第51話 真の強者とは
新生「のんびり倶楽部」は職人街のドブさらいの作業を黙々としている。
僕は意識を無にしてなるべく目の前の嫌な事から逃れようとしながら作業をしている。
マジソンは楽しそうに鼻歌を歌っている。あいつの人生楽しそうだな。
そして新規加入メンバーの青の勇者君は、スコップですくう作業1つでも大きな意味あると適当に教えたら、全力で作業をしている。真面目だな。
ただ、彼の周りが特殊な状態になっている。
若い女性が集まって熱狂的な声を上げているのだ。イケメン君は違うね。
「そこのお嬢さんたち、少し離れてくれないかな?師匠の仕事の邪魔になっているよ!」
注意された女性は僕を睨んできた。
(おい、青の勇者やめろよ。どんどん僕の敵が増えてしまうじゃないか!)
一方、僕の横でも熱狂的な声が聞こえている。
「にいちゃん、いい筋肉してるね! どこで鍛えているんだい?」
髭面で筋肉質のオジサンに褒められた。
「ありがとうございます。自宅筋トレです」
「そうか、自宅か! でもね、ここの筋肉はね……」
何か筋肉のお友達が出来たみたいだ。でもそこまで筋肉には興味ないから何を言っているのか分からないまま、オジサンは去って行った。
今日の依頼も終わり、報告のため冒険者ギルドへと向かった。
「師匠、今日のスコップ裁き方で学びました。スコップを刺す瞬間と角度、それにより効果が異なるという事。今後の剣捌きの戦闘に活かせそうです!」
「えっ、マジで! そうなんだ。良かったね。」
天才は、何をやっても応用を見つけ出す。
青の勇者を見ていたら何か怖いものを感じてしまった。
冒険者ギルドの事務所に入ると、冒険者の視線が一斉に僕達に向いた。
「流石師匠です。すべての冒険者が師匠を憧れの視線で見ておりますよ!」
(どう見ても、原因はお前だろう。みんなお前を見ているんだよ)
全周囲からの視線のうち、一つだけ冷たい敵意がある視線を感じた。
それは受付の方から来ている。その方向に視線を向けると……。
案の定、黒縁メガネ君だ。
彼は、僕だけを呼び耳元で押し殺したような声で怒号をぶつけた。
「翔馬さん、なぜ青の勇者様と一緒にいるんですか!」
「色々とありまして、僕達のパーティに新規加入する事になりました」
「はっ? 同じパーティに? 翔馬さんはGランクです、マジソンさんはD
ランク。青の勇者様のランク知ってますか?」
「いや、聞いていないけどAランクとか?」
黒縁メガネ君は絶句して肩の力が抜けてしまった。
「何も知らないんですか、彼のランクはSSSですよ!」
それを聞いて驚いた。
「何それ、どれだけレアキャラ?」
黒縁メガネ君はまだ、何か僕を疑っている。
「で、それだけじゃなく、何か隠しているでしょう」
「う、うん。実は彼……、僕の弟子になりました」
黒縁メガネ君は再度固まった。どうやら思考回路が破壊されたようだ。
彼はハッと意識を取り戻し、青の勇者の元へ駆け寄り、小声で伝えた。
「青の勇者様のパーティ加入は問題ございませんが、弟子入り何て冗談なようなことは辞めてください。彼はですね……、」
と言いかけた時、青の勇者の目つきが一瞬にして変わった。
流石この世界最強の勇者だ。目つきを変えただけでギルド事務所内の全ての気配も一気に押さえつけ、騒然としていた事務所内が一瞬にして沈黙へと変わった。
そして耳元で伝えた。
「師匠の悪口を言うのは辞めてください。でなければ……、それ以上は私の口から言わせないでください。」
黒縁メガネ君は顔面蒼白になっていた。
「は、はい」
その後無事、青の勇者君は新規追加メンバーとして登録され、本日の依頼達成の報酬も貰う。
そして何故だか、この間のルビー事件の後始末はまだ残っているはずなのに、今後はもうしなくていいとの事だ。不思議だな?
とりあえず、青の勇者君には何かご馳走してあげよう。そうだ!林檎喜ぶかな?
そしてギルドの事務所から出る時、僕は受付に向かって『ベー』と舌を出して建物を後にした。
「師匠、ギルド事務所での事ですが、何故職員からの酷い言葉に文句を言わないのですか?」
そうだね、僕が原因でいつも黒縁メガネ君からは怒らせているから、心が反応しないんだよって、言いたかったけど、師匠たる者恰好を付けなければならない。
「それは強者の余裕かな?
ゲロゲロうるさいカエルが、いくら僕に嚙みついても、僕は気にも留めないんだよ!」
青の勇者はまた自分の無知を恥じた。
(何て事だろうか、私は強さを周りに誇示して生きていた。でも本当の強者は自分より弱い者には無抵抗で向き合う度量と心の深さが必要なんだ)
僕は青の勇者がまた何か勘違いしている気がしてしょうがない。
青の勇者が言った。
「そういえば、以前の僕のパーティメンバーの一人が毒カエルに噛まれて三日三晩高熱にうなされて寝込んだらしいですよ」
「えっ、まじで? それ怖い」




