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異世界転生チート勇者様、私に惚れているらしく、他の何にも興味がないらしい  作者: よつ丸トナカイ
【第4章】ちょっとだけ、偉くなりました!

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第48話 陥落寸前、郡領都市マーズフォレト

 マーズフォレトの街の中。昼下がりの静かな時間が流れている。

 僕は冒険者ギルドの事務所から拠点にしている宿屋に帰るため、フラフラと歩いていた。



「あぁ……疲れた。眠い。」



 先日の『大量ルビー流出事件』により冒険者ギルドから後始末を無報酬で押し付けられている。しかも3日も寝てないので、このままではぶっ倒れてしまう。




 そんな僕の側を数人の人が駆け足ですれ違う。

「急げ! 間に合わないぞ!」


 あまりにも疲れ切っている僕の耳には、その人達の言葉など聞こえていない。

 何やら少し騒がしいようだが、振り向いて確認する体力すらない。


 その横を街の守衛隊の一団が砂煙を立てながら通り過ぎた。

(あぁ、何かの事件か? 僕は力が出ない。彼らに任せれば大丈夫だろう)


 周りの騒ぎ声の中に、リサ達の声も混ざっていた。

「盗賊さん達は住民の避難誘導、山賊さんは城壁に向かって!

あと、勇者様を早く見つけて!」


(ん?今リサの声が聞こえた気がしたけど……。気のせいか。)





