第5話 勇者様、ようこそ我が村へ!夢のような歓迎会
今、僕は死んでいる。
もう何杯目だろうか?
途中から数えるのも止めてしまった。
村の広場では、酒と笑いで満ち溢れている。
普段は滅多に食べられない獣の焼肉のご馳走まで振舞われ、村人たちは楽しそうに過ごしてた。
「ほら、勇者様!しけた顔しないで、もう一杯のみましょうよ!」
「あっ、はい。飲ませてい頂きます…。」
ヤバイ、これは完全に転生前のブラック企業勤めの飲み会だ!
会社の先輩との飲み会は思い出したくもないが、体が無意識に反応している。
となりの村人は勇者に語り続けている。
「最近の、若い者は努力が足りん! 直ぐに損得だけを考えて判断する!」
「ですよねーー! 損得だけじゃダメですよね。ごもっともでございます!」
多分これは、この世界史上初、転生勇者が飲み会で村人を『ヨイショ』した出来事であろう。
後日、伝説の勇者を称える伝記の1ページに刻まれる事になるとは、この時は誰も知る由が無かった。
あの時も、会社の先輩の説教ずっと聞かされたよな。あの時は途中で意見されたら殴られたよね。今回はあの経験があるから二度と同じ失敗はしない!
勇者は作り笑顔でその村人に話しかけた。
「あなた様も、なかなかご聡明でいらっしゃる。
そんな方がこの村におられたら、未来永劫繁栄は間違いなしですよ!」
「勇者様もお上手ですね。あっはっはっは! ちょっと失礼トイレに行ってきます」
ご機嫌な村人は千鳥足でトイレへ去っていく。
勇者の笑顔が消えた。
やれやれ、この世界にまで来て飲み会かよ!
しかもゴマスリ態勢が抜けられない。
そう思っていると、肩を誰かが揉んできた。
振り返ると笑顔の村長がお酒を片手に立っていた。
「勇者ちゃん!飲んでる? コップが空ですよ! 遠慮なされずに、ほら!」
やっと空にしたコップに満杯にお酒が注がれた。最初に戻った。
勇者は営業スマイルで話しかけた。
「いやいや、村の方々とお話しさせて頂いたのですが、皆さまご立派で!
もう、この国のどんな大きな町にも匹敵されるほどの人材力!
これも村長様のご尽力あってこそ!
流石でございます!
もう、この勇者、感激で涙が止まりません!」
勇者は涙を流した。
こんな俺にした、ブラック企業よ。絶対に許さん!
村長は上機嫌で、またお酒を注いできた。最初に戻った。
「勇者様、今日是非これを付けてください!」
勇者は手渡されたタスキを装着し、立ち上がった。
その瞬間村人から大きな歓声が上がった。
そのタスキには、このように書かれていた。
「本日の村長」
もう、どうにでもなれ!
村長が立ち上がり、その場にいる全員に語りかけた。
「今日は勇者様の歓迎という事で、勇者様に捧げる、特別な『飲み会コール』いたしまーす!」
村人は拳を振り上げ、盛り上がった。
「うぉーーー!」
「皆ぃーな様――! 勇ぅー者様――! 毎ぁーい日、どぅおーですかぁー!」
「楽のしいでーーす!」
「そんな、毎日の生活はーー?」
「しあわせでーーーす!」
その場にいた全員が声をあり上げた!
「勇―者!勇者!勇者! 勇―者!勇者!勇者! 勇者!」
「勇―者!勇者!勇者! 勇―者!勇者!勇者! 勇者!」
「うぉーーーーー!」
この村独自の「飲み会コール」でテンション爆上げ!
全員の熱い魂が一つになった瞬間である。
勇者と村人は円陣を組み、肩を組む。
歌い、踊り、飲んで、夜遅くまで最高潮に盛り上がった。
最後には、勇者の音頭により万歳三唱で宴は終焉となった。
夜風が吹く広場の芝生で一人涙を流しながら寝転んでいる男がいた。
(これは悪夢だ。もう、飲み会なんて嫌だ)
リサが近づき声をかけた。
「勇者様、今日はかなりお飲みになられましたね」
「はい、死ぬほど飲みました」
「楽しかったですね」
「は、はい。楽しかったです」
リサも一緒に芝生の上で寝転んで星を見る。
「綺麗ですね、この村からはたくさんの星が見えるんですよ。」
「…」
「あの輝いている星の中に勇者様が転生される前の星があるかもしれませんね」
勇者は、無数に瞬く星を見つめていた。
僕は、どの星から来たのだろうか。
きっと、他の星にも色んな世界が広がっているに違いない。
あぁ、僕も飲み会の無い世界に転生したいな。




