第49話 街を救う勇者の姿
郡領都市マーズフォレストは陥落の危機を迎えている。
街の目の前には災害級の魔竜、「覇帝魔竜」が街を睨んでいる。
そして多くの兵士や冒険者そして山賊達が覚悟を決めて睨み続けていた。
「攻撃開始!」
フォルファード侯爵は再攻撃の命令を下した。
第一次攻撃よりも激しい火力が覇帝魔竜を襲う。
しかし誰もがこの攻撃では倒せない事は理解していた。
覇帝魔竜は身動き一つもせずその攻撃を受け続けている。
まるで弱者の攻撃は気にしていないという強者の余裕だろうか。
覇帝魔竜への攻撃は次第に弱くなり、放つ矢・魔力が切れてしまった。
残すは地上部隊の戦力だけだ。
フォルファード侯爵は矢や魔法による攻撃が効かない相手には、いくら剣を突き刺せても勝ち目が全くない事を知っている。そして、その作戦により無駄に兵士を死なせてしまう事も。
だが、侯爵は命令を下す。
「地上部隊、突撃!」
剣を振り上げた兵士は大声で叫びながら覇帝魔竜へと突撃を始めた。
兵士自身も解っている。こんなちっぽけな剣で山のように大きい覇帝魔竜を倒せない事を。
それでも彼らは足を止めない。
少しでも家族が逃げる時間が作れればいいのだ。
並走している見知らぬ兵士がつぶやいた。
「もう、この街からみんな、逃げきれたかな?」
「きっと、逃げ切ったよ」
お互い名前を知らない兵士は笑顔で目を合わせ頷いた。
そして前方に視線を戻すと、鋭い目つきに変わり走り続けた。
「うおーーー!」
監視塔でも侯爵たちが拳を強く握り震わせながら見ている。
「戦闘に参加している諸君、すまない……。これで少しでも領民が逃げる時間が作れる」
フォルファード侯爵が呟いた瞬間、覇帝魔竜の口が大きく開いた。
そして天地を震わせる雄叫びを上げた。
「ゴオオオッーーー!」
あまりの轟音で突撃していた兵士は皆、耳を塞いで立ち止まってしまった。
覇帝魔竜になると雄叫びによる衝撃波の威力は強大だ。
街を守る城壁の一部は破壊され、隣接する住宅の1区画の全てが被害を受けた。
何十という住宅が崩れ潰された。幸い住人は避難しており無事の様だ。
覇帝魔竜の口が閉じると辺りが静粛となるが、巨大樹の様に大きく鋭い片手を振り上げた。
近くにいた兵士にむかってその巨大な腕を振り下ろそうとしたその時、上空から青い光がその腕めがけて放たれた。
その衝撃により覇帝魔竜の腕は弾かれ大きい体がよろめいた。
覇帝魔竜の目の前には青色の鎧をまとい、光り輝く一人の人物が対峙して立っていた。
マルデリア伯爵が叫んだ。
「あの人は一体?」
隣にいるフォルファード侯爵は目を凝らす。そして微笑んだ。
「天は我に味方した! あの方は『青の勇者』様だ!」
リサが尋ねた。
「青の勇者様?」
「そうだ。2年程前、突如この世界に現れた魔王を討伐した、この世界最強の勇者様だ!」
前線の兵士たちも、青の勇者の存在に気づくと歓声を上げ始め、その歓声は戦場全体へと広がっていった。先程まで死地に向い進んでいた兵士達の士気が一気に高まった瞬間である。
今までは住民が避難する時間を作る為の戦いだったのが、今は自分達が生き残る為の戦いへと変わっていく。
青の勇者は聖剣を持ち直し構えなおす。
「魔竜の弱点は赤黒い目。そこにこの聖剣を突き刺せば勝てる!」
そう言い残すと、素早く覇帝魔竜に駆け寄り大きく跳躍をした。
そして、一度腕に飛び乗り強く蹴りだす。
その勢いで一気に目を狙う!
「うおぉぉぉぉー!」
それは一瞬だった。
青の勇者の聖剣が覇帝魔竜の目を捉えた。
その神速の一撃を放った青の勇者は、そのまま地面に降り立った。
少し遅れて音速を超えたその攻撃の衝撃波が周りに轟いた。
覇帝魔竜はうなり声を上げた。
フォルファード侯爵は舌打ちをした。
「チッ、仕留め損ねたか。でも次の一撃であの魔竜も終わりだ!」
監視塔の中にいる人たちも顔を見合わせ喜びの表情になっていた。
だが、青の勇者は顔面蒼白になり、額から流れる汗は止まらなかった。
(あの、攻撃が効かないだと! この聖剣が全く通らない。)
最終跳躍力か、角度か、あるいは加速距離か……
一瞬のうちに全てを検証する。しかし答えは出ない。
そして、ひとつの仮説が脳裏をよぎった。
(…いや違う、そんなはずはない。俺は最強の青の勇者だ。)
だが、それを認めるしかない事は薄々気づいていた。
そう、
――― 青の勇者でも討伐出来ない程、強い魔竜なのだ ―――
再度攻撃を仕掛けないといけない。でも倒すことは出来ない。
だが、この街を守るためには、攻撃をし続けなければならない。
この命が尽きるまでは。
そうすれば、みんなが逃げる時間くらいは作れるだろう。
青の勇者は覇帝魔竜に向かい態勢を整えた。
そして、最大限の覇気を集めると神速で、そして最後の一撃を放った。
覇帝魔竜の目が近づく、この一撃は通用しないだろう。
だけど、己の全能力をこの聖剣の一点に集めて、魔王を討伐した以上の攻撃力でこの覇帝魔竜の目を貫く!
覇帝魔竜の大きな赤黒い目の直前まで近づいた時、青の勇者は叫んだ。
「いけーーーーー!」
聖剣が目に届きそうになったその瞬間、青の勇者の頬のすぐ横を、青い光がかすめて通り越した。その光と聖剣が同時に覇帝魔竜の目を貫いた。
覇帝魔竜は悲鳴あげ、そのまま大地に倒れ込んだ。
そして、完全に沈黙した。
大地に降り立った青の勇者は震えが止まらない。額からの汗もまだ止まらない。
直ぐに、青い光が放たれた方へ振りむき、痕跡を辿った。
その場にいた人々は大歓声を上げた。ついに災害級の覇帝魔竜を討伐したと。
しかもこの世界で最強である青の勇者様が救ってくれたと。
皆、青の勇者の側に近づき称える始めた。
だが、その中で一人、青の勇者だけの表情が硬いままだった。
――― ほんの少し前、宿屋で寝ていた勇者の様子。
(あ、だんだん意識が遠くなる。これで……やっ……と、寝……)
その時である。大爆音とともに部屋のガラスが飛び散ったのだ。
眠りを邪魔された勇者は怒りMax。
窓の外を見ると大きな竜が叫んでいた。
「あの野郎、どれだけ俺の睡眠の邪魔をするんだ!」
僕は目を閉じて、特級魔法を申請した。
そして白目になる。
申請許可、承認!
「こ・れ・で・も、くらえー!」
目を開き竜にめがけて青白い光の力をありったけ放り込んでやった。
青い光が竜の目に直撃すると、悲鳴を上げてくずれ落ちていった。
「ふん!俺の睡眠の邪魔をするのが悪いんだよ!」
僕は、ベッドに横になり、深い眠りへと静かについた。