 やっとの思いで宿屋に辿り着いた。

 食堂では、宿泊客の荒れくれ者たちが、のんびりと食事をしていた。

 お腹は減っているが、それ以上に眠い。自然と僕の部屋へと足が向った。



 ベッドの上に横になり、目を閉じると段々意識が遠くなる。

 宿屋の外は何やら騒がしいが、とにかく眠い。


 その時、ドアを叩く音がした。

「もしもし、ご飯できてますが、いかがですか!」


 ベッドから起き上がり、開かない目を擦りながらドアを開いた。

「今眠いので、また後にします……。」


 再び僕はベッドに倒れるように横になる。

そして意識が遠くなり始めた時―――、隣の部屋から大笑いしながら談笑する声が……。


 ベッド脇に脱いだ靴を壁に投げつけた。

 弱々しい衝撃音が鳴ると、隣の声も静かになった。



「本当に、寝かせてくれよ……。」

 もう、気力も限界だ。




 まだ昼間なのか、眠ようとすると何かが睡眠の邪魔をする。

 でも、だんだんと意識が遠くなる……。




 ――― その頃、郡領都市マーズフォレトの城壁では ―――


 城壁の上や前面では多く兵士やギルドから緊急招集された冒険者、そして山賊達が武器を構えて心音を響かせながら立っていた。


 その背後の監視塔では、彼らの指揮官が一同にしている。

 フォレスト地方領領主フォルファード侯爵。

 マーズフォレスト郡領主マルデリア伯爵。

 冒険者ギルドのギルドマスター。

 そして裏組織のリーダ、リサ。


 そこにいる全員が街から見えている山の方向に視線を集中していた。

 しばらくすると山頂に掛かっている雲が流れ出し裂け始め、大きな飛翔体が現れた。


「来たぞ!全員気を引き締めろ!」

 フォルファード侯爵が大声で叫んだ。


 続いてマルデリア侯爵も叫ぶ。

「絶対この街の中に入れさせるな。ここで奴を追い返す!」


 リサも叫んだ。

「この街を救えるのは、ここにいるみなさんだけです。どうか、よろしくお願いします!」



 その飛翔体は周りを見向きもせず、真っすぐこの街に近づいてきた。

 大きい体に漆黒の様な色。街の一区画ほどもある大きな翼。その正体は魔竜だ。

 正確に言うと「覇帝魔竜」。

 魔竜一匹でも500人規模の正規軍と同等の強さなのだが、覇帝魔竜となると一国を破滅させる強さを持っている。

 言い伝えにも出てくる複数の国が壊滅した災害、暗黒の1週間、いわゆる『暗黒の災害伝説』。

 その原因がこの覇帝魔竜とされている。


 フォルファード侯爵は歯を食いしばり、つぶやく。

「まさか、あの伝説の災害がわしの時代に再来するとは……。」


 その言葉を横で聞いていたマルデリア伯爵は拳を強く握り震えていた。

「伯爵、済まないな。足の怪我がまだ完治していないのに防衛に駆り出してしまい」

「侯爵様、ご配慮ありがとうございます。だが、ここは侯爵様より任命を受けた地、命に代えてもお守りいたします」



 覇帝魔竜が街の城壁の側まで近づき、大地に降り立ち地響きがとどろく。

 赤黒い鋭い目で周りを見渡しているその姿はまるで山の様だ。



 フォルファード侯爵は兵に号令をかける。

「遠距離攻撃開始!」



 合図で一斉に矢・長距離魔法が覇帝魔竜めがけて放たれた。

 覇帝魔竜は、何百本もの矢の雨を受け、上空からは電撃魔法、前面からは火竜魔法を浴び続けていた。


 あらゆる轟音や爆音、そして衝撃や熱風が一帯を覆い、大量の砂塵が帝魔竜を包み込んでいる。地面が割れてこの世が終わってしまうのでないかと錯覚するぐらいだ。


 それでも覇帝魔竜への攻撃の手は緩まない。

 あまりにも激しい攻撃なので、遠く離れた街の避難所の中でも子供たちは耳を抑えて震えていたぐらいだ。




「攻撃止め!」

 フォルファード侯爵は命令した。


 覇帝魔竜への攻撃が一旦おさまる。大きな砂塵の中からは何も動きが無かった。

 その様子を感じてマルデリア伯爵がつぶやいた。

「―――倒したのか?」


 覇帝魔竜を包んでいた砂塵が徐々に流され、黒い大きな体が見え始めた。

 全員が息をのんで覇帝魔竜の状態を見守る。

 覇帝魔竜は目を閉じて動かない。


 最前線にいた兵士の一人が叫んだ。

「倒したぞー!」


 その言葉に呼応するように、軍全体で歓声が上がる。

 ここまで地面の揺れが伝わるぐらいの歓喜だ。

 監視塔にいた侯爵や伯爵も笑顔で喜び、リサも緊張が解けて床に座り込んでしまった。




 その中の一人の兵士が、覇帝魔竜に近づいていく。

 仲間の兵士が止めた。

「おい止めとけ、もしまだ生きていて少しでも動いたら巻き込まれるぞ」


 兵士は笑いながら答える。

「大丈夫だって、いくら覇帝魔竜でもあんな攻撃受けたら生きてられないよ!」


 と言った瞬間、覇帝魔竜の目が開く。

 その目は赤黒く、人の血を欲しているかのようにも見えた。

 次の瞬間……。近づいた兵士は最悪の結果となってしまった。



 笑顔が消えたフォルファード侯爵は再度命令を下した。

「全員、再攻撃の準備!」


 マルデリア伯爵も続いて叫ぶ。

「絶対に街の中に入れるな! たとえ我らの命と引き替えでもこの場所を死守する!」


 リサは側にいた盗賊の伝令に涙を流しながら伝えた。

「避難所の住民全員をすぐに街の外に脱出させて。そして一人でも多く生き残って!」


 前線の兵士が再度槍を向けて構えるが、そのやりは小刻みに震えていた。

 その場の全員が同じことを思っていたはずだ。


 ――― もう、俺達ではこの覇帝魔竜を倒すことが出来ない。

 この場所が俺達の死地だ。

 ここに留まり、街のみんな、そして俺たちの家族が逃げる時間を少しでも稼ぐんだ!―――



 その場にいた全員が覚悟を決め、覇帝魔竜を睨みつけていた。



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