので、復興依頼が張り出されるのはもうしばらく後だと思います」
「それにギルドでは街が破壊されたという話題すら耳にしなかったよ」
「それは、冒険者達全員が魔竜との戦闘に参加していたので、わざわざ話す事もなかったのかと」
僕の動揺は更に大きくなる。
自分は何も知らずベッドで眠っていた時に、この街に深刻な危機が陥っていたとは。
「リサや、盗賊達も戦闘に参加したの?」
彼らたちは静かに頷いた。
「ヘイ、姉御の指揮の元オイラ盗賊団と山賊団が手分けして戦闘や避難誘導してました」
リサ達が命がけでこの街を守るため戦っていたのに、僕は一体何をしていたのだろうか。
「マジソンも参加したのか?」
その言葉にマジソンはうつむいた。
「僕は参加してません…。すみません。」
別に彼を責めるつもりは全くない。戦闘に参加する、しないは本人の自由だ。
リサが顔を上げ、小さい笑顔を見せながら青の勇者の方を向いた。
「でも、街の一区画だけで被害が済んだのは、青の勇者様のおかげです。
昨晩の魔竜を退治していなければ、今頃この街は壊滅していたと思います」
しかし、青の勇者は苦悶の表情で下を向いていた。
そして言葉を選ぶように静かに話し始めた。
「実は―――、あの魔竜を倒したのは僕ではありません。
僕の力ではあの魔竜に傷一つ付ける事が出来なかった。
あの時も僕が持つ最大限の力を出し攻撃を仕掛けたのだが、本当なら弾き飛ばされて僕の命はなかったはず。そしてこの街の運命も……。」
リサ達は話の意味が解っていない。
「それって、どういう意味ですか? 実際に魔竜を倒したじゃないですか?」
青の勇者は、最後の一撃と同じタイミングで、まるで攻撃をサポートするかように現れた青い光の攻撃を説明した。
「その青い光の攻撃は師匠が放った攻撃魔法なのです」
リサ達は真実を知り、呼吸や瞬きさえも止まってしまっていた。
「そ、それは本当なのですか?」
僕は頷いた。
「最初にリサと出会った頃、僕のステータスを見てもらった通り、僕はほぼ無敵の能力を持っている。別に隠していた訳ではないのだけど」
そして話を続けた
「転生前、僕が暮らしていた世界は、簡単に人を傷つけるような場面が殆ど存在しない。
本当に平和な場所だったよ。
だから『強大な力』を振るう必要がないし、そんな事はあまり好きではないんだ」
リサは驚きの視線を僕に向け続けている。
「確かに、勇者様は強い力を持っておられると思ってはいました。だけど、そんなに強い力とは」
リサはそのまま上を向き、目を閉じた。そして何かに気が付いたようにまた僕へと視線を向けた。
「勇者様のその力、他に知っている人いませんか?」
「こっそり使ったから他の人にはバレてはいないはず。ただ、青の勇者君にバレた事には驚いている」
「はい、私のレベルになると普段から周辺の気や魔力の変化には非常に敏感になります。
ただ、あの時は、あまりにも一瞬で強大な攻撃力が発生したため、その光が私の真横に来るまで気づきませんでした。
そしてその航跡を辿り、この宿屋の師匠の元を訪れたのです」
流石、最強の青の勇者。今まで経験が僕とは違う。そういう能力を活かし方は青の勇者君の方が優れているんだな。
僕は決心した。
「この力、今後はリサやこの街を守る為に使う事にした。
もう、これ以上危険な目には合わせたくない」
だが、リサは首を横に振った。
「勇者様の力は、国を滅亡させる事が出来るほどだと思います。そんな力を勇者様が持っていると知られたらどうなると思いますか?」
青の勇者は直ぐに答えた。
「利用されるか、討伐の対象となるか」
僕はその話を聞いて心の中に黒い靄が広がるのを感じた。
「どちらも嫌だ。僕は楽しく、そしてみんなと過ごしたいだけなんだ!」
リサと青の勇者は目を合わせ頷いた。
「私も同じ考えです。勇者様は今までのままでいて欲しいです。
だから勇者様の力の事は、この場にいる私達だけの秘密にしましょう」
青の勇者も、三人の盗賊も頷いた。
「意義ありません」
「オイラも同感です!」
僕の表情は笑顔になる。そして心の中の闇も晴れてきた。
そして席を立ちみんなに伝えた。
「そうと決まれば、出かけよう!」
「どこへですか?」
僕はドアの前まで進み、振り向いた。
「街の復興を手伝いにさ!」




